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念願4

 困った。  少年が号泣している。  何時間も何時間も泣きながら貪られたけど、あれはうれし泣きで、これは違うのはわかる。  膝を抱え、肩を震わせて声を上げて泣いている。  えっと。  オレが犯したみたいだよね、これ。  いや、犯されたのオレなんだけど。    「泣くなよ・・・経験値が増えたと思えばいいじゃないか。気持ち良かったんだろ?」  オレは慰めようと言ってみたが、余計に少年は泣いてしまった。  わからねー。  わからねー。  こんな子をどうやって慰めればいいのかわからねー。  ビッチのオレをにはわからねー。  オレは途方にくれた。  「あの人に入る前に、他の人としてしまったなんて・・・」  少年は号泣する。  えと。    つまり。  「オレ、君の童貞頂いちゃったわけ?」  オレは尋ねて、さらに号泣する少年の様子からそれが事実であることを悟る。  ヤバい。  ただヤる以上のことをしてしまったようだ。  ヤバい。  ヤバい。  捕食者許してくれないよね、これ。  そう、捕食者にはされてた方だったんだね、君。    目覚めた少年の取り乱し方は可哀想になるほどで。    少年が捕食者を裏切ることなど思いもしてなかったことがわかる純情さかが可愛らしいほどで。  で、一生懸命説明したのだ。  オレが拉致された情報屋であること。   あの男の能力、望む外見に見せることができること。  オレを他人に抱かせてそれを見る性癖があることなど。  少年は理解はしたようだが、泣くのをやめなかった。  「・・・あの人を裏切ってしまった」  泣く。  泣く。  ポロポロ泣く。  可愛いとか思ってしまうが、ここは早く冷静さを取り戻してもらわねば。  二人で力をあわせて逃げないと。  「君を愛してるから許してくれるよ。君の意志じゃないんだし」  オレはそう信じたい。  少年は首を振った。   「裏切ったら俺も相手も殺すって。あんたも俺もあの人に殺される」  少年は呟いた。  そう。  やっぱりそうなんだな?  「俺を殺してからあの人は泣いて後悔する。そういう人だ」  少年は言った。  オレは頭を抱えた。  逃げ出したところで・・・。  オレの前途は多難なようだ。  「いいか・・・忘れろ。忘れるんだ。君とオレの間には何もなかった。いいな」  オレは少年の背中をバンバン叩いて言った。  まあ、その背中が裸の背中で、オレも少年も一糸もまとってなくて、めちゃくちゃ事後のベッドの上で言うには無理があるセリフだった。  まだオレの中には少年が出しまくったモノが入ってるし、まだなかなか立派だったヤツが入ってた感触も残ってのに、「何もなかった」なんて言いにくい話だが仕方ない。  オレは全身の皮を剥かれたくない。  死なないオレなんて、最高の拷問用のおもちゃじゃないか。  サディストの手に落ちたくない。   「忘れる・・・無理だ」  少年が呟く。   いや、わかる。  最近、濃いセックスばかりしているオレも・・・昨夜のこの少年のセックスはたまらない位にハマった。  末恐ろしいガキだと思った。  おっさんみたいにねちっこいセックスするかと思ったら、若者らしく激しいし。    愛してる  愛してる    本気で叫ばれ抱かれた。  あの熱さは・・・羨ましいよ。  求められ、貪られた。    ダメだ身体が反応しそうになる。    でもお願い、忘れて?  殺されたくないんだよね。  「・・・君が抱いたのはオレじゃない。君は君の好きな人の幻覚を抱いたんだ。良く出来た夢だよ」  オレは微笑んだ。  「でも・・・」  少年は鼻をすする。   「いいから忘れろ。なかった事にしろ。オレは拷問されて殺されたくないんだよ」  オレは言い聞かせる。  「あの人に嘘なんて・・・」  少年は言い募る。  ゴン   その頭をグーで叩く。     「痛っ!!」    少年が声をあげる。    「ふざけんじゃねーよ、ガキ。テメェの気持ちなんかどうでもいいんだよ。好きな男と一緒にいたけりゃ、それが一番大事なら、黙って嘘の一つや二つ付けって。嘘って何だ?お前どうしようもなかったし、オレを抱くつもりもなかったし、そこのどこに嘘があるんだよ。嘘があるなら、オレはお前がそうなってんの分かって楽しんだ部分だけだ。こんなこと覚えていても誰も得しない、特にオレが得しない。オレをあの男に拷問させる気か!!」  オレはガキに言う。  少年はハッとした顔をした。  少年は予想外の行動に出た。  「俺、あんたを・・・あんたの意志を無視して・・・ごめんなさい、ごめんなさい」  今度はオレにベッドの上で土下座し始めた。    また泣きながら。    「許されることじゃないですが、本当にごめんなさい」  何度も何度も頭をこすりつける。    呆気にとられる。  謝られてる。    押し倒してごめんなさい。      人違いでヤっちゃってごめんなさい。  意志を無視してごめんなさい。  ・・・てことか?  初めてだ。  初めてだ。  謝られたのは初めてだ。  身体だけ使われるのは慣れてるし、誰かの代わりなんのも慣れてるし、意志なんて散々無視されてるし。  「すみませんでした。まず、あんたに俺は謝らないと駄目だったのに!!」  少年が泣きながら謝る。  「ははっ」  オレは思わず声に出して笑った。  なんだこの子。  なんだよこの子。    「・・・いい子だな、お前」    オレは笑いながら言った。  久々本気で笑った。    そして・・・何かがオレの中で埋まった。     この子がオレの何かを埋めてくれた。  まあ、オレは空っぽな人間だけど、でもその沢山ある空っぽを少しでもこの子は埋めてくれた。  謝られたことなんてなかったよ。    「とにかく、忘れろ。大人になれ。忘れてしまえばなかったことになるんだよ」    オレは少年に言った。  それが大人ってもんだ。  「覚えているヤツを全員殺せばなかったことになるってあの人は言ってたけど?」   少年の言葉にゾッとする。  何その怖い考え方。  「殺さなくてもいいから。殺させないで。とにかく、忘れろ」  オレは少年の頭を撫でた。  そして、その耳に囁いた。  「オレは自分では逃げられない。手をかせ。逃げるぞ」  とにかく、逃げる。  捕食者に殺される問題については後で考えよう。 

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