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嘘つきのメソッド 8

 「あ、すごい納得する・・・」  少年は詐欺師からのメッセージを読んで頷いていた。   「絶対この人良い人だよ」  少年は感動したように言うが、相手は詐欺師だ。 しかも捕食者だ。  良い人のはずがない。  「僕はお前を世間から隔離している事が正しいとこれほど思ったことはない」  男は憮然として呟いたが、それはわかる。  少年一人世間に放り出したら、あっという間に身ぐるみはがされるだろう。  男は少年に子供みたいに抱きしめられていたのが嘘みたいに、平然と少年の隣りの椅子に座りディスプレイを眺めている。  あの男が、あんな風になるなんて。  少年がまあ、なんだ、本来は抱きたい方であるのは聞いてはいた、本人から聞いてるし、男からも聞いてる。  でもまあ、こちらは、色々と色っぽい姿を見てしまっているわけで・・・  少年には絶対に知られないようにしているが、「オレ、男でもイける気がしてきました」と思わず呟く部下もいるわけで。  その上、あの男の鬼畜っぷりも良く知っているのだこちらは。   白昼の公園で男が少年を公衆の面前で犯していた報告を受けたこともある。  結果、少年に激怒され、男はそういうことを控えるようにはなったけれど。  あの男がこの少年にというのは、ちょっと・・・想像がつかない。  少年はいわゆる女性的なタイプでもないし、身体も身長も男よりは大きいけれど・・・でも、あの男が抱かれるというのは想像がつかない。  まあ、あんな風に少年にあやされる姿も想像がつかなかったわけだが。  少年、よりにもよって、あんな怖いのを、としか思わない。  捕食者である前から化け物だった男だ。  この世界に生まれたモンスター、人をいたぶり殺すことだけが全て。  皮膚を剥がし、身体を刻み、臓器を抉る。  想像できる限り最悪な死を与える、死神。  良く抱こうと思うものだ。  確かに美しい男ではあるけれど。  それ以上に血と残虐さが隠しきれない程に匂い立つ。  少年は・・・いい子だ。  うちのチームの全員が彼が好きだ。  我々が彼を男へ差し出したのだけど。  まあ、君がそれでいいなら。  思うのだが。  とにかく、少年と男の関係が良好であり、結果男の精神が安定し、我々に協力的であってくれるなら、こちらとしてはなんの問題もない。  問題ないのだが。  私も返信されてきた詐欺師からのメッセージを読む。  少年が感動するほどの言葉とは思えない。  「何故相手が最後までしたくないのかを、考えてあげて下さい。何が怖いのか、そうすることで何を失ってしまうと思っているのか、それか怖いのは何故なのか。そして、その恐怖を取り除いてあげて下さい。そこからではないでしょうか」  といったような。    「恋人が最後までさせてくれない」  その少年の悩みへの回答がこれだ。  まあ、そうだろうというようなことしか書いていない。  そこまで少年が感動する理由がわからなかった。   「・・・入ってるんだよ。ガキの中に。言葉はもうそれ程意味はない。お前は完全に捕まっている。お前は囮が終わったら、今回はおとなしく待ってろ」  男は最初の部分は私に、最後の部分は少年に言った。  なるほど。  最初に文字が目に入ったあの時点で、少年は軽い洗脳状態にあるのか。  「おまえは、この詐欺師に好感を持ってしまっている。それはつまり、コイツが何を言っても良いものに感じるようになってしまっている。その上おまえはこの男に秘密を話した。極めてプライベートな他人には出来ないような話だ。また一つ、詐欺師はお前の心に侵入した」  こうやってやりとりをして詐欺師は被害者達に入っていったのか。  「まあ、今回の相手はある意味いちばん恐ろしい奴だが、物理的な攻撃はしてこない分、ガキ、お前は今回囮が終わったらお役ごめんだ。お前は戦闘以外では役に立たないし。今回は頭脳戦だからな」  男は言った。  戦闘以外では、か。   いつも、少年を容赦なくボロボロにし、駒のように使うくせに。  これだけ可愛がっているのに、あの容赦のなさは何だろう。   だが、今回は少年を外すのは賛成だ。  この素直で信じやすい少年は、詐欺師とは相性が悪すぎる。  詐欺師を引きずり出したら、少年には終わるまで待っていてもらおう。  男の余裕は理解できた。  今までの捕食者は男を殺すことが出来た。  だが、今回の捕食者は男を殺す手段を持っていないのだ。  捕食者を殺せるのは捕食者だが、今回の捕食者はそれが出来ない。  詐欺師は男を消し去る手段を持っていないのだ。  今までの捕食者をは何らかの形で、男を消し去ることができた。  「金髪」の「相方」だけは捕食者では無くしてしまう、植物化する能力だったが、結果は同じだ。    「別に僕は、お前を喜んでいつもいつも酷い目にあわせているわけではないんだ」  男はむすっとした顔で言った。   「知ってる。・・・俺が望んだから正義の味方でいてくれてるんだろ。俺の大事な人達を守るためにあんたは何でもするんだ。どんなに俺が傷付くのが嫌でも。あんた、人に自分のもん触られるの大嫌いなのにな。・・・全部俺のためだろ」  さらりと少年が言ったので驚いた。   そういう考え方はなかったからだ  でも確かに。  暴力や殺人がセックスと同じ意味を持つこの男が、他人に少年を刻ませたいはずがないのだ。  「それだけ、俺を思ってくれてんだろ」  しれっと少年は言ってのけた。  そうなのか、と驚いた。  男が人間のために捕食者を狩っていることは、少年には殺人鬼である男を受け入れるための絶対的な理由だった。  男は殺すことを止めれない。  残虐さを楽しむことも。  少年はそれを手助けし、黙認する。  でもそれは、男が正義の味方でいてくれるからだ。  彼が愛した人々を、守ってくれるからだ。  少年は男が少年を過酷に使うことを受容している。  男がどんな手段を使っても、捕食者を食い止めている限り、彼の世界を守ってくれているかぎり、少年は男を受け入れられるから。  少年がこの酷い男を愛するためには正義の味方で男がいてくれることが必要で、男は少年に受け入れてもらうためには捕食者をどんな手段をつかってでも倒すことが必要で・・・。  少年をボロボロにしてでも行われる男の作戦は、男にとって少年をつなぎ止める手段だったと初めて私は理解した。  「愛されてるよな、俺。あんた言ってくれないけど」  しれっと少年は言った。  「・・・・・・」  何も言わない男を不思議に思って、私は男へ目をやった。  目を見張る。  真っ赤になっているあの男をみることなどあるとは思わなかった。  少年に怒られるからしないだけで、やろうと思えばこの場の私の目の前で、少年を犯すことも顔色一つ変えずに出来るような男が。  少女のように真っ赤に顔を染めている。  「う、うるさい・・・」  しかも否定しないで、小さく怒るとか。  これは、誰だ。  「犬、何見てる!殺すぞ!!」  男が怒鳴った。  八つ当たりがきた。  私は焦る。  この男は八つ当たりで人を殺せる。   「とにかく、なんて返事すればいい?」  少年が話題を変えてくれた

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