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クロスゲーム5

 僕は確認した。   これは間違いない。  メッセージだ。  「おい、犬、お前にメッセージだ」  僕は犬に言った。   ガキは今回囮以外役に立たないので、隣の部屋でゲームをして遊そばせている。  もともとガキに頭脳労働は期待してない。  まあ、この辺はどうのこうの言ってもガキだし。  一緒に買い物に行っても服とかよりも、ゲームや漫画をねだられる。  で、なんだか喜んで遊んだり笑ったりしている。  で、たまにゲームに付き合わさせられる。  この僕が。  SF小説なんかも好きみたいだが、自分が人間じゃなくなるような科学じゃ追いつかない体験しているのになんでそんなもの、と言いたくはなる。    バカを恋人にしたくはないので、僕が勉強をおしえているが、ガキはバカではないが、優秀とは言えない。   ・・・贔屓目に見ても。  かなり、贔屓目に見ても。  めちゃくちゃ贔屓目に見ても。  スポーツしかしてこなかったのはよくよくわかった。    まあ、これは長い目で育てていくしかない。  まだまだガキなのだ。    つまり、今回の知能犯相手にガキの出番はない。  ガキがどうにかできる相手ではない。  なので、遊ばせている。  まあ、ちょこちょこ説明はして、こういう相手のことも学ばせないといけないが、コイツ相手ではいきなり高度すぎるし、ガキのようなタイプには最悪の相手だ。  囮以外では関わらせない方がいい。  今回は犬を使っていくしかないだろう。   ありがたいことに、今回は捕食者とはいえ、肉体的な能力は人間並みでしかない。  殺せはしなくても、人間の犬でも十分やり合える相手だ。  ただ、向こうもこちらについて知っていると考えれば、何か手を打ってくるだろうし、心当たりはある。  犬がヤり捨てした情報屋は知っていることは全部吐かされているだろう。    「メッセージ?」   犬は不思議そうに言った。   犬は部下に詐欺師のアカウントは見張らせている。  ただ、奇妙なことにこのアカウントへの書き込みはどのサーバーをも経由していないことがわかっている。  端末の位置などは辿ることが全く出来ないのだ。  全くどうやってアクセスしているのかが、わからない。  まあ、そんなもんだろう。  僕達は人間ではない。  この現代に新たに存在する化け物だ。  人間を超える生き物だ。  人間の道具など凌駕する。  だが、人間は人間でなかなか足掻く。  僕は感心した。  従属者を人間とは言い切れないが、死なないだけの人間である情報屋はそれでもメッセージを送ってきた。    「どこに?」  犬は詐欺師のアカウントの書き込みを眺めるが、どこにもそれらしきものはない。    「そんなすぐわかるところに書き込まないだろう」  僕は笑って、違うアカウントの書き込みを表示した。  女性歌手のアカウントだ。  実力派で切ない歌を得意とする、歌手だ。  犬は怪訝な顔をする。     「お前の好きな歌手だろ?」  僕は笑う。    犬は顔をひきつらせる。  なんでそんなことを知っている、みたいな顔だった。  情報屋のアカウントを調べた時、情報屋がフォローしていた犬のアカウントを僕は確認している。  その時に僕は犬が誰をフォローしてしているのかきちんと確認しておいたのだ。  今は協力関係にあるが、明日はどうなるかわからない。  少しでも情報は持っておいた方がいい。  コイツを殺したり、脅したりする必要かあるかもしれないからだ。  ちなみにコイツの弱みはもう見つけている。  その日か来たら使うだろう。   だが、今は。  まだ、お前のことはよく知っていると言うメッセージだけでいい。  恐怖と共に。  犬がフォローしているアカウントはほんの少し。    片手ほどだ。  元嫁、多分このSNSを始めた頃はもともとではなく嫁だったのだろうが、彼女に言われてお義理でしていたのは明白だった。     その中できちんと定期的に書き込まれていくのはこの歌手のアカウントともう一つ。  犬の弱みの元嫁だけだ。  毎日わずかに、でも絶対に更新していて、犬は必ずそれに「いいね」をしている。  だが、元嫁とも親しい情報屋が元嫁のアカウントをメッセージの送り場所に使うはずかなかった。  それでは詐欺師にすぐばれる。  なので、もう一つおそらく犬が好きな歌手のアカウント。  ここも1日一回、お知らせみたいのを更新している。  本人がしているのではないのが、丸わかりの書き込みだ。  「毎日一回更新するこのアカウントに、何度か同じリプライが送られている。このアカウントはリプライを返すことはしないのはわかっているはずなのに。なのに同じ発言を繰り返している。『あなたの歌に捕まりました。捕まって逃げれません。あなたに従属してしまいたい』ってね、何度も何度も送ってくる。名前が『  』お前の元嫁の旧姓だろ?」  これは間違いなく、情報屋からのメッセージだ。   犬が、いや、捕食者を狩る僕が情報屋の調査をたどる。  そして詐欺師とSNSの関連に気付く、それと同時に犬のアカウントを調べるだろうことを見越した上でのメッセージだ。  僕が完全に犬の味方じゃないからこそ。    この情報屋優秀だ。  でも、これくらいわかりにくい場所じゃないと、メッセージも送れないくらい、SNSも監視されているわけだ。  「こちらが気づいてくれるまで、送り続けているみたいだな」  オレは犬のアカウントのIDとパスワードを打ちこみ、犬のアカウントを乗っ取る。  犬が呆然とした顔をするが、嫁の生年月日とこの歌手の名前のミックスさせたらある程度絞れる。    簡単すぎる。     犬は権力者側の歯車なので、こういう調査される対象に自分がなる可能性があることを思いつかないのが笑える。  「素敵な歌です、歌の意味を理解しました」  そう僕は犬のアカウントで、歌手の書き込みに返信した。  これで、こちらが情報屋のメッセージを受け取ったことを理解するだろう。  捕まって、おそらく意志を縛られ逃げられない。  でも、直接的な助けさえ求めなけれぱ、詐欺師を出し抜いて動けることに情報屋は気づいたのだ。    「散々抱かれて、いいように可愛がられているだろうに、捕食者を出し抜いて逃げるつもりか」  僕は面白いと思う。  捕食者は従属者を求める。  抱かないはずがない。  欲しがられて、貪られているはずだ。  その身体を、心を。  従属者とは言うものの、意志を縛られる存在とは言うものの、実際のところ、捕食者の方が従属者に捕らわれているのだ。  狂犬しかり、  金髪の相方しかり、  刀になる女しかり。  そして、僕も。  そして、従属者は捕食者を受け入れる。   青年も。  金髪も。    少女も。  そして、ガキも。    だがこの情報屋、逃げるつもりだ。  ・・・面白い。  

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