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探索 8

 「・・・触らしてくれるって・・・言った」  背後から抱きしめられて、首筋にキスを落とされる。  部屋に戻ったら、ガキが待ち構えていた。  「・・・僕の事件になったから、色々作戦とか考えなきゃいけないんだけど・・・後でな?」  無駄とは思うが言ってみる。  「・・・嫌だ!」    聞き分けのいいはずのガキが怒鳴るように言う。  あ、これはダメだ。  ガキ、キレてる。  それでもシャツの下に潜り込んでくる手は優しい。  優しく胸を撫でさすられる。  そしてその手はいやらしい。  指先が何度も引っ掛けるように乳首をこする。    少し震えた。  背後から胸を撫でられるのは、心地よかった。  優しい、ヤらしい指が、僕の乳首を摘みつぶし、まわす。  「・・・はっ」  思わずでる吐息。  首筋を吸われる。  ピリッとした感覚に、ピクリと身体が震えてしまう。  「・・・ベッドに」  僕は宥めるように言う。  ちょっと冷静になりたかった。  このままじゃ、ガキのペースだ。  ガキの熱量に負けそうになるのが・・・怖い。  怖い?  怖いだと?  この僕が?  「あんたはどこででもかまわずにするじゃないか」  ガキが噛みつくように言って、また僕の首筋に唇を落とす。  いや、ホントその通りなので、反論できない。  「あんたに・・・あんたに俺がどれだけ・・・あんたわかってない」  ガキは怒鳴る。  でも落とされる唇は優しい。  大切にされている。  自分の欲望より、僕を大事にしたいのが伝わってくる。  熱い舌が、優しく、それでも僕を求めるように首筋を舐める。  吸われる感触に震える。  舌も唇も甘く優しい。  怖がられることには慣れている。  僕は殺人鬼だから。  誰もが怯え、震える。  僕の前では。  それが堪らなくいい。  なのにガキはそんな僕を甘やかそうとする。  その腕の中で。    こんなのは知らない。  傷つけることも貪ることも、痛みと苦しみと紙一重の快楽もない。  セックスは食事だ。  欲しいものをうめて、貪り狂う遊びだ。  それは、相手がガキで、ガキがどんなに可愛いくてもそうだ。  欲しくて欲しくて、貪り、食らいつくす。  優しく喰う。    甘く喰う。   貪る。    欲しい。  終わらない餓えを貪る。  でもガキは違う。    ガキにさせる時は違う。  ガキは・・・散々ひどいことをしてきた僕に、それでも優しく与えようとする。  だから・・・マズい。  ガキにさせるのはマズいんだ。  耳を甘く噛まれた。  「・・・んっ」  声がもれる。  いつの間にかリビングのテーブルに押し倒されていたのは僕だった。  ここでガキを押し倒す予定だったのに。  優しく服が脱がされていく、その合間にも、何度も何度も顔に唇が落とされる。  「好きだよ」  その言葉は本当なのだと思わされる。  その目の真っ直ぐさが困る。  撫でられる髪、優しい指。  優しくされる。  甘やかされる。  その優しい指が唇を開けさせ、僕の口の中を嬲る。  夢中でその指をしゃぶってしまう    ガキか生意気にも少し笑った。    腹が立つのに、されるがままになってしまう。  ガキが唇を重ねてくる。  そのキスが優しすぎて、優しすぎて。  辛くなる。  こんな風にキスされたことがあっただろうか。  あったとしてもそれは・・・忘れてしまった過去のどこかだ。  殺して殺し尽くして、貪りまわるこんな僕になってしまう前の失われた過去のどこかだ。  ガキは殺人鬼に優しくキスをする。  まるで、壊れものを扱うように。  思わず、ガキの背中にしがみつき、夢中でそのキスに応えていた。  

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