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嘘つきのメソッド 6

 激しく愛され抱かれて、乱れまくったその後に、それが自分ではない他人へのものであることを思い知らされるのに耐える。  オレのセックスは最初から誰かの代わりでしかなかった、そんなことなんて考えたくない。  優しくされたら誰にでも感じる身体が嫌だ。  だから酷くされたい。  酷くされたら心は痛まない。     なのに。  目を開けて嘘つきをみる    こんな酷いことをする、オレの気持ちを踏みにじる嘘つきを。  優しい目でオレを見ていた。      聖人の顔、優しさに溢れた目。  ドロドロに汚れた男にむけられる慈悲。  思いつくイメージに笑えた。  背中を撫でていた指が背骨をたどり、腰をなぞり、さきほどまで男を咥えていたそこに行き着いた。  また男のものを零しているそこに指がそっと入っていく。  散々擦られひろげられ、嬲られたそこは、敏感になっていて、そんな優しい侵入にも感じてしまった。    「よせ・・・もう、無理・・・」  オレは小さな吐息を吐き出しながら言う。      指を動かされれば、沢山出されたものが零れた。    「・・・随分出されましたね」  嘘つきが言う。  事実の確認だ。  もうコイツのことはわかってきた。  コイツは単に事実の確認をする時や、尋問をする時だけは嘘をつかないが、他の全ては嘘でしかない。  そこまでして嘘をつくのは、  「嘘しかつけない」からだ、おそらく。  この男は嘘しかつかないのではなく、おそらく、嘘しかつけない。  髪をまさぐらなければ分からない、髪にかくされた傷跡は明らかな手術の跡て・・・・。  この男は何らかの理由で、脳に損傷がある。故意にか、手術の結果の後遺症なのかはわからないけれど。  ずっと作り話をし続ける症例ならある。  何かが脳に起こっているのだ。  だが、捕食者になれば身体の傷は癒えるはず。  ならば先天的なものか?  じゃあこの脳の縫い痕はなんのために?  でも分かっていることは、事実の確認と質問と言う形をとらないと、男は嘘をつくとこしかできないのだ。  脳に損傷を受け、言葉を話すことが出来なくなった人が、歌と言う形でなら言葉が出てくるのは良く知られた事例だ。  それに似ている。    男は嘘しかつけない。  嘘しか話せない男が詐欺師であることの奇妙さ。  「私ので掻き出して、私のをここにたっぷり注いであげますね」  そうする事実だけを嘘つきは優しい声で囁いた。  そして唇重ねられ、口の中を貪られた。  「・・・あの男の味がする」  事実。  「私の味にかえてあげます」  決定した事実。  激しいキス。  男の痕跡を残さないようなキス。  オレは必至で応える。  オレを欲しがって。    ほかの誰でもないオレを。  「・・・あなたは、優しく愛されたい。優しく愛してくれるなら・・・誰でもいい」   事実だ。  ああ、そうだ。  オレは優しくされたい、愛されたい、誰でもいい。  アイツじゃないならだれでもいい。  でも一瞬、嘘つきの目が苦しげに見えた気もした。  「私のだけで、ここをいっぱいにしてあげます」  脚を押し広げられ、押し入れられた。  何度も何度も男の侵入を許したそこは、あいつのモノを喜んで受け入れた。   「違う・・・さっきっと違う・・・ん、いい」  快楽に溶けた脳が口走らさせる。  アイツのは男のと、また違ってて、良かった。  自分のアバズレ加減をごまかさないで言えば、もう100本以上はそこでくわえ込んできた。  でも、コイツのが一番ここに長く、多く入ったせいか・・・オレの身体はコイツのが好きで、うねりながら受け入れる  この熱さが、形が、硬さが、好き。  オレは自分で腰を動かし、それを味わう。  「好き・・・好き・・・コレ好き・・・好き!」  身体のパーツ位しか好きと言えないが、でも確かに好きで、オレは叫ぶ。  とたんに、オレの中でアイツが大きさを増した。  アイツが苦く笑った気がした。  「他の人の形に開かれてますね。作り直します。私に合うように」  これも単なる事実の報告。  男の出した精液を掻き出すようにアイツは動いた。  響く水音。  「たくさんたくさん出してあげます、私ので」  そうするという事実をつげられる。  そして、オレはコイツに馴染むように作り替えられていく。  オレの好きな角度、オレの好きな強さで突かれ、回される。  オレの好きな風に乳首弄られる。  オレは、そう、そんな風に優しく軽く吸われるのが好き。  甘く噛まれるのが好き。  あの男が死んだ恋人に作り替えたオレを、コイツがちゃんとオレ自身に戻してくれる。  誰でもないこのオレを、コイツは、この嘘つきは抱いていているのだとお思い知らされる。  他の誰でもないオレを抱いて。  オレを求めて。  誰でもいいから。  オレは目を閉じる。  ここからアイツが囁く言葉が青く見えないように。  もう限界な心を守るためには、その嘘が必要だから。  「    」  コイツの優しい声  優しくオレの名前を呼んで。  何度でも。     「愛してる」   そうささやかれ続けた。  コイツの形に完全になじまさせられ、何度も何度も、そこで吐き出された。  男の精液で汚れていた身体に嘘つきは精液を直接かけさえした。  出なくなるまで出さされた。  出なくなってもイかされた。  沢山キスされた。  もう、キスはコイツの味しかしない。  もっと奥を舐めて欲しくて、自ら舌を突き出した。  -番奥を舐められた。  求められるまま、嘘つきの口の奥も舐めた。  舌を甘く噛まれ、吸われた。  穴の一番奥で出された。   男がガンガンに突いたそこを、じっくり嬲られた。  男はオレを甘く串刺しにしたけれど、嘘つきは中からオレをゆっくりと甘く、食い破っていった。  侵入し、ゆっくり身体の中から喰われた。  喰われていく度、そこは甘く溶けていった。  オレはドロドロに汚されていて。  でもそんなオレを厭うことなく嘘つきは抱き続けた。  汚れる度に嘘つきは喜んだ。  目を閉じ続けた。  嘘が青く見えないように。  「愛してる・・・オレのだ、君は」  最後に丁寧な言葉遣いを捨ててささやかれる。  嘘。  全部嘘。  でも生き残り、コイツ逃げ出すためには、心をそんな嘘でも使っていいから休めてやる必要があった。  今だけ、今だけ、目をつぶって、嘘にオレは酔いしれた。                

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