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ブレイカー4

 暗くなり始めた山中に車のヘッドライトだけが眩しい。  奴らか、それとも?  こんな辺鄙なところの未舗装の道をくるのは奴らの仲間である可能性の方が高いけど。  それでもオレは手斧を構え、その車が接近するのを待つ。  止まってくれればいいが、止まらなければ車に飛び移って、フロントガラスを叩き割り、車を奪う。  俺は車の運転はちょっとあの人に教えてもらっただけで、しかも、車をぶつけてしまったのだけど、でも仕方ない、運転するしかない。  夜の山道を運転できるかどうかは正直疑問なんだけど!!  俺はこちらに向かってくるライトの光に包まれる。  さあ、この車は奴らか、それとも?  どちらにしても、奪うだけだ。    俺はあの人のところへ・・・。  帰らなきゃいけない。  車は猛スピードで近づいてくる。  止まらないか。  なら、ボンネットに飛び乗る。  フロントガラスを叩き割って車の中に侵入する。  俺はタイミングを見計らう。  その時だった。  「クソガキ!!」  助手席の窓から顔を出して叫ぶ人。  その声。  俺はヘナヘナと座り込んだ。  あの人だ。  あの人だ。  あの人が俺を迎えに来てくれた。  車が止まり、転げるように飛び出してきたあの人に俺は抱きしめられた。  「バカが・・・」   あの人は小さな声で言った。  抱き締める腕が震えていた。  「ごめんなさい・・・」  俺もあの人を抱きしめた。  会いたかった。  会いたかった。  多分離れて48時間も経っていないのに、この人の隣りにいないのが辛かった。  この身体を抱き締めたかった。    「・・・話は後だ、行くぞ!!」  運転席から言ったのはスーツだった。  僕は頷き、車の後部座席に乗り込んだ。  あの人もついてくる。  「・・・アイツは?」  スーツが聞いた。  俺だけしかいないからだろう。  俺は頷いた。  そして、リュックを開けた。  リュックの中には首をへし折られ両手両足を切り落とされた情報屋が、収納されていた。    折り畳まれた顔の目だけが、開いたリュックの口から、ギロリとスーツを見つめた。  「!!」  さすがにスーツは声にならない叫びを上げた。    うん、だろうね。  あの人すら目を見開いている。    結構ホラーな光景だった。  情報屋の首は折り曲げてリュックに収納できるように切り込みをいれ、再生しないように切断面を布で覆っている。  ギリギリ繋がるように斬るのは難しかった。  あの家で住人の死体をバラバラにした手斧をつかって、情報屋をバラバラにした。  首さえ斬らなければ、従属者は死なない。  バラバラにしてしまえば、脱出途中で、意志を縛られた情報屋が逃げ出すこともないし、運びやすくなる。  情報屋自身の提案だった。  両腕も、切り口を 布で巻いてる。  触手が出てきて再生しないように。  両足は、リュックに入りきらなかったから、布で巻いて、あの家のクローゼットに隠してきた。  後で、取りに戻らないと。    俺は慌てて情報屋の首の切れ込みから布をとった。   触手切断面からがのびてくっつきあっていく。  両手をつけてやる。  とりあえずくっつく。  とりあえず、太ももから下がない身体を後部座席に置いた。  一応Tシャツとパンツは履かせてる。  「苦しかったでしょ」  俺は情報屋に声をかけた。  情報屋の唇が皮肉に歪んだ。  苦しいなんてもんじゃない。  生きたまま、手足を斬られ、首を折り曲げられたのだ。  リュックにつめこまれ、地面に叩きつけられたし。  この人はすごい。  大した人だ。  タフだ。    何か言おうとしたのか唇が動いたが、まだ声は出ないだろう。  「犬、車を出せ」  さすがにあの人は冷静だった。    スーツは混乱していたが、その声に冷静さを取り戻した。  車を発進させた。  車が動き出したらホッとした。  あの人が俺の肩を抱いた。   俺も思わず、あの人の肩に頭をのせてしまう。  「・・・頑張ったな」     髪を撫でられたら、嬉しくなる。  でも、ふと思った。  「何で俺の居場所が?」  それは本当に疑問だった。  「GPS」   スーツが運転しながら言った。  「え、でも、俺荷物なんにも持ってないよ?」  携帯から時計から服から全部取り上げられていた。  あの家にいた時には俺は丸裸にされていて・・・多分、GPSを警戒したんだろ。  なのに、何故?  「君の体内に発信機が埋め込まれている」   事も無げにスーツが言った。  「はぁ?」  俺は聞き返す。  いつの間に?  俺の許可なく?  何を勝手に?  「我々じゃない。埋め込んだのはそこの男だ。我々はその男の行動は把握するためにGPSをその男に仕込んでいるが、君の管理はその男に一任している」  スーツは言った。  はぁ?  「あんた俺の身体に俺に無断でそんなもん埋め込んだの?」  俺は呆れてあの人を見つめた。  あの人は視線を合わせようとしない。    「いつの間に?」  いや、心当たりはありまくる。  多少酷いことをされて意識とばして、なんかさらになんかわかんないけど痛いことされて目覚めたりするのはわりと良くある。  そのどこかで、俺の身体を切って埋め込んだのか!!  「なんで?」  俺は詰め寄る。  いつも一緒だし、埋め込む意味がわからない。  「・・・お前が僕から逃げても捕まえられるようにだ」  ボソッとあの人は言った。      はぁ?  「お前が僕を嫌いになっても、僕はお前を逃がさないって決めてるからだ!!」   ヤケクソみたいにあの人は言った。  俺は呆れた。  この人・・・俺を信じてないんだな?  「ちょっと待って、俺が逃げるとか思ってるわけ?」  ちょっとムカついた。  怒りが声に滲む。  何、それ。  「今はそうじゃなくても、いつかそうなるかもしれないだろ。その時じゃ遅い」  あの人は開き直りやがった。  「僕がいない時にお前がどこかに出かけて、誰かに出会うかもしれないだろ。そしたら、ソイツを突き止めて殺さないといけないだろ!!お前がどこにいるのか知らないとダメだろ!!」   あの人がキレたように言う。  わぁ。  あの人、たまに俺を置いて出かけていく時も、俺の居場所を出先でチェックしてやがった。        

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