108 / 275

カルト 3

 最後に残る幹部が、神と彼を殺すことになっていた。  そして、幹部は自ら命を絶つ。  それで全ては終わる。  在家信者や、極秘任務のため連絡がつかなかった幹部や、地方の教会に派遣した司祭達は残るが、心臓だった神と彼が死ねば何もかもお終いだった。    楽しい。  生まれてはじめまして彼は思った。  人か死ぬのはこんなにも楽しい。  愛しい。  自分から信者達は個人を捨てた。  大きな集団の一部になり、その中に入ることの安らぎのために個人を捨てた。  でも、死だけは誰一人として同じではなく、同じような生き物だった信者達を一人一人違うモノにかえていく。  楽しい。  愛しい。  そして、こんなにも気持ちいい。  貫かれいつものように美しく喘ぐだけではなく、声を上げて乱れながら彼は思った。  神に抱かれてるからではない。  死とセックスしているからだ。  死がここにあるそれがたまらなくいい。  相手など誰でも良かった。  楽しい。  死にいく人達か愛しい。  死はこんなにも気持ちいい。  自ら腰を振り、搾り取り、何度も何度もイった。  死の気持ち良さに、酔いしれた。    「もう・・・やめ・・・」 貪欲なだけがとりえの神が哀願する。  抜かせてなどやらない。  締め付け、蠢き、またそだてる。  神が止めようとすることさえ赦さなかった。  それでも、信者達か死に絶え、彼もとうとう崩れ果てた時、幹部がうっとりと彼と神に言った。    「お時間です。もうすぐ奴らが来ます」  幹部は二人のために特別な刃物を用意していた。  美しい装飾がされたナイフだった。  彼は思った。  生まれて初めておもった。  死にたくない。  こんなに楽しいのに。  神は頷いた。  神は彼をつれてあるのかも分からぬ来世に向かうつもりだった。  「行こう我が子よ」  神は言った。  彼は生まれて初めて神に怒りを感じた。  逆らったことなどなかった。  全てさせたいようにし、従ってきた。    でも嫌だ。  もう嫌だ。  こんなにも楽しいことがあるのに死んでたまるか。  血とセックス。  人々をその人に戻してやるあの愛しい瞬間。  彼は思った。  死ぬのはお前だけでいい。  「私はここに残らなければならない。その人を送ってやってくれ」  淫らに汚された姿を晒しながら、彼はナイフを持つ幹部に言った。  神ではなく「その人」と。  幹部も神も驚いた。  その態度も神の言葉に逆らう彼も有り得なかったからだ。    「・・・なにを」  神はとくに驚いていた。  生まれた時から神のおもちゃ。  思いのままに出来る綺麗で可愛い道具。  犯しても、脳を刺しても、頭蓋骨に穴をあけても逆らわない。  綺麗で淫らで従順な持ち物。  それが逆らったのだ。  「あなたの力は全て引き継いだ。今は私が神となった。その人を転生させてさしあげろ」  彼は幹部に言った。  教団の教義ではセックスとは相手のエネルギーを受け入れることが出来るものだった  特に神とセックスすることはそのエネルギーを得れる恩寵でしかなかった。  だから、幹部は納得できるものもあった。    何より、彼は神々しいまでに美しかった。  そして、幹部は神が随分、年老いてしなびているこてとに今気づいた。  「何を言っている・・・」  神は戸惑う。  なんだ、これは。  全てを持って来世へ向かうはずなのに、神として来世に向かうはずなのに、これはどういうことだ?   「この世界の人々を私は救わなければならない。あなたは先に行って下さい。あなたの力は受け継いだ」  彼は言った。  幹部を魅了するのはその視線だけで十分。  いや、もう人々を魅了し信じさせていたのはいつからか、彼の存在こそだったのではないのか。  「何を・・・」  それに気づいた神は慌てた。   そして、幹部が神にナイフをむけていることも。  「まだ時間はあるか?どのくらいまでギリギリここにいれる?」  彼は幹部に尋ねた。  「まあ、無理をすれば30分」  幹部は言った。  「そうか・・・これは試練。来世に往くために苦痛こそが必要なのだ。時間ギリギリまで、苦痛を与えてさしあげろ」  彼は言った。    「何・・・を」  神は怯えた。   何を?  何を?  「目からえぐっていくといい」  彼は幹部の頬を愛しげに撫でて囁いた。  幹部は彼の清らかな顔を見て・・・頷いた。  何を?  何を?  何を?  神は、いや、しなびた男は銀のナイフが顔に近づく意味が分からず混乱した。  ナイフはさすがに良く切れて、バターに差し込むかのように目に吸い込まれていった。 警察が発見したのは200人近い信者達の死体と、教祖である男の惨殺事件死体だった。     鼻や耳が削がれ、舌をきりとられていた。  教祖が寵愛していたと言われる美しい少年と、幹部の一人は姿を消していた。

ともだちにシェアしよう!