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カルト 9

 順調に新しい教団は形を作っていった。  僅か一年でこれなら、きっと元の教団より大きくなるだろう。  逃亡中だから表にでることは出来ないが、いずれ何か方法を考えよう。  幹部は思った。  もう、幹部や彼が直接街角に立ち、呼び止める必要はない。    出家制度はもう取らないと彼は言った。  側にいるのはお前だけでいい、と。  その言葉だけで十分だった。  彼はもう少年ではなかった。  美しい男になっていた。  同じ位の身長だったのに、今では幹部より大きくなっていた。    相変わらず細身で、労働を知らない身体は歪みなどなく美しくしなやかで、その顔は清らかさと共に、知性と慈愛に溢れ、聖人にしか見えなかった。  車の運転、外の世界の細々としたこと、何でもせがまれたならば教えた。  全てを与えた。  小さな思い出話の一つ一つ、誰かに与えたことのある愛の全てまで。  毎夜隣りで眠ることを許され、優しく抱かれた。  相変わらず、彼等を呼んで酷くされることも受け入れた。  彼等が何ものなのかを確かめることを許されないことも受け入れた。    彼等に汚される度に、彼への愛を感じた。  彼等の要求に全て従った。  それは愛だった。    言われるがまま何人ものモノを咥え、後ろに挿れられるがまま腰をふり、淫らな言葉を彼らに命じられるまま口にした。  清らかな彼の目が見ているなら、これは何も自分を汚さない。  そう信じた。   コレが終われば、清めて貰える。  そう思って耐えた。    「聖人さん」    奴等はそう幹部を呼んだ。  そう呼び馬鹿にし、犯し続けた。  教団で彼がそう呼ばれていたことを思い出した。  彼も信者に汚されながらそう呼ばれていた。  彼もその穴と口を汚されなかっだけて、何年も何年もその身体を信者に与え続けてきたのだ。   幹部自身も何度となく彼のモノを口にふくみ、扱き、腹や顔を汚していたことを思い出した。  清らかに汚されていく彼に何度となく、欲情したことを。  信者達は敬いながら、彼を汚し、  奴等は蔑みながら、幹部を汚した。    それにどれだけの違いがあるのだろう。  彼と同じであることに幹部は恍惚となった。      その日はいつもと違った。  普段よりも苛烈に彼等にいたぶられた。  泣き叫ぶ姿がみたいと何度となく殴られ、はいつくばる姿がみたいと汚れた靴を舐めさせられた。  上からも下からも精液を注がれ続け、思わず吐き、そのたびに殴られ踏まれた。    いつも通り、でも清らかな視線が幹部を見ていた。  彼が見ていた。  それだけで耐えられた。  コレは修業なのだ。  修業。  彼の側にいるための。  終われば清めて貰える。  いつもより長い、そして苛烈なそれが終わった。  彼等が下ろしていた自分のズボンを引き上げ、幹部を顧みることなく去っていく。  全裸で、鼻血や精液に汚れ、折れただろう脇腹を押さえ、呻きながら幹部は起き上がろうとする。   彼のもとに行こうと。    抱きしめてもらおうと。  清めて貰おうと。  「愛してる」と言って貰おうと。  それだけで全てがみたされる。  しかし、顔をあげ、その貸し倉庫を見回したそのどこにも、彼はいなかった。  必死で彼を求めその名を呼んだ。  返事はなかった。  幹部はボロボロに破かれた服をなんとか身につけ、闇に紛れ、彼と隠れ住む部屋に戻った。  彼はいなかった。    どうして?  幹部は分からない。    そのまま朝まで痛む身体を抱えたまま彼を待った。  彼が抱きしめてくれるのを待つ。  それだけが全て。  「愛してる」と言って。  あなたのためなら神さえ殺した。  あなたのためなら、何でもする。  全て捧げる。  全て捧げた。  朝がきても彼は戻ってこなかった。  そして、幹部は理解した。  少年の荷物、そして、彼等が手に入れた金の通帳、車のカギなどがなくなっていたから。    少年は去って行ったのだと。  そして、自分はもう二度と清めてもらえないのだと。  言葉一つ、嘘一つ残さなかった。   だからこそ、全てが嘘だったことがわかった。    嘘でしかなかったのだ、と。  一人で生きる力を得たからもう幹部は用済みだったのだと。  嘘は代償だった。  彼は嘘を支払ってくれたいたのだ。  全部捧げたから、捧げつくしたから、嘘さえ貰えなくなったのだと。   幹部は腹を切り裂いた。  あの夜死んだ人達のように。  自分が殺した教祖のように。  死んだ後どこへ行くのかも分からないまま、何度も何度も腹をついた。  もう、神や彼が語った来世など信じていなかった。  苦痛と内臓からこほれる内容物の臭いだけがリアルだった。  嘘が欲しかった。  甘く優しい嘘が、欲しかった。  嘘のない世界ではもう生きていけなかった。  そして、嘘に焦がれながら・・・意識は暗闇の中に落ちていった。  

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