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助け手6

 男は検問の列に車を入れ止めた。   車は長い列を作っている。  免許の提示を求められることがあるかもしれないが、それも嘘つきがどうにかするだろう。  「へえ」  