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助け手 1

 「あのね、言ってもいい?」  オレは車を運転しながら言った。  助手席でニコニコしなから嘘つきはオレを見ていた。  後部座席で傭兵のあの男は寝転んでいる。  「オレあんたらに拉致されてんだよね?拉致された上に、レイプされて、挙げ句性行為強要されてんだよね?かわいそうな被害者だよね?」  オレはナビに従いながら車を運転していく。  「何で!!オレが!!運転したり!!代理店に連絡したり!!書類作ったり!!働かさせられてんの!!!!」  オレは怒鳴った。  片手のなくなった嘘つきの身の回りの世話から、何故か嘘つきが企んでいる虐殺タイムのお手伝いをオレはさせられていた。  「仕方ないだろ。明らかにカタギじゃないオレが表に出るわけにはいかないし、この人はいきなり片手になってしまったから説明とかするのも大変じゃないか。それにオレはあくまでも荒事のためにいるんでね・・・事務仕事や雑用はオレの仕事じゃない」  男は眠そうな声で言った。  「オレの仕事は被害者だ!!」  オレは怒鳴る。    「兄さんそんな仕事はないよ。兄さんおもしろいなぁ」  男は笑った。  どういう仕組みなのか分からないが、オレは嘘つきの頼みを断れない。  言葉で頼んでくるわけではない。  風呂の前でニコニコしてたり、朝着替えをもってニコニコしてたり、書類をもってニコニコしてたりするだけだ。  いや、書類は自分で記入できるだろ。片手で出来るだろ。  今朝は車のカギを持ってニコニコしていた。  ナビの指示通りに運転したら、男を拾うことになり、さらに運転させられている。  元々世話焼きなところがあるので、手伝ってしまうのは自分でもわからないでもないが、明らかに嘘つきの虐殺の手伝いになることまでしてしまうのは、意志を縛られているんだろうな。  警察に捕まったら確実に共犯者決定だ。  何でだよ。  嘘つきが意外と甘えたなのは良くわかった。  めちゃくちゃ甘えただ。  もう、ベタベタされてる。  今でも助手席からオレの膝に手を置いてる。  「ベタベタすんな、うっとおしい!!」  オレは嘘つきに怒鳴るが、嘘つきは、ニコニコするだけなので、疲れてくる。  戻ってきてから嘘つきはオレを離そうとしない。  ご機嫌だ。  何なのコレ。  「兄さん、性行為は少なくとも今は強要されないだろ?・・・いいじゃないか、共犯者になろうぜ?この人に絆されてやってよ」  男がニヤニヤしながら言う。    オレは言葉につまる。  確かに、今は強要されてない。  でも、ガンガンしてる。  てか昨夜押し倒したのはオレだ。  ムラムラして、やっちやった。  だって、アイツの切れた腕の断面、なんかクるんだよ。  良く分かんないけど、欲情しちゃうんだよ。   ベッドに押し倒してズボンを引きずり下ろして、  咥えて育てて、自分から嵌めた。  そこから好きにやられたが、確かにオレから始めた。  コイツ、日常生活を腕一本でこなす気全くないくせに、セックスだけはどんどん前みたいにこなせるようになってきている。  「なあ、仲間になっちゃお」  男が起き上がり、運転席のオレの耳もとで囁いた。  ゾクリとした。     コイツにされたことを思い出してしまう。  コイツはオレを抱いてたことを知らないけど。  オレは覚えてる。  恋人として情熱的に抱かれたことを。   ドン  嘘つきが男を後部座席に押し戻した。  男を睨んでる。  男が笑う。  「コレは失礼。・・・こんなに愛されてんだから、なぁ?」  男はしつこく言う。  「大量虐殺に参加する気はないし、コイツは好みじゃない」  オレは言い切ったが、あまりも有能なオレは何をするのか分からないが、その会場で使うモノの手配やら、イベント会社との打ち合わせやらをテキパキこなしていっている。     最悪だ。  自分の有能さがまさか悪の道具になるとは思わなかった。    「この人にチャンス位やれよ~。兄さんの好みって?」  男が笑う。  退屈しのぎなのは間違いない。  「・・・ロリコンの変態」  オレの言葉に目を丸くする。   「なんだそりゃ」  だろうな。オレもそう思う。  だってそうなんだから仕方ないだろ。  「毎日やせ我慢してるくせに、我慢しきれない男」  オレは付け加える。  「はぁ?」  男はわからないのと言った顔をする。  