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クロスゲーム 1

 それは奇妙な光景だった。  嘘つきはスマホやノートパソコンなどを15台ほど机の上に並べていた。  全てが薄暗い部屋の中で起動し、仰いだ光を放っていた。   嘘つきはその綺麗な顔に微かな笑みを浮かべたまま、椅子に座りピアノでも弾くかのように宙に指先を遊ばせていた。  それらの画面はだれも操作していないのに、スクロールされ、文字が勝手に打ち出されていく。  並べられた文字が次次と送信されていく。  時折青い文字が画面を飛び出し、嘘つきの前に並ぶ。  嘘つきはそれを指でなぞる。  文字は違う形に姿を変えて、また画面の中に戻り送信されていく。    青く光る文字。  悲しみとか死にたいとかが画面から飛び出す。  嘘つきは優しくその文字を撫でる。    大丈夫、一人じゃない。  そんな文字に変わっていく。  オレは嘘つきが何をしているのかを大体把握した。  この男は1対1で向き合って精神を操作するかわりに、ネットでそれを行うことに成功したのだ。  男はネットに入り込み、生身の身体では一度では会えない人間達をまとめて操作し始めたのだ。  どうやっているのかはさっぱり見当もつかないが、この男が今こうやって、15台の端末から人間の精神にアクセスしているのを見てしまっているから信じないわけにはいかない。    青い文字達は画面から飛び出し、悲鳴を上げ続ける。    助けて 助けて  苦しい 苦しい  生きていくのがつらい  一人は嫌  なぜ私だけ  もう、どうにもならない    それらすべてが優しい言葉になって画面の中に返されていく。  薄い暗がりの中で、嘘つきはそっと微笑む。    その優しげな顔は  嘘をつくようには見えない。    その指先が紡ぎ出す言葉は優しくて、  嘘には見えない。  でもこの男は嘘つきなのだ。  だけどその光景は美しくてオレは見とれてしまった。    青い光の文字は踊り、嘘つきは優しく文字を爪弾いていく。  キラキラしたような音が鳴り響き、画面から溢れ出てくる悲しみを光に変える聖人のように、嘘つきは見えた。  でもすべては嘘。  嘘なのだ   嘘つきに連れられて外に出た。  どうせ逃げられない、と言うか、逃げる気がしない。  これが意志を縛られるってやつか。  オレは嘘つきの留守中にやれるだけのことをやってみた。  メッセージは送れた。  気付いてくれればいいが。  嘘つきは気付いてないとは思う。  多分。  分からない。  コイツの考えることは何一つわからない。  そして今も何を考えているのか全くわからない。  でも、オレは車の助手席からの眺めを楽しんだ。  閉じ込められて、セックス三昧だったのだ。  どこへ連れて行かれるのかも分からないけれど、海が見える道を走っているこの光景は悪くない。  てか、最高。    本当に密室でセックスしかしてこなかったからなぁ。  食欲もないこの身体には、もう、セックス位しか楽しみかないし、どんなに酷くされても、治るし、酷くされるのも嫌いじゃないからそれはいい、それはいいんだ。  酷くされないから困る。  酷くされたのは最初の一回だけで・・・後はめちゃくちゃよくされても、酷くはされてない。     嘘つきも、嘘つきが連れてくるあの男も、激しく抱くことこそあれ、酷くはしない。  15で貫通していらい、こんなに大事に抱かれたことはない。    オレを気持ちよくさせたいと言う感情が伝わるセックスなどしてこなかったからな。  オレは自他とも認めるビッチだが、こんなにセックスにハマったのは初めてだ。    思ったよ。   思い知らされたよ。  助かったら、ちゃんと恋人つくろう。  学びましたよ、ホント。  愛されてするセックスは最高です。    嘘つきは嘘つきだからあれは嘘だけど、嘘のプロなので本当に愛されてんじゃないかみたいなセックスしてくるし。    