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ブレイカー 3

 情報屋は言った。  詐欺師は俺が逃げてもかまわないと思っている、と。  俺は詐欺師に洗脳されている。   ネットで侵入されてしまった。  情報屋は言う。  ここから逃げられたなら、ネットを避けろ、と。  遠隔操作される可能性がある、と。  言えないけれど、言うことを禁じられているから言えないけれど、恐ろしいことが起こるはずだと。  直接的な言葉を使えないために、色々、主に性的なジョークに絡めて、情報屋はそれを伝えてくれた。     俺はずっしり重いリュックサックを担ぐ。  これを持って逃げ切れるか、か。  逃げ切る。  とにかく、まず俺が走ってにげなければ話にならない。   俺の洗脳や、縛られた情報屋の意志はとにかく後回しだ。  リュックの中から手斧を取り出す。  家の中を探し回ってみつけた。   俺も情報屋も詐欺師に逆らえないので隠すつもりもないのだろう。  武器はコレだけだ。  靴は俺のサイズがなかったから裸足なのは仕方ない。  一応、ないよりましかと、タオルを切り裂いて包帯状にして巻いてはいる。    俺は窓をそっと開けた。  監視は今は2名だ。  ぐるぐると家の周りを回っている。   タイミングをはかる。     監視二名が最もこの窓から遠くなった瞬間をねらえ。   俺はその瞬間を待った。  一番脱出するのには向かない、この家の三階の小さな窓。  ここは盲点のはずだ。  なぜならなら、ここからは肩がつかえて、出られるないからだ。  だからあえてここから出る。  俺はタイミングをはかった。  監視は建物に注意をはらいながらゆっくりまわっていく。  俺は身体を低くして外から窺っているのがわからないようにする。  よし、あちらに動き始めた。  もう一人も反対側にいくころだ。  俺は手斧を振りかぶり、自分の左腕を肩の付け根から切り落とした。  吹き出す血。   苦痛をこらえる。  俺は自分の腕を咥えた。  残った片手で手斧をリュックに押し込む。   肩から切り落としたから肩幅が狭くなった。  ギリギリ、この窓をすり抜けられる。   リュックを窓から投げた。   地面に落ちる。   俺は勢いをつけて、窓をすり抜けるように飛び出した。  三階から飛び降りる位なら普段ならわけなく着地出来る。  でも、片腕を咥えた状態で、飛び降りたことはなかった。  バランスの狂った身体でこれができるかは疑問だった。  全身の力を抜き、衝撃を吸収し、着実の瞬間、地面に転がることで衝撃を逃がすのはスタントなどでも使われる技だが、それをこの状態で出来るのかは・・・やったことはないからわからなかった。  でも、脚を折ったら一巻の終わりてのは理解していた。  脚がなおる前に捕まる。  成功するしかなかった。    窓を抜けた。  身体は宙にある。  頭から落ちる身体回転させ、脚から着地する。   身体をイメージしろ。  狂っているバランスを調節しろ。  地面につく瞬間に、すべての関節を緩める。  衝撃を吸収し、さらに地面に転がる。  重さや重力により発生した衝撃を、逃がすことで身体が壊れることをふせぐ。    俺は上手くやれた。  千切れた腕を押し付ける。  取りあえず、くっ付く。  でもつかえるようになるにはまだ時間がかかる。    自分の身長のよりも遥かに高い塀が目の前にある。  これを乗り越えなければならない。   飛び降りた音に監視が戻って来る前に俺はリュックを担ぎ、塀を駆け上がった。  俺ならできる。  片腕でも、重いリュック背負っていても。  もちろん一番上までは無理だ。  いくら俺でも。  俺は塀の一番上になんとか指を届かせた。  指さえ引っ掛けられれば、身体を振る勢いを利用して俺は、塀を片腕で身体を引き上げ、乗り越えた。 塀から地面におりた俺を監視が見付ける。  思ったより速い。   でも、俺はソイツが銃を向ける前に走り出す。  情報屋の言った通りだ、山の中の小さな城塞みたいなこの別荘から少し降りれば、一応車が通れるような道路になる。  未舗装だけど。  そこを疾走する。  とにかく、降りていく。  速い。  俺は速い。  誰よりも。  くっつけた腕はとりあえず、振れるようにはなっている。  ちゃんと振れるなら、身体のバランスが戻れば、俺はもっと速く動ける。  リュックがなければ・・・もっと。  でも仕方ない。  ここにはまた戻らなきゃいけない。  でもその時には味方を連れて、だ。  もう少し、もう少し我慢して。  俺は情報屋に心の中で呼びかけた。  パンッ  パンッ  銃声が聞こえる。  狙い撃ちされている。  ジグザグに走り、車道から山の中へ飛び込んだ。  これで木々が障害物になり、銃は当たりにくくなる。   足元は木の根や、段差で走りにくい。  でも俺はバランスを保つ。     バランスを保てばどこまでも走れる。  だけど、追っ手をまかなければ。    俺は木を駆け上がるように登る。  そして、枝から枝へ飛び移っていく。  全身をばねにして跳ね上がれ、つかんだ枝から枝へ腕で移動しろ、勢いをつけ身体を振り、その勢いで遠くの枝まで伸び上がれ。  地面を走る俺を探している奴らには俺が見つけられないはずだ。  俺は宙を移動しながら、こっそりと車道に戻っていく。  アイツらは、俺が山の奥へと逃げ出したと思っているはずだ。  アイツらの声が聞こえ、俺は木の上で気配を殺す。  銃を構えた奴らが俺の下を走り抜けていく。  7人か。  俺を捕まえたあの男はいない。  俺は奴らが通りすぎた後、車道に戻り走りはじめた。  車をつかまえて、なんとしてでも街まで戻らなければ。    そして、あの人に連絡するんだ。  そしたら、あの人が絶対助けてくれる。  エンジン音がした。    俺はリュックから手斧を取り出す。  アイツらの仲間だとしても、そうじゃないとしても、車を奪わなければならない。  俺は未舗装の車道に手斧を持って仁王立ちになり、車を待った。  

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