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ブレイカー 7
情報屋は動く腕でドアを開けていた。
「ダメだ!!」
オレは叫んだ。
情報屋は意志を奪われていたのだろう。
オレの声を無視した。
両手を脚の代わりにして歩き、開いたドアへにじりよる。
「 !!」
スーツが叫んだ。情報屋の名前を。
引き留める為に。
一瞬、情報屋はスーツを見た。
痛ましい目だった。
餓え渇ききったような。
あの明るいこの人の中に、これほどの苦しみがあることを俺は気付きもしなかったんだと俺は悟った。
あの人は外したことが悔しくて、情報屋の動きに少し気付くのに遅れた。
そして、右手が銃に変わっていたことが、情報屋を止めるのを遅らせた。
情報屋は両手で跳んだ。
車の外へ飛び出した。
詐欺師の元へ戻るために。
「 !!」
スーツがその名を叫んでブレーキを踏んだ。
情報屋の両脚のない身体は車外に飛び出し、後方に流される。
それを一本の腕が抱き留めた。
情報屋は、運転席の男に落ちないように支えられた詐欺師の胸の中に抱きしめられていた。
詐欺師は落ちるばかりに車から身を乗り出し、残った腕一本で車から落ちる情報屋をつかまえたのだ。
「 !!」
詐欺師がその名を叫ぶ。
愛しいものがもどってきたかのように。
詐欺師がもう離さないというように抱き締めるのが見えた。
運転席の男は詐欺師と情報屋を腕一本で、車内に引きずりこんだ。
情報屋の脚がないとは言え、二人の人間の重さを運転しながら支えたのだ。
男の腕力は凄まじかった。
そして運転技術も。
未舗装の狭い道で、急ブレーキをかけ、車を滑らせ回転させ、逆方向に車の向きを、かえてみせたのだ。
そして、猛スピードで車は俺達から去っていく。
「 !!」
スーツもその名を叫び続けた。
脇に仕込んだホルスターから銃を抜き、走りさる車めがけて撃ったが、当たらなかった。
合流しにきた仲間達の車に追いかけるよう指示し、道を封鎖するようにスーツは命令ひていた。
無駄だ。
多分。
あの男は逃げる。
「やれやれ・・・結局最初からやり直しか。元通りだな」
あの人がため息をついた。
やり直し・・・。
元通り・・・。
いや、違う。
詐欺師は俺達の中に楔を打ち込んだ。
俺とあの人の間に。
俺はあの人を見つめる。
元通りにはならない。
元通りなんてならない。
あの人は俺の視線に気付く。
心配そうな顔なんかしないでくれ。
そんな、何を言おうかなんて、あんたらしくなく、悩まないでくれ。
躊躇いながら手を伸ばさないでくれ。
俺をそんなに気遣わないでくれ。
・・・俺にそんな価値はないのに。
「・・・ガキ?、どうしたんだ、本当に」
その優しい声に堪えられず、とうとう俺は泣き崩れてしまった。
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