上手く逃げれても、嘘つきやあの男に抱かれたことは忘れられなさそう。    もう、遊びのセックスじゃだめだ、これ。  ビッチ卒業させられてしまったな。    オレはため息をつく。  「退屈ですか?」  嘘つきが聞く。   質問には嘘はない。    「いや、いい景色だ、楽しんでる」  オレは正直に答えた。    嘘つきはにこりと笑った。    コイツ、本当に綺麗な顔してんな。  そう思う。     朝、なんか服を着させられた。  オレが自分では絶対買わないような高い服で、でも、何これ。  動きやすそうな、そう、この服あれだよな、登山とかアウトドア専用のブランドの・・・。  簡単な山登り、トレッキングってやつとか用の服じゃない、これ。  ほら、帽子まで出てきた。  嘘つきも珍しくスーツじゃなかった。  スーツが似合いすぎてたが、こういう格好も悪くない。  スーツ姿の方が好みだけど。  どこに行くとも聞かされず、聞いたところで嘘になるのはわかっていたので聞かなかった。  この何日も身体を貪られていなかったので、朝起きるのはスムーズだった。  いや、今、不死身だから身体は回復するけど、感覚は残ってるから、やはり、そんなにされまくったら簡単に爽やかには起きれないんだよ。  もう、散々されてしたくないけど、でもたまらないあの感覚が身体の中にも外にもあって。  余韻でおかしくなるレベルだから。  余韻なんてのも、今回監禁されるまで知らなかったけどな。  朝起こされ、人形みたいに服を着せられ、甘くキスされ、車にエスコートされて、今に至る。  助手席のシートベルトまではめてもらった。  まあ、シートベルトじゃないのは散々はめられてるけどな。  下ネタだって言いたくなるくらい機嫌がいい。    海から山に景色は変わっていく。  山に向かってるな、これ。  ホントに死体でも埋めるのか。  車はどんどん登っていく。   民家は消えて、木ばかりが増えていく。     今日は詐欺活動はお休みのようだ。  オレは窓を開けて緑の匂いを嗅いだ。  山なんて・・・久しぶりだ。  アイツとあの子と山に行ったっけ。  まだアイツがオレを抱く前の話。   高校生のアイツが、中学生のオレとあの子を連れて行ってくれた。  川で泳いだ。  オレはアイツの水着姿にドキドキし、あのムッツリはあの子の水着の胸を出来るだけみないようにしていた。  見たら勃つからだ。  あのドスケベ。  あの子はオレの胸と変わらないくらいペタンコだったけど。  まあ、大人になった今でもあの子の胸はペタンコだけどな。    山なんて行かないもんなぁ。  危ういもの取材し書いてる都会派ライターだし、オレ。  久しぶりの山に少し浮かれた。  死体をうめにでも来てるのかもしれないが、それまでは楽しもう。  車が止まった。  嘘つきは、またシートベルトを外して、ドアまで開けてくれた。  どこのお姫様だよ、これ。  そろそろ死体でも埋めるのを手伝わされるのかな、と思った。  今いる家と、この車の持ち主をバラバラにするのは手伝わされた。    死ぬのは、自分で死んでいった。  嘘つきとオレが見ている前で、首をくくった。  オレは助ける気が全く起こらないので、意志を縛られていることがわかった。  身体を痙攣させて死ぬのを嘘つきは楽しそうにみていた。    オレを膝の上に座らせて、オレの身体を弄りながら。  オレは苦悶の表情を浮かべる死体の前でイカされた。  椅子に座ったアイツに後ろから突っ込まれ、揺さぶられ、死体を目の前にして、声を上げてイった。  何度も何度も。  ホラーでイかされているみたいだった。  何故、首吊りだったのかもわかっている。  家を血で汚さないためだ。    嘘つきはここにもう少し長くいることにしたのだ。  今までは死体を冷蔵庫や地下室に放りこみ、臭いがひどくなる前に次の家かホテルなのがコイツのやり口だったのに。  コイツのやり口はオレが調べたんたんだから間違いない。  