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嘘つきのメソッド 3
「で、悩みはどうするんだ」
スーツが聞く。
「ん。大好きな恋人がいるんですが、最後までさせてくれません。どうすればいいですか、にする」
俺はキーボードでそのアカウントに送るメッセージを入れる。
「・・・最後までしてない?・・・ああ、なるほどね」
スーツが複雑な顔をする。
スーツの中では俺があの人を抱くっていうのか、俺が誰かを抱くって言うのがイマイチ納得出来ないらしい。
まあ、最初からスーツ達にはあの人に抱かれてるのを知られているわけだし。
この前の捕食者退治の後、あの人が抱き潰した俺をマンションまで運んでくれたのは、スーツだし。
でも、俺は元々抱きたい方なんだぞ。
「それが一番の悩みか?」
スーツは不思議そうに言う。
何を言う。
こっちはあの人とすることにそれこそ命すら賭けている。
ムッとした顔をするとスーツは少し笑った。
スーツは笑うとちょっといい男になる。
何の変哲もない顔が、変わる。
こういうところにスーツの友人は惚れたのかな、と思った。
「スーツ、俺もね、すごく仲のいい女の子がいたんだ。大好きだった」
俺はスーツに言ってみる。
「ん?」
スーツは突然始まった俺の話に面食らう。
「俺のことすごく好きになってくれてね、気も合うし、本当に良い子で、大好きで。・・・でも俺、その子と出来なかった。どうしても出来なかった。抱けなかった。勃たないんだ」
男が好きなことを隠していた、あの日々。
女の子達とも付き合った。
女の子達は嫌いじゃなかった。
胸を触るのも抱きしめるのも。
でも、俺が勃てていたのは、俺の隣りで女の子に突っ込んでいる仲間の男の尻や喘ぎ声や、裸の胸にだった。
女の子達とは軽く触る以上のことは出来なかった。
大好きだったその子とも。
この子を本当に好きになれたらな、って思いながらも。
「・・・そういうのは、気持ちでなんとかなるもんじゃないよ。だからスーツは友達を抱けなかったこと、気にしなくてもいいよ。友達もわかってるよ。俺達ゲイは慣れてるし、良くわかってるんだそういうの」
俺は言った。
ずっと言いたかったのだ。
欲望って何だろう。
あの人を見る度に身体があの人を欲しがる。
手を伸ばしたい。
奪いたい、くらいつくしたい。
そして、感情が来る。
甘やかしたい。
優しくしたい。
仲の良かった女の子にはあんなモノは感じなかった。
好きだった。
優しくしたかった。
でも、その身体を奪いたいとは思えなかった。
「・・・友達もわかってるよ。好きになりたくてもそういう風には好きになれないのは仕方ないことだよ」
俺はスーツに言った。
スーツが気にしなければいい。
好きになれないのは、何の罪でもないからだ。
それは悲しいことだけど。
俺にだってわからないのだ。
何故あの人なのか。
初めて見た時からどうしようものなく欲しいと思っのは何故なのか。
この欲望はどこから来るんだろう。
でも、それが自分ではどうにか出来るものじゃないことを俺は知っている。
スーツはまた柔らかく笑った。
「・・・ありがとう」
またスーツに頭を撫でられた。
俺、もうガキじゃないんだけどな、あの人にガキガキ言われてるけど。
「・・・どこの女だ。お前にちょっかいかけていたのは」
すごく冷たい声がした。
スーツが慌てて俺の頭から手をひいた。
室温が明らかに三度はさがった。
めちゃくちゃ怒っているあの人がいた。
なんでだよ。
なんでだよ。
あんたに会う前の話だろ、てかどこから聞いてたわけ。
何立ち聞きしてんだよ!!
「その女に触ったのか?」
あの人はずかずか俺の前に来ると、俺の顎をつかんで顔をあげさせた。
顔がうごかせない。
視線をそらさせてもらえない。
めちゃくちゃ怒ったあの人の目が怖い。
ガラスみたいに光っているのに、温度がない。
「えっと・・・はい」
俺は答えた。
スーツがため息をつく。
いや、俺嘘なんてつけないし。
「どこまでした。どこまで触らせた、触った」
あの人が乱暴にズボンの上から俺の股間を掴みながら言った。
さすがにこのシュチュエーションでは全く勃たない。
てか潰されそうで怖い。
「ちょっとキスして、服の上から胸をもみました」
正直に申告する。
ゲイの俺にはたいした意味もないのに!!
・・・一応付き合っていたけど・・・好きだったけど。
彼女では無理だった。
可愛くて愛しくても、そうならなかった。
ならなかったんだって。
「・・・その女の名前は?」
あの人が強く握り込んだので俺は悲鳴をあげた。
潰す気だ。
してんのも見たことあるし。
名前聞いてどうするんだよ。
「殺す」
声に出してはないのにあの人はこたえた。
本気だ。
「・・・お前は僕のだ。僕だけのだ。過去に誰かの物であったことも許さない」
異議は許さないと、その目は言っていた。
高校生らしくちょっと付き合っていただけだぞ。
すぐに別れたし。
俺が彼女に応えられないのに耐えられなくて。
それに過去って変えられないだろうが。
「その女を殺してしまってお前が忘れたら過去などきえる。人が覚えているから過去は存在するからな」
あの人が怖いことを言った。
何、その怖いタイムマシン、そんな過去のけしかた俺が読んだどんなSFにもなかったよ。
本気だ。
本気で言ってる。
呆れて、怖いと思って、そしてどうしようもないな、と思った。
「・・・あんたのだよ。あんただけだよ。だから心配しなくていい」
俺は言った。
俺はそこを掴まれたまま、座ったままあの人を抱き寄せてしまった。
こんなとんでもないことを本気でしようとしているこの人が愛しいと思ってしまった。
あの人の顔を胸に押し付ける。
「その子があんたから俺を取り返しになんてくることはないし、俺がその子の元にあんたを置いて行ったりしないから。誰もあんたから俺を奪ったりしないよ・・・」
俺は優しく言って、膝に乗せるように抱えたあの人の背中を優しく撫でた。
嫉妬と恐怖。
この人は怖がっている。
「俺はあんたのだから、それは変わらないから、大丈夫だから」
俺はあやすように言った。
あの人は大人しく俺にだかれていた。
「大丈夫だから」
優しく念をおすように囁くと、あの人は俺のを潰すべく握っていたそこから手を離して、俺の肩にそっと指を置いた。
顔は見せてくれないが、大人しく胸に顔をうずめてくれている。
背中を撫で続けた。
ちょっと落ち着いてくれた。
スーツが驚いたような顔をしている。
こんな可愛いあの人を見せるのが腹立たしい。
でも可愛い。
可愛い。
本気で俺のを潰して(治るけど)俺の昔の彼女を殺そうとしてたけど、可愛い。
そんな俺が一番どうかしてる。
その時、メッセージが届いたことを示すアラームがパソコンから鳴った。
詐欺師からのメッセージだ
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