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助け手 5

 「ベタベタすんな」  オレは怒鳴った。  でも嘘つきはオレの肩に甘えるように頭をあずけ、猫のように顔をこすりつける。  「まだ逃げれたわけじゃないんだからな!!」  オレは嘘つきのイタズラな手を押さえつける。  嘘つきの右手がオレの身体のそこここを、怪しい感じで撫でて始めたからだ。  車の後部座席だ。  乗り換えたところだった。  「いや、兄さん賢いねぇ。あんたがいると助かるなぁ」  運転しているのは、あの男だ。  違う違う。  こういう予定ではなかった。  オレは頭を抱える。  嘘つきが今度は首筋にキスを落としてくる。  「止めろって・・・」  オレは怒鳴るけど、止める気はないらしい。  「兄さん、オレは気にしないし、あんた見られるの平気なタイプだろ?」  運転席から男が笑う。  そうだけど、そうだけど!!!  見られるとかそんなのはとうでもいいんだけど!!!    嘘つきは自分の服の着替えは自分でしないくせに、オレのシャツは上手に片手でボタンを外していく。    ガン  「止めろ!!」   本気で拳骨を鎖骨に舌を這わせていた嘘つきの頭に落とす。    「!!」  嘘つきは本痛かったらしく、頭をおさえて涙ぐむ。  本気で殴ったから当然だ。  「オレは言ったな?車を近づけるだけでいいって。割り込ませろなんて言ってないだろ!!」  本気で怒鳴る。    嘘つきに提案したのはオレだ。  オレは嘘つきがネットを通じて脳に入り込んでいく姿をみてきた。  おそらく、軽い洗脳状態にさせることはネットを通じてでも可能なのだ。  殺し合わせたりするには、嘘つきを目の前にしてもっと深く洗脳させ、直接的な指示が必要なのだとしても。  「この道路のどこかにいる、誰かをお前の影響下におけるか?ソイツがネットを使っていれば?」  オレをは捕食者の殺意を感じながら、追われる車の中でたずねた。  味方が必要だった。    嘘つきはオレの言っている意味を理解した。  頷いた。  スマホを嘘つきは握りしめた。     青い光がスマホから現れる。  よく見ればそれは沢山の文字だった。  針の先のような文字から、手の平ほどの大きな文字。  スマホから洪水のように溢れ出していく。  「何だよ、これ!!」  運転している男が驚いたが、男は運転に専念する。  さすがプロだ。  光は溢れ出して消えていく。  嘘つきはそれを見ている。  探しているのだ。  何か見つけた。  言葉が嘘つきの前に選び出され、光る。  嘘つきはその言葉に指を走らせる。  言葉が形を変えて、またスマホに戻る。  また言葉をとりだし、言葉を変化させ戻す  おそらく、何がやりとりをしているのだ。  そして、おそらく、嘘つきの嘘に捕らわれていく。  嘘つきが微笑んだ。  蒼く光る言葉をスマホからどこかにいる誰かに送りこみながら。  そして、嘘つきはオレに向かって微笑んだ。  捕まえたか。  本来、洗脳なんかさせたくはない。  でも、オレだって死にたくはない。  とにかく、まずはオレが生き残る方法を探させてもらう。  「ソイツはこの道路の先にいて同じ方向を走っているか?」  オレの言葉に嘘つきは頷く。  よし、嘘つきはさすがにオレが望んでいることがよくわかづている。    「二番目の車線を走らせろ。オレ達の車がソイツの車に追いついたら、捕食者の車に接触させろ、軽くでいい」  オレは言う。  捕食者はともかく、アイツは明らかな一般人をまきこむような真似はしないはずだ。  車がぶつかれば、一般人の車を巻き込みそうになったなら とりあえず一旦止まるはずだ。  それで逃げる。  逃げてから後のことは考えよう。  嘘つきから逃げる方法と、捕食者から逃げる方法を。  とにかく、今はオレを殺す気、たっぷりの捕食者から逃げる!!  だから焦った。  捕食者がアイツを運転席から車外に蹴り落としたのを見た時、これは駄目だとおもった。  なんてことしやがる。  アイツ無事か?  ・・・多分無事だろ、うん。  そう思うしかなかった。。  いや、それより、コレは駄目だ。  作戦は中止だ。  アイツなら一般人を巻き込まない。  と、思う。  ギリギリまでは。  でも、捕食者は一般人がどうなろうと気にしないだろう。  たったひとりの民間人の命と引き替えに、嘘つきとオレと男を消せればラッキーだとしか思わない。  「・・・ダメだ、あの車に離れるように言・・・」  オレは嘘つきに言った。  口をふさがれた。  嘘つきが後部座席に移ってきていた。   嘘つきの手はオレの口を塞ぐ。  そして、唇で、塞ぐ。    オレは訴えようとした。  捕食者はとまらない。  