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嘘つきのメソッド 5
男が部屋を出て行った。
嘘つきも玄関まで男を送る。
オレは散々されて疲れ切った身体をベッドに横たえたままだ。
でも、俺は知っている。
まだ、終わりじゃない。
嘘つきがあの男を連れてきたのは一週間前だった。
巨体の男。
でも見た目的にはそれほどヤクザな臭いはしない。
むしろ、軍人のような臭いがした。
訓練された男だ。
でも真っ当な仕事じゃない。
服を脱ぎ捨てた身体にはフランス語のタトゥーなどが入っていて、オレは納得する。
傭兵か何かだ、コイツ。
そしてプロフェッショナルだ、殺すことなどの。
見も知らない男はオレを見るなり、膝をつき、泣き叫び、それからオレに飛びついて、本当に骨が折れるほどに抱きしめた。
肋骨が何本も折れた。
すぐ治るけど。
そこから知らない名前で呼ばれながら、この部屋で抱かれた。
服を脱がす指も泣きながら落とされる唇も、こすりつけられる男のモノも、熱く、ただオレを求めているのがわかった。
ワケもわからないまま、オレは狂気のような激しさと、何度となく落とされる涙と、叫ぶように伝えられる愛の言葉に身を任せた。
そうするしかない。
オレは嘘つきに逆らえないのだ。
嘘つきはこの男にオレを抱かせたいのだ。
構わない。
誰に抱かれても同じだからだ。
アイツ以外は。
そして、アイツはオレを抱けない。
だけど、男の熱さにオレも狂った。
あまりにも男がオレを愛したから。
いや、オレじゃない、男の目にはそう見えている誰かを。
愛しすぎて震える指とか、こんな大きな厳つい男がオレの胸に頬を擦り付けて泣くとか、狂ったように叫びながら突かれるとか。
何もかもが、激しくて甘くて切なくて。
違う名前で呼ばれながら、その名の人のように抱かれた。
男の要求に応えていくうちに、自分が名前の主になった様な気がしてきた。
男に貪られ、オレも男を求めていた。
嘘つきは部屋の隅で椅子に座りそれを無表情に見つめていた。
この男の目にはオレがその男の死んだ恋人に見えていること。
そして、男が、死んだ恋人と会うことを引き換えに何らかの約束を嘘つきとしたことは、男相手に乱れながらも、それでも何とか推測できた。
嘘つきがこの男にオレを違う誰かであるように思わせていることはわかった。
嘘つきは全く違う姿であるように見せることができる。
それはオレも確認している。
潜入したセミナーで見た姿と、殺戮が終わった後の姿はあまりにも違った。
嘘つきは男に、死んだ恋人の姿にオレを見せているのだ。
嘘つきはオレを見ていた。
温度のない、でも、執拗な視線。
アイツが見ている。
男の唇がもう尖ったオレの乳首を咥え、舌で舐めながら吸うのを。
両脚を押し広げられ、男がそれをゆっくりとオレの中に入れていく。
それが欲しくて欲しくて、自分なら腰を振りながら迎え入れていくオレの浅ましい姿を。
自ら唇をだらしなく開けて、キスをせがむ姿。
男に命じられるがままに淫らな言葉を口にする姿。
男のモノを咥え育てながら、待ちきれなくて自分の穴を自分で弄り、口に出されながらイク姿。
嘘つきはそんなオレを見ていた。
ずっとずっと、オレの口から零れる涎、迸る雫、止まらない涙。
そんな雫の一つ一つさえ。
全てが執拗に見られていた。
男に抱かれ、愛されながら、オレはその視線に怯え、乱れた。
熱のない視線は氷で愛撫されているようだった。
すべて見られた。
男と繋がるその場所が戦きながら、出し入れされる度に蠢く様子を。
男の舐める舌をもっと感じたくて、男の頭を胸に押し付ける指の震えまで。
男の熱さと同じ位、オレを焼いた。
そして、初めて男に抱かれた日も、男が出ていった後・・・・、そして今日も・・・。
部屋に嘘つきが戻ってきた。
隙一つ無いスーツ姿のままで。
髪の毛一筋の乱れもない。
コイツの乱れる姿はベッドの中だけだ。
オレは穴から男のものを垂れ流しながら、グチャグチャのシーツの上で、男の痕を全身につけてだらしなく寝そべっていた。
嘘つきの唇が上がった。
綺麗な微笑みだった。
嘘つきは上着を脱ぎ捨てた。
上等なスーツは床にくしゃりと落ちるが嘘つきは気にしない。
ネクタイを緩めながらオレに近寄ってくる。
もう何をされるのか分かっているオレの身体は勝手に震える。
オレの意志とは反対に、喜んでいる。
アソコが固くなっているのがわかる。
穴がひくつく。
ベッドに来るまでに上半身を脱ぎ捨てて、嘘つきはゆっくりとオレの上にのしかかっていた。
細身のでも、綺麗に筋肉のついた身体がオレの汚れた身体と重なる。
滑らかで清潔な肌が、オレの精液と汗と唾液に汚れた身体と重なる。
「やめろ・・・」
オレは悔しくて泣く。
こんなに好きにされて。
こんなに乱れて。
オレは苦痛でも屈辱でも耐えてきた。
それなら耐えられるいくらでも、誰も本当のオレには触れはしないから。
なのにコイツは快楽と優しさでオレを刻んでいく。
本当のオレに触れようとするのだ。
コイツの綺麗な指が優しくオレの涙をぬぐった。
そしてアイツは綺麗に笑った。
優しい笑顔だった。
見ている間は温度のなかった視線は今は優しく暖かい。
いたわるように抱きしめられる。
コイツの綺麗な手はそっと、背中を撫でていくオレ慰めるみたいに。
その暖かさに、優しさに、すっかり馴らされた身体はほどけてしまう。
優しくされるのに慣れてしまって、身体をすりよせてしまう。
あの男は優しく激しくオレを抱いたけど、オレの身体を愛してくれたけど、だけど、だからこそ傷ついた心をコイツが慰めるのを知っているから、身体はアイツになつく。
「 」
優しくオレの名前を呼ばれた。
オレの名前だ。
知らない誰かの恋人の名前じゃない。
「 」
また呼ばれる。
抱きしめられる。
抱きしめられているのはオレだ。
オレなんだ。
それでもオレは目を閉じる。
嘘つきの嘘が見えないように。
「愛してます」
その言葉は優しく響いた。
誰かの代わりにではなく、オレに向かって囁かれた言葉に、オレはまた泣いた。
これが嘘でも・・・そこ言葉が欲しかったのだ。
そう言われたかった。
嘘でもいいから。
代わりは嫌だと。
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