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ブレイカー 6

 あの人は銃に変わった右手を詐欺師に向ける。  距離は十分。  でも、チャンスは一度。  詐欺師はあの人が銃を向けているのに全くそんなことは気にしていなかった。  詐欺師は情報屋しか見ていなかった。    「   !!」  詐欺師は情報屋の名前を叫んだ。  まるで、愛しい人を取り返しに来たかのように。  まるで、俺達が情報屋を攫ったかのように。    あの人は撃とうとした。    しかし、先に聞こえた銃声に頭がガクンとのげぞる。  運転席からあの男が右手にハンドル、左手に銃を持って撃ってきたのだ。    頭を撃ち抜かれたところで、捕食者のあの人は俺とは違ってそんなに問題はない。  捕食者の再生力は従属者の比ではないからだ。  でも、さすがに撃たれると狙いがブレてしまうので、撃てなくなる。  俺は身体を低くして後部座席の足もとに落ちていたリュックを手繰り寄せる。  それを目の端であの人は確認する。  あの人は何度となく撃たれ、撃てないでいる。  詐欺師は助手席のドアを開けた。  シートベルトを外し、身を乗り出し、こちらの車のドア一枚に隔たれた情報屋に向かって手を伸ばした。     まるで助けるかのように。    その顔は必死だった。  情報屋しか見てない。  他は何も見てない。   だからこそチャンスなのに。  もうすぐ合流するのは多分向こうもわかっている。  あと数分で彼らは引き返し逃げるはずだ。  俺はリュックから手斧を取り出した。  あの人は見てる。  なら、わかってくれるはずだ。    「スーツ!!伏せろ!!」  俺は叫んだ。  スーツはハンドルをつかんだまま身体を伏せた。  俺はスーツの背に手をつき、運転席の窓から身を乗り出し、詐欺師達の車のフロントガラスに向かって手斧を投げつけた。  運転していたあの男は、飛んでくる手斧に反応し、銃を撃つのをやめた。  手斧はフロントガラスガラスを白く変え、運転席に突き刺さった。  男は手斧をよけ、ハンドルを両手で握り、車をコントロールすることに専念している。  今、これであの人は撃たれない。  「よくやった、ガキ!!」  あの人が叫んだ。  あの人の銃が小さな音を立てた。  当たったモノは直径50センチの球の範囲内で消え失せる。  だから、消え失せた。  あの人のタイミングも狙いも正確だった。  でも、ここは山道で、しかも夜で、しかも未舗装の道だった。  あの人は車の揺れまでは計算していただろうが、思い切り跳ねたのは、俺達の乗っている車だった。  何かが、多分、倒木か、落石か・・・に乗り上げ車が跳ね上がってしまった。  「犬!!お前!!」   あの人は運転していたスーツを罵ったがこれは仕方ない。      でもあの人の放った何か、あの人自身、その銃から何が出てくるのか知らないのだけど・・・は標的に当たりはしたのはさすがだった。  詐欺師がドアを開け放ち、情報屋にむかって延ばしていた左腕は肩の下から先までが消え去っていた。       詐欺師の綺麗な顔が歪んで絶叫した。   それは、腕がなくなったからの叫びでは無かった。  道の先に明かりが見えたから。    恐らく、合流する助けだ。  彼らはもう、俺達を諦めなければならない。  いや、俺達じゃない。  俺はいらないみたいだったけど。  だって詐欺師が叫んだのは情報屋の名前だったたんだ。  「   !!」  名前を叫んでいた。  あんなにも切ない叫び声を俺は聞いたことがない。   腕を失ったことなんかより、情報屋が連れ去られるのが耐えられないみたいな声だった。  俺と情報屋はあえて脚を置いてきた。  情報屋をリュックに詰め込むためだった。  リュックに詰め込んだのも、そう。  意志を縛られた情報屋が、詐欺師の元に戻ってしまうのを防ぐためだった。    俺達は両手両足を置いてくるべきだったんだ。  

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