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カルト 4
「・・・スーツ、どうしちゃんたんだよ」
俺は思わずスーツの肩を揺さぶった。
こんなボロボロのスーツ見たことない。
一緒に現場で戦った時も、後も、俺がボロボロになっても、スーツはここまで弱ったことはなかった。
そりゃ、情報屋が奪還されたのはショックだろうけど、スーツはあの後わりと冷静で、次の手はどうするかを考えているようだったのに。
ヒゲそってないとか、シャツのボタンがズレてるとか、やつれきった顔とか・・・何があったんだ!!
「ああ・・・問題ない。心配するな」
スーツはいうがその言葉さえ、生気がない。
なんていうか、その、魂を抜かれた感じ?
「今晩は・・・申し訳ないがここに泊めて貰っていいだろうか」
スーツはソファーに座ったまま顔を覆って言った。
「良いっていいたいけど・・・あの人俺を抱くぞ?誰がいようと気にしないぞ」
ベッドルームからの声は筒抜けにならはず。
本来なら絶対に拒否するところだが、スーツのやつれぶりと、なんかもう、声位ならかまわなくなってきた慣れみたいなもんがあって、断りにくい。
まずい。
何か俺、一つ乗り越えてはいけない壁をのりこえてしまったように思える。
「大丈夫だ。私は君らのあれやこれやは全く気にしない。・・・彼女も全く気にしないだろう。君達が目の前でしてても気にも止めないだろう」
スーツがブツブツ呟く。
どうかしてるぞ。
大丈夫かスーツ。
彼女って?
彼女だよな?
俺はダイニングのテーブルに目をやった。
本当に予想外に紳士的に振る舞うあの人が、スーツの元嫁の女の子、いや変な言い方だけと、女の子にしか見えないんだよね、に紅茶を入れていた。
カッコイイよな。
あの人。
絵になるよな。
うっとり見つめてしまう。
いや、違う。
そういう話ではない。
そう、彼女、彼女がどうしたの?
まさか。
まさか。
「スーツあの子をつれて帰ったのか?」
俺は聞いた。
下手すりゃ中学生にしか見えない彼女。
「・・・仕方ないだろ。知らない連中と慣れないホテルとかでは・・・彼女は混乱する。オレの家で・・・保護していた」
スーツは力なく言った。
あ、「オレ」とか言ってる。
元嫁と二人きりで一晩。
しかも明らかにスーツは別れた嫁に未練たっぷりだ。
「スーツ!!あんたあの子を!!」
犯したのか!!と言いかけて、やめる。
「オレが抱いてたら・・・あの子が今無事にここにいるわけがない。止められるはずがない」
スーツは顔を覆ってソファに崩れ込んだ。
「ああ、そう」
俺は頷くしかなかった。
スーツのオレはセックス強いぞ自慢などではこれはなく、明らかに未発達な身体の彼女には巨体なスーツは負担が大きいのは明らかだからだ。
ああ、だからやつれているんだな。
好きな人と一つ屋根の下の生殺し状態。
しかもその肌に触れたことがあるならなおさらだ。
「・・・彼女は分からないから、分かってくれないから・・・全然平気だし・・・平気で風呂上がり裸でいるし、ベッドに潜り込んでくるし・・・彼女は性欲とかがわからないから・・・」
めずらしくスーツが錯乱してる。
耐えたらしい。
生殺し状態を耐えきったらしい。
偉い。
オレがあの人が隣りで寝ていて何もしないなんて有り得ない。
オレはあの人と暮らして、一度たりとてそんな夜をすごしたことがないので、その苦しみは理解してやれない。
むしろ、「やめて、許して、もうやめて」と叫んでされてるので。
不本意だけど。
ん?
「・・・でも結婚してたんだよね」
俺は聞く。
セックスとかしてたんじゃないの?
性欲がわからない?
「・・・最後までしたのは・・・数回しかないんだ。彼女はオレが好きだから耐えてくれているのが分かっているから・・・我慢できない時に触ったり、指や口でしてもらうくらい・・・」
スーツは相当やられてるのだろう。
普段なら言わないようなことまで口走っている。
ええ、そんなのだったの・・・。
同じ男として同情した。
俺も好きな人と最後までしたのは昨夜が初めてだけど、最後までは毎日してるというか、されてる。
それって辛くない?
でもスーツは彼女が本当に好きなんだって思った。
それでもいいから結婚してたなんて・・・。
ちょっと俺感動。
純愛じゃないか。
「彼女の警備をしなければいけないから、よそに発散しにも行けない」
スーツがぼやいた。
ええ?
「結婚してた時は外で発散していたから・・・」
なんかスーツ言ってる。
「浮気してたのか!!」
俺は大声を出して反省した。
浮気と言う言葉にテーブルに座っていたあの人がピクリと反応したからだ。
いや、せっかく赦してもらえたのに・・・。
刺激したくない。
「・・・彼女は気にしない。彼女はそれ程身体を繋げる行為に意味を持てない・・・人に触られるのも本当は嫌いなんだ」
スーツは言った。
でも、オレは我慢できなくてそれでも・・・何度か最後まで・・・と正気じゃないスーツが呟いている。
目がヤバい。
「いいよ・・・部屋3つあるから。あの人は誰がいても気にしないし。やりたいようにするから。それに・・・あの子のことをあの人はめずらしく気に入っているみたいだし」
本当に驚いた。
実に紳士的に振る舞っている。
いたぶったり、嫌みをいったり、気まぐれに殺そうともしない。
どうしたことなんだろう。
彼女に付き合って紅茶を飲んでさえいる。
「・・・助かる。誰かが同じ屋根の下にいると思うだけで耐えれる・・・彼女も何故かあの男には拒否反応がない」
スーツはぼやいた。
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