殺したのは身寄りも友人もいない、親の遺産でいきている引き籠もり。  近所付き合いもない、しかも、別荘暮らしだった。   長くいるためにはこの家が、色々条件が良かったのだろう。  だから死体を処理することにしたのだ。  長くいるのには死体は不快になるから。  死体は風呂場でバラバラにした。  嘘つきは全然手慣れてなかったので、死体の処理などほとんどしたことはなかったのだろう。  手伝わされたはずのオレが、ほぼ一人でバラバラにしていた。  今更死体に怯えたりはしないし、まあ、やり方は色々聞いてから知ってるし。  工具の扱いにはなれてるし。   もともと知能犯、荒事はしてこなかったのだろう、意外と力はつよいのだけど、嘘つきは本当に役に立たなかった。   オレは殺しだけははしたくないが、可哀想だけどもう死んでしまっているのだから死体の処理は出来た。  気の毒だが、仕方ない。  オレコイツに逆らえないし、どうせ。  死体の処理をしたのは、長くこの家にいるつもりだからだろうと思えば、オレにとってもありがたい。  居場所を転々とされるよりは、一カ所にいてくれる方が助けを求めやすい。   全部処理が終わってから流石に壊れたみたいに泣いた。    泣きじゃくるオレを抱きかかえ、あの家にもう一つあるバスルームで優しく血や肉片やいろんなもんで汚れた身体を洗われ、労るようにベッドで抱かれた。  なぐさめるように優しく。    オレは耐えられないことを忘れるかのように、嘘つきにしがみつき、嘘つきを欲しがったんだった。  そして、 バラバラにした死体は衣装ケースに入れて・・・でも、随分前だぞ。  今まで車に置いていたのか?  その後はオレが寝ている間に詰め込んだ衣装ケース消えていたし。  にしては臭いもしない・・・。  嘘つきはオレの手を掴んで歩き出した。  車をロックした音がした。    え、このままおいていくわけ?  オレはわけがわからないまま、嘘つきに手を引かれて歩き出した。    ・・・信じられないことに何もなかった。  誰かを山で襲ったりすることもなかったし、誰かが自分で自分の腹を笑いながら切り裂くの見るはめにもならなかった。  ただ黙って、山道を、と言っても初心者でも登れるような山だけど、嘘つきと並んで登っていった。  嘘つきは山には慣れている風だったけれど、オレにあわせて歩いていた。  少し両手を使ってのぼらなればならないところは、気遣うように身体を支えられたけど、オレ、死なないからね?    「山なんか嫌だ、何で山なんだよ!」  そう言いながら、アイツに連れて行かれた山を思い出した。 アイツはオレやあの子に注意をはらいながら、山を登っていた。  アイツはオレやあの子の兄貴でもあったんだよな。  「黙って登れ!!」  アイツに一喝されたっけ。   でも、川についたら一番はしゃいだのはオレだった。  山についての思い出はそれしかない。    でも、山は良かった。  木の匂い、鳥の声、葉を透いていく緑の光。  ひどく荒れていた心が癒やされていく。  黙って歩くのも良かった。  嘘を言おうとしないコイツは・・・結果喋らなくなるけど、それが良かった。  何も考えないで歩く。  隣を歩く男が殺人鬼なのも、嘘つきなのも忘れて。  たまに繋がれる手の優しさに思わず握りかえす。  手を繋いで歩くなんて、子供の頃以来だ。  自分の精神が思っていた以上に限界だったのに気付いた。  そらそうだ。  レイプされ、監禁され、また別の男を連れて来られて見られながら抱かれ、その後も抱かれた跡を確認するみたいに抱かれ、目の前で人を殺され、死体の処理までしていたんだ。  オレでなければ発狂している。  いや、オレももう本当に・・・限界だったのだ。  あまり誰も登らない山なのか、他の登山者はほとんど見なかった。  頂上には神社があった。  鳥居までの石段から下を見下ろせた。  

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