だから、一般人を巻き込むのはやめる、と。  嘘つきはそれを言わせようとしなかった。  「やめろ、・・・って」  嘘つきの顔を押しのけて、必死で言うオレの口に嘘つきの指が入ってくる。  その指がオレの口の中をかき混ぜてくる。  気持ち酔いところを擦る。  口の中で指がいやらしく動く。  こんな時なのに、オレの身体は喜んだ。    「やめ・・・んっ」  オレは喘いだ。  ダメだ、止めさせないと。  なんで、急にこんなこと、コイツ・・・。  オレは必死で止めるように言おうと嘘つきを見つめた。    そして分かった。  嘘つきは止める気などなかった。  嘘つきには全てがどうでも良かったのだ。  嘘つきは笑っていた。  全てを笑っていた。  追いかけてくる捕食者も、それを邪魔しようと捕食者の車に自分の車をぶつけようとしている操っている男も、ギリギリまで逃げようと運転席でハンドルを握る男も、蹴り落とされたアイツも。  何もかもを、見下したように笑っていた  どうでもいいのだ。  コイツには。  でなきゃ、こんな笑顔で笑わない。  嘘つきは楽しそうだった。    捕食者になぶり殺しにされる最中でも・・・嘘つきはこうやって笑うのだろう。    「・・・オレのことも笑うのか・・・そうやって」  オレは恐ろしくなって呟いた。    コイツが怖いと思った。  コイツが恐ろしいと思った。  綺麗なのに空っぽだ。  嘘しか入っていないのに、その嘘には何の意味さえもなかった。  コイツは生きたいとすら思っていない。  オレの言葉に嘘つきは不思議そうな顔をした。  でも、まるで大切なものを抱きしめるように抱きしめられた。    ああクソ。  最悪だ。  作戦は失敗だ。    アイツは無事か?  捕食者に捕まったらどうなる?  罪のない人を巻き込んでしまった。    ああ、クソ!!  うまくいかない。  最悪だ。  壁はすぐそこで。  捕食者は俺達をペタンコにしたいのだ。  そこで潰される痛みより、その後捕食者にされることに恐怖感した。  オレは目を閉じた。  すがるものが欲しくて嘘つきにしがみつく。  「  」  オレはアイツの名前を呟いた。  でも、必死でしがみついたのは嘘つきの身体だった。   嘘つきは片腕だけで、しっかりとオレを抱きしめた。  良く知る身体にオレは身体を預けた。  嘘つきは信じられない。  嘘つきは空っぽだ。  でも、その身体はあたたかで、まるでオレを求めているかのように包み込んだ。    衝撃音がした。  だけど、オレの身体には何の衝撃も痛みもなかった。  「やったぜ兄さん!!」  運転席から男が嬉しそうに叫んだ。  オレは嘘つきを突き飛ばし、割れたリアガラスから外を見た。  壁に激突したのは捕食者だった。  捕食者は一般人の車を避けるため、壁に自分からぶつかったのだ。  まさか・・・。  と思った。  でも、助かった・・・、と思った。  オレは突き飛ばされて膨れている嘘つきに向かっては怒鳴った。  「他に誰かをすぐにさがせ、この先のトンネルでソイツの車とこの車を交換する!!」  嘘つきは拗ねたような顔はしていたが、頷いた。    で、今乗り換えた車の中だ。  「・・・オレ達を違う人間の姿に見せることは出来るか?」  オレは嘘つきに尋ねた。  嘘つきは言うことを聞かなかったので、オレに殴られ、涙ぐんでいたが頷いた。    「この道路を降りる。あえて検問を通るぞ」  運転している男に言う。  乗り換えた車とのってる連中が捕まるのはすぐだ。  猛スピードで逃げるように嘘つきには彼らに指示を出させているが。  また、無関係な人を巻き込んでしまった・・・。  でも、死にたくない。  死にたくないんだよ。  オレだって。  「了解、ボス」  男がにやりと笑って言った。  「誰がボスだ。オレは善良な被害者だ!!」    オレはきっぱりと言う。  チャンスがあればお前らまとめて、アイツに引き渡してやる。    「はいはい。善良な、ねぇ。・・・でもあんた、悪党向いてるよ」  男は笑った。  「知ってる。でも、オレは悪党にはならない」  オレは言った。  オレはアイツの側にいたいのだ。  高速を下りる。  検問があった。  横をにいる嘘つきに眼をやった。  そこには嘘つきはいなかった。    真面目な感じのスーツの男性。  そして、運転席にもスーツを着た男が運転していた。  おそらくオレも。  オレは窓ガラスに映る自分を見てみた。  そこにはいつものオレと、綺麗な顔の嘘つきがうつっていた。  振り返る。  そこには見知らぬスーツの男。  なる程と思った。  鏡は嘘をつかないのだ。

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