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嘘つきのメソッド 2
「うーん、悩みでも打ち明けて見ればいいのかな」
俺はスーツに相談する。
いつもの俺達のマンションのダイニングだ。
俺はノートパソコンを前に悩んでいた。
詐欺師と接触する言葉を考えていたのだ。
俺はオトリとして、コイツと接触しないといけない。
SNSのそのアカウントのつぶやきを眺める。
もう、画面に並ぶ文字を見ても、意識が飛ぶようなことはない。
でも、何でだろ、すごくこの人が好きだと思う。
良いこと言ってるなぁ、とか、ああ、こんな言葉好き、みたいな感じで。
「一度入ったら印みたいなもんがのこる。だからある程度は影響を受けるんだとあの男は言っていた。私は洗脳は専門外だ」
スーツは言った。
事件は正式にあの人の事件になった。
つまり、あの人がやりたいようにするってことだ。
スーツ達はサポートになる。
あの人の要求に応えるのが仕事だ。
今は囮になる俺の見張りをしている。
俺が操られたりしないように。
あの人は調べることがある、と出ていった。
俺はあの人の命令で、詐欺師とまずはネット上で接触することになった。
コイツが次の犠牲者をネットで募集しているのは間違いないからだ。
「俺以外にも悩みを打ち明けている連中が結構いる。コイツらが次の被害者候補なのかな」
他愛のない悩みから、結構ディープな悩みまであって、それに対する回答はやはり俺には良い感じの言葉に見えた。
「・・・多分な」
スーツはイマイチ反応が悪い。
「・・・大丈夫だよ。あんたの友達、ちゃんと取り返すから。俺が」
俺は請け負った。
スーツには色々助けられている。
今度は俺が助ける。
「・・・この前も、あんたが何か言ってくれたんだろ、あの人に。でなきゃ、あの人が俺に折れることなんてないもんな、ありがとう」
俺は礼を言っておく。
あの人が俺に大人しく触らせてくれたのは、何かスーツから言われたからだとは思っている。
自分で僕に何かしてやろうとか、思いつく人じゃないのだ。
スーツに言われるまで、人前で俺を犯すことも悪いことだと思っていなかった人なのだ。
「・・・死ぬ程ありがとうと言いたい。何度でも言いたい」
僕はテーブルに頭をこすりつけて礼を言う。
あんな可愛いあの人をみせてもらえたのだ。
スーツ。
大好きだ。
「何があったか知らんが良かったな」
スーツが苦笑した。
「・・・うん。おかげで可愛いあの人が見れた。俺生きてて良かった」
俺はのろける。
スーツは眉をひそめる。
「・・・可愛いねぇ。あの男が」
スーツは顔を振る。
「可愛いんだよ、あの人。内緒だからな」
俺はあの人はいないのに声を潜めて言う。
こんなことスーツに言っているのがばれたら、俺確実にお仕置きされてしまう。
性的に。
でも、可愛い恋人について惚気たい。
惚気たいんだよ。
「・・・あの男が可愛いとは・・・」
スーツはさっぱり分かってくれないようだった。
「・・・スーツはあの人の昔のことは知らないのかな?」
俺はあの人がいない時だからこそ聞きたかったことを聞いた。
あの人は何も教えてくれない「忘れた」しか言わない。
「・・・」
スーツは黙る。
何か知ってるんだ。
「お願い」
俺は頼む。
知りたいんだ。
あの人は挿れられるのを嫌がった。
「そこですることを望まれていたから絶対に嫌だ」と。
それはあの人の過去の話だ。
俺には教えてくれない過去の。
「・・・私達にもあの男の過去は謎なんだ。・・・でも」
迷ったようにスーツは言った。
俺はスーツを見つめる。
教えてスーツ。
俺にはあの人しかもういない。
元いた世界には戻れない。戻らない。
だから、あの人だけなんだ。
「・・・何の根拠もない話だぞ。数ヶ月前、関西でさわぎがあって、結果10数人の高級娼夫が保護された。監禁されて、いたらしい。噂は前からあった。生きたセックスドールがいる、と。権力者や有数の資産家しか相手しない。全員信じられない位の美形の男で、人間ではないと。生きている人形なのだと」