あの子をアイツは何度最後まで抱いたのだろう。  外に後腐れのない相手を作っていたのは知っている。  あの子に触らずにすむように。  でも、アイツが抱かずにすむわけがないとも知っている。 ドスケベだから。   たまらず抱いて、あの子を寝込ませ、混乱させ、苦しめ、謝り、後悔し、苦しみ、また我慢を続けたのだろう。  全部わかっていて結婚した。  あの子にはセックスのような肉体的接触は苦痛でしかない。  外界からの刺激にあまりにも敏感なのだ。    だけどあの子は許しただろう。     アイツを愛しているから。  そしてアイツはやせ我慢させられる毎日でも、それでも。  あの子と暮らす毎日がとても幸せだったのだ。      オレはそれを知ってる。    ちょっと泣きそうになった。  「で、ムッツリのドスケベ」  オレの言葉に男は笑う。   「それならこの人もそうだろ」  「コイツ、スケベも変態も隠してないだろ、堂々とさらしてるだろ」   オレは言い返す。  「まあ、な」    男は頷く。  「で・・・オレを抱けない男」  オレの好みはそうなんだから仕方ない。  「・・・難儀な男だね、あんた」  男がため息をついた。  「だろ?・・・オレの好みは難しいんだ」  オレは言った。  膝に置かれた嘘つきの手が強くオレの脚を握ったので、オレは痛みに悲鳴をあげた。  一瞬ハンドルを切ってしまって、あわてて戻す。  車が揺れた。     「運転してるからやめろって!!」  オレは嘘つきに怒鳴る。  「そうだ、あんたらはいいけど、オレは死ぬからな!!」  男も怒鳴る。  嘘つきはむくれていた。    子供みたいに膨れていた。  可愛いと思ってはしまう。  しまうわけだよ。   無節操なオレとしては、スケベ心でね。  殺人鬼だし、詐欺師だし、これも嘘なのかもと思っても。   下半身は別なんだよね。  ホント、オレが最低です。    「・・・ところで兄さん、銃は撃てるかい?」  男はオレに聞いてきた。  「撃ち方位は知ってるけど?」  オレは答える。  アイツに連れられて民間の射撃場で遊びで撃ったことならある。  「良かった。じゃあ今から運転代わるから、当たらなくていいから撃ってくれる?」  男は言った。  後部座席から男は立ち上がる。  運転席と助手席の間から身体を乗り出してくる。  走行中なのに、席を代わろうとする。  「ハンドルはもつから、脚はアクセル踏んでて、そう、そのまま、はい、アクセル離して、はい、ほら、ゆっくり後ろの席に移動して?」  「なにを?、へっ?」  分からないまま、走行中の運転を交替させられ、後部座席に移動させられた。  「はい」    後部座席のオレに、男は手渡したのは銃だった。  リボルバーだ。   うん、これなら撃ち方知ってる。  「へえ?」  オレは持ったまま首を傾げた。  「撃たれたら撃ち返してね」  男は不必要に身体を低くし、奇妙な姿勢にになりながら運転している。  「はぁ?」  オレがそう言うのと後部座席のリアウインドが吹き飛ばされたのは同時だった。  何発の銃弾が撃ち込まれたのかはわからない。  ただ、何発かは確実に、オレの背中にめり込んだのは確かだつた。  「うあっ!!」  オレは悲鳴をあげた。    だから、だから、仕方なかったのだ。  つい、本能が。  生存本能が・・・・。  教えられた動作で、よく狙いもしないまま、砕けたリアウインドからオレは撃っていた。  つい。  「そのまま、撃ってて!!」  男の言葉を聞いたわけではないのに、オレはその通りに。  弾がなくなるまで撃っていた。  そして、オレは見てしまった。  オレか撃った弾の先にあるのは車のフロントガラスで、  そこで運転しているのは・・・アイツで、その助手席からこっちを撃っているのは捕食者だった。  オレ、アイツに向かって撃っちゃった。  オレは慌てた、追ってくるというか、助けに来てくれてる車のフロントガラスはオレの撃った弾で真っ白にヒビが入っている。    デタラメに撃ったおかげで、アイツには当たらなかったようだけど。    良かった。  良かった。     でも、視界が悪くなったせいで、運転しにくいだろう。    「良く撃った兄さん!!」  運転席の男がオレを誉める。  いや、撃つつもりは・・・。    

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