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衝突 6
男は俺を見ると同時にハンドルをきっていた。
頭で考えてできるレベルのことじゃない。
感覚や勘レベルの反応だ。
俺達アスリートの研ぎ澄まされ、磨かれた反応速度とは別のレベルの。
俺より速く動けるわけがないからだ。
あの人ばりの勘の良さかよ!!
俺の銃弾はソイツの顔を掠めただけだった。
まあ、元々それ程、射撃は得意じゃない。
俺は割れたリアウインドから車の外へ飛び出た。
後部座席の背もたれにつかまり、車のトランクに膝をつきながら、ひび割れだらけの相手のフロントガラスにさらに銃弾を撃った。
真っ白になった視界をなんとかするために、ソイツは肘でフロントガラスを叩き割っていた。
フロントガラスがなくなった。
飛び込める。
「無茶するな!!私の指示に従え!!」
スーツの声がしたのは聞こえたけど、俺は無視した。
コイツが親玉だ。
確信があった。
コイツを潰せば終わる。
はしる車のトランクの上から俺は跳んだ。
俺は割れたフロントガラスから相手の車に飛びこむ。
ソイツは助手席に落ちた俺に驚いた顔をしていた。
後部座席にいた奴らが俺に銃弾を浴びせかける。
俺を襲った奴らの生き残り、3人か。
痛い。
血が迸る。
でも、腹や肩や耳なら撃たれても動ける。
俺は腰の山刀を抜いた。
彼らは銃よりナイフを抜くべきだった。
銃を捨ててナイフを抜くにはもう襲い。
俺は流れ出す血を気にせず動いた。
俺はあの人に狭い場所での人の殺し方まで教えられている。
俺のスキルの半分は、暗殺者の技術だ。
こいつらは、暗殺者ではない。
狭い場所での動き方など知らない。
後部座席に乗り込んだ俺は最低限の動きで後部座席の3人の息の根を止めた。
後は運転している男一人。
俺はこの男を殺して終わらせることに決めた。
「俺のチームの一つを全滅って・・・ホンマもんの化け物かお前・・・」
男が呻いた。
男の手にした銃の銃口はこちらを見ているが、俺はコイツが引き金を引く前にコイツの首を飛ばせる。
「ははっ、怖ぇな・・・お前」
ソイツは笑った。
俺はソイツしか見ていなかったから気付かなかった。
ソイツがビルの壁に車をぶつけようとしていたことを。
だから間に合わなかった。
車は壁に突っ込み、俺は後部座席のリアウインドを突き破って外に放り出された。
ついでに、後続の車にはねられ、ダンプに轢かれた。
さすがに・・・動けなかった。
シートベルトを外してソイツは下りてきた。
車の助手席は完全に潰れていて、どれほどの速度で突っ込んだのかがよくわかった。
ソイツは転がるオレを見下ろす。
「・・・死なないのか、コレでも。お前はなんだ?吸血鬼か?・・・オレぁ今なら何だって信じるぜ。死人も生き返る位だからな・・・」
オレは動けない。
内臓の半分位は潰されてるし、手足も千切れかけている。
回復には時間がかかるだろう。
しまった。
コイツを甘く見てた。
コイツはプロだあの人と同じ。
「どうやってでも勝つ」奴だ。
ナメてた。
スーツが止めたのに突っ込んだのは俺だ。
不死身な自分を信じ過ぎていた。
「オレの依頼主はあの女をご所望なんだが・・・何も持たずに帰るわけにはいかないからな」
ソイツは俺を担ぎ上げた。
デカい男だった。
スーツ位のでかさはある。
俺は捕まった。
しくった。
先走りすぎた。
・・・あの人に怒られちゃうよ・・・。
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