スーツの話は良く分からなかった。
「生きている人形?」
俺は聞く。
「アジア全域で活動している組織が・・・工場で人間を育成していると。クローン技術などを使って。だから彼らは何種類かの種類はあるけれど、同じ顔をしている、と。でも、確かに三つ子なのが四つ子なのか分からないが、保護された青年達は同じ顔をしていたそうだ。だが四つ子が三組もいるのは奇妙だと保護した警察官達は思ったらしい。そして、そのうちの一組の顔があの男に似ていたと噂になった。我々は警察ではないが、警察出身者もいるし、警察とも関わりが深いからな。受けるイメージは随分違うが、あれだけ綺麗な男はそういないから、一度見たら忘れないからな。似てると。似すぎていると・・・それだけの話だ。何の根拠もない」
スーツは話を終えた。
「ただあまりにもあの男が存在した痕跡はない。あの男は高い教育と相当な訓練を受けている。でも、それだけのものを学べる場所のどこにもあの男の存在した痕跡はない。あれだけ目立つ男が過去に存在したことを誰も知らない。だから我々は少なくとも、あの男は闇に生まれた子供達の一人なのだろうと思っている」
生まれたことすら公的な記録には残されない子供達。
公式に存在しない子供達。
何かの目的のために育てられる。 そう言う子供達は確かにいるとスーツは言った。
「結局のところ、何もわからないんだ」
スーツはそう言った。
セックスドール。
「そこですることを望まれてきた」とあの人が後ろに入れられるのを嫌がったことを思い出す。
闇に生まれた子供達。
「・・・保護された人達は?」
俺は聞いた。
なんとなく嫌な予感がした。
「全員自殺したと言う噂だ。彼らが監禁されていた理由の一つが自殺させないためだったらしい」
スーツは言った。
すべて噂だ。
そう言う事件はあったけれど、あの人と関連があるからわからないと。
「そうか」
俺はそうとだけ言った。
闇に生まれた子供達。
たまにあの人は自分を人間ではないかのように、言う。
それはあの人が捕食者になったからだと思っていた。
多分違う。
あの人は自分が人間だとは思っていない。
あの人は自分が人間が弄ぶために作った人形なのだと思っている。
だからあの人は全く人間に共感や同情を持たないんだ。
自分に共感や同情を人間が与えなかったから。
・・・色々附に落ちた。
「・・・そっか。ありがとう、スーツ」
俺は泣きそうになったから、そう言うのだけがやっとだった。
あの人がしていることを、あの人が人間を虐殺してきたことを正当化はしない。
でも、あの人が人間に対して同情や共感など持つはずがないことを理解した。
そして、今。
それでもあの人は、時にその身体をボロボロにしながらも、捕食者相手に戦っている。
人間の為に。
闇に生まれた子供達。
誰も救わない子供達。
人間の欲望のために引き裂かれる。
グレてた頃、先輩に連れて行かれた居酒屋で、隣の席おっさん達がエロ話をしているのが聞こえた。
デカい声でしていたから。
自慢気に東南アジアの国で未成年の女の子を買った話をしていた。
吐き気がした。
挙げ句その男は言った。
「俺は貧しい奴らを助けてやっている。俺が金を払ってその子とやるからその子達は生活できるんだ」
汚い笑顔だった。
本気で言っていた。
子供達はそのおっさんには使用すべき道具でしかなかった。
先輩と一緒に店そのおっさんを店から引きずり出して殴った。
それで良かったと思っている。
でも一人殴ったところで。
何も変わらないんだ。
「・・・俺たまに、人間は滅んでもいいんじゃないかって思ってしまうよ」
俺は小さくつぶやいた。
「それは君を監視している私に言うべきじゃない。・・・聞かなかったことにするぞ」
スーツの大きな手が俺の頭を撫でた。
その手は優しかった。
いい人だな、そう思った。
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