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カルト 3
最後に残る幹部が、神と彼を殺すことになっていた。
そして、幹部は自ら命を絶つ。
それで全ては終わる。
在家信者や、極秘任務のため連絡がつかなかった幹部や、地方の教会に派遣した司祭達は残るが、心臓だった神と彼が死ねば何もかもお終いだった。
楽しい。
生まれてはじめまして彼は思った。
人か死ぬのはこんなにも楽しい。
愛しい。
自分から信者達は個人を捨てた。
大きな集団の一部になり、その中に入ることの安らぎのために個人を捨てた。
でも、死だけは誰一人として同じではなく、同じような生き物だった信者達を一人一人違うモノにかえていく。
楽しい。
愛しい。
そして、こんなにも気持ちいい。
貫かれいつものように美しく喘ぐだけではなく、声を上げて乱れながら彼は思った。
神に抱かれてるからではない。
死とセックスしているからだ。
死がここにあるそれがたまらなくいい。
相手など誰でも良かった。
楽しい。
死にいく人達か愛しい。
死はこんなにも気持ちいい。
自ら腰を振り、搾り取り、何度も何度もイった。
死の気持ち良さに、酔いしれた。
「もう・・・やめ・・・」 貪欲なだけがとりえの神が哀願する。
抜かせてなどやらない。
締め付け、蠢き、またそだてる。
神が止めようとすることさえ赦さなかった。
それでも、信者達か死に絶え、彼もとうとう崩れ果てた時、幹部がうっとりと彼と神に言った。
「お時間です。もうすぐ奴らが来ます」
幹部は二人のために特別な刃物を用意していた。
美しい装飾がされたナイフだった。
彼は思った。
生まれて初めておもった。
死にたくない。
こんなに楽しいのに。
神は頷いた。
神は彼をつれてあるのかも分からぬ来世に向かうつもりだった。
「行こう我が子よ」
神は言った。
彼は生まれて初めて神に怒りを感じた。
逆らったことなどなかった。
全てさせたいようにし、従ってきた。
でも嫌だ。
もう嫌だ。
こんなにも楽しいことがあるのに死んでたまるか。
血とセックス。
人々をその人に戻してやるあの愛しい瞬間。
彼は思った。
死ぬのはお前だけでいい。
「私はここに残らなければならない。その人を送ってやってくれ」
淫らに汚された姿を晒しながら、彼はナイフを持つ幹部に言った。
神ではなく「その人」と。
幹部も神も驚いた。
その態度も神の言葉に逆らう彼も有り得なかったからだ。
「・・・なにを」
神はとくに驚いていた。
生まれた時から神のおもちゃ。
思いのままに出来る綺麗で可愛い道具。
犯しても、脳を刺しても、頭蓋骨に穴をあけても逆らわない。
綺麗で淫らで従順な持ち物。
それが逆らったのだ。
「あなたの力は全て引き継いだ。今は私が神となった。その人を転生させてさしあげろ」
彼は幹部に言った。
教団の教義ではセックスとは相手のエネルギーを受け入れることが出来るものだった
特に神とセックスすることはそのエネルギーを得れる恩寵でしかなかった。
だから、幹部は納得できるものもあった。
何より、彼は神々しいまでに美しかった。
そして、幹部は神が随分、年老いてしなびているこてとに今気づいた。
「何を言っている・・・」
神は戸惑う。
なんだ、これは。
全てを持って来世へ向かうはずなのに、神として来世に向かうはずなのに、これはどういうことだ?
「この世界の人々を私は救わなければならない。あなたは先に行って下さい。あなたの力は受け継いだ」
彼は言った。
幹部を魅了するのはその視線だけで十分。
いや、もう人々を魅了し信じさせていたのはいつからか、彼の存在こそだったのではないのか。
「何を・・・」
それに気づいた神は慌てた。
そして、幹部が神にナイフをむけていることも。
「まだ時間はあるか?どのくらいまでギリギリここにいれる?」
彼は幹部に尋ねた。
「まあ、無理をすれば30分」
幹部は言った。
「そうか・・・これは試練。来世に往くために苦痛こそが必要なのだ。時間ギリギリまで、苦痛を与えてさしあげろ」
彼は言った。
「何・・・を」
神は怯えた。
何を?
何を?
「目からえぐっていくといい」
彼は幹部の頬を愛しげに撫でて囁いた。
幹部は彼の清らかな顔を見て・・・頷いた。
何を?
何を?
何を?
神は、いや、しなびた男は銀のナイフが顔に近づく意味が分からず混乱した。
ナイフはさすがに良く切れて、バターに差し込むかのように目に吸い込まれていった。
警察が発見したのは200人近い信者達の死体と、教祖である男の惨殺事件死体だった。
鼻や耳が削がれ、舌をきりとられていた。
教祖が寵愛していたと言われる美しい少年と、幹部の一人は姿を消していた。
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