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ブレイカー5
「何考えてんだ!!あんたは!!」
俺は取りあえず、グーであの人を殴ろうとした。
悪いことは悪いと教えないとこの人は本当に・・・。
でも振り上げた手を俺は力なく下ろした。
俺、もう、殴る資格ないし。
俺。
俺。
俺は頭を抱えた。
「どうしたんだ?頭がいたむの?何か埋め込まれた?アイツらに」
あの人が心配そうに言う。
いや、何か埋め込みたがるのはあんただけだよ。
「なんでもない」
俺は頭を抱える。
チラリと見た情報屋の顔は言っていた。
「何もなかった。何も言うな」と。
ああそうだよ。
俺だけの話ならともかく・・・俺にされてしまっただけのむしろ被害者の情報屋をこの人に殺させるわけにはいかなかった。
でも。
でも。
俺はあんたを裏切ってしまった。
どうすりゃいいんだ。
「そう」
優しく俺の頭を胸に押し付けるように、あの人は俺を自分の方にひきよせる。
優しく髪や首筋をなでられる。
甘く、優しい指。
心地よい。
そして辛い。
「 」
そっと名前を呼ばれた。
ベッドの中以外で名前で呼ばれることなんかないから、思わず身体が震えた。
首筋にあの人の唇がおとされる。
ピクン
身体か震えてしまう。
「ダメだ・・・こんなところで・・・」
俺は呻いて、あの人を引き離そうとする。
「分かった・・・キスだけ、キスだけ・・・」
あの人にせがまれる。
もう、俺を誰かの前でも抱こうとかはしない。
俺が嫌がるから、我慢する。
この人は精一杯、この人なりに出来ることをしようとしてくれてる。
それが今は辛い。
「 」
名前を呼ばれた。
切ない声で。
俺は拒否できない。
俺もこの人が欲しい。
キスしたい。
自分から口を開けてしまう。
あの人の顔が近づいてくる。
あの人の綺麗な顔が、俺は目を閉じて・・・。
でも、俺はあの人の唇が触れる瞬間にあの人を突き飛ばしてしまった。
「・・・お前、どうしたんだ?」
あの人の顔色が変わった。
だが、その時、スーツが言った。
「来たぞ。しかも、今回はご本人までお出ましだ」
俺は今度は不用意にリアガラスから後ろを窺ったりしなかった。
頭を撃ち抜かれるのは一度で十分だ。
運転席に、俺をさらった男、そして助手席にいるのは・・・詐欺師だろう。
俺は会っているはずなのだけど記憶はない。
「大丈夫だ。もうすぐ応援が来る。にげなきゃ行けないのは今度は向こうだ」
スーツが自身たっぷりに言う。
そう、スーツも同じ過ちは二度はしない。
「面白い。何分で合流出来る?」
あの人がスーツに言った。
「もう後、5分ほど」
スーツは答えた。
アクセルを最大に踏み込む。
「 」
スーツは情報屋に向かって声をかけた。
「帰るぞ!!彼女もお前を待っている」
スーツの言葉に情報屋は笑顔になった。
多少動ける位には回復したらしい。
「ああ。・・・オレもあの子に会いたいよ。それとな、当分オレをお前の家に泊めてくれ。後、出来るだけ早く脚を取りに行きたい」
情報屋は言った。
スーツの家に泊まりこむつもりだ。
狙うつもりだ。
本気だ。
「構わないが・・・寝に帰る以外何もしてないから、何もないぞ。お前達のいた別荘にはもう別働隊を向かわせてる。脚は回収する」
スーツは言った。
「・・・ベッドがあれば十分だ」
ニヤニヤ情報屋が言った。
そうですね。
そうですよね。
俺だけはその意味がわかってあせる。
スーツ・・・。
ごめん。
「犬、スピードを落とせ。ちょうどいい。ここで勝負をつけてやる」
あの人が右手の袖を捲った。
右手が銀色に光り、ゼリーのように伸びて銃に代わる。
情報屋が驚く。
「詐欺師はまだ僕の能力を知らないんだろ、情報屋」
あの人は情報屋に聞く。
「当然だ、今知ったんだからな!!」
情報屋は答える。
「情報屋、窓をあけろ!!」
あの人は言われるがまま、情報屋は自分の側の窓を開けた。
「犬、相手の車に並べ。ガキ、助手席に行け!!」
あの人は指示する。
「無茶だ!!撃たれたらどうする!!あと少しで合流できるのに!!」
スーツが叫ぶ。
取りあえず俺は助手席に移動する。
「安心しろ、撃たれて死ぬのはお前だけだ、気にするな!!僕の銃は射程距離か短い。近づかないとダメだ。ガキ、犬が撃たれたらお前が運転しろ。チャンスは一回しかない」
あの人が叫んだ。
酷い。
相変わらず酷い。
あの人の能力の一つ。
当たったものを消しさる銃。
ただし射程距離は短く、撃つのに時間がかかり、一度撃てば30分は次はうつことができない。
しかも、消え去る範囲は限られている。
ものすごく条件が限られた能力だ。
しかし、この能力は捕食者を殺せる数少ない方法の一つなのだ。
戦闘力のない詐欺師相手なら、頭を吹き飛ばせば、それで取りあえずは機能を停止できるはすた。
そう、うまく行けばこれで全てを終わりに出来る。
「 !!」
何か良くない言葉を珍しく吐き捨て、スーツはブレーキを踏んだ。
撃たれて死ぬのはスーツだけだから罵るのは仕方ない。
車がならぶ。
情報屋が座っている側の窓が、詐欺師の助手席とならんだ。
窓は開いていた。
詐欺師はあの人が銃を向けているのに、身体を伏せようともしなかった。
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