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念願3

 ヤバい。  オレは頭を抱えた。  えらいことになってしまった。  今、オレを抱きしめて寝ているコイツ。  シャープな顔立ちに、鍛え抜かれた身体のコイツ。  これは絶対に手を出してはいけない案件じゃねーか。    オレが調べた。   コイツの身辺を。  コイツ、従属者だ。  あの捕食者のモンだ。    ヤバい。  ヤバい。  ヤってしまった。    と言うか、ヤられてしまった。  中途半端にされてほったらかしにされた身体をなんとかしようと、冷たいシャワーを浴びたり、シーツを取り替えてそんな気分をなくそうかとしたみたりしてても、身体の奥が疼いて疼いて、指でしてた。  でも届かないところに欲しくて・・・。  そしたら嘘つきが帰ってきて、一緒にこの子がいて・・・。  ぼんやりした顔をしていた子は、嘘つきに耳元で何かを囁かれた。  そして、その子はベッドの上のオレを見て・・・。    オレは押し倒されてしまって・・・。  まあ、なんた。    散々されてしまった。  泣きながら「愛してる」とか言われて・・・本当に可愛かったもんだから・・・。  オレもめちゃくちゃその気になってしまった。  ダメなヤツ。  これ、絶対したらダメなヤツ。  ヤバさが半端ないヤツ。  ヤクザの組長の女に手を出すよりヤバいヤツ。    冷たい汗がだらだら流れる。  人間を生きたまま果物みたいに皮を剥くようなヤツのモンに手を出してしまった。  いや、正しくは手を出されたんだけど。  ええっ?  あの捕食者が抱かれる側なんて聞いてないぞ。  ええっ?  少年を「穴」にしているってのは聞いてたけど。  めちゃくちゃ穴にされてるじゃないか。    ええっ?  これ、オレここから逃げられても拷問される系の話?  ええっ?  オレは激しく混乱した。  少年は幸せそうにオレを抱きしめている。  「愛してる」  何度も叫んでいた。  少年はあの捕食者を愛してるらしい。  その本気はわかった。  いたい位に。  オレはそっと少年の胸に頬を寄せた。      良いなぁ、お前。  愛してんだな。  そして、愛されてるんだろ?  知ってる。  捕食者がお前に夢中なのは有名だ。  指摘したら殺されるから誰も指摘しないだけで。  ちょっとだけ。  目覚めるまで。  愛してるみたいにオレを抱きしめて。  どうせ、殺されるんだったらちょっと位オレにお前を分けてくれ。  オレは目を閉じた。  嘘つきはオレをコイツに抱かせた。  嘘つきはまたオレを抱かなかった。  見ていたけれど。  今も逃げるように消えた。    本当にオレはあの男に引き渡されるのかもしれない。    嘘つきがオレに執着してると思ったのも間違いだったのだろう。  誰もオレを欲しがらない。  いい。  そんなのは分かっている。  恋人みたいに少年に抱きしめてられて、オレは少し微睡んだ。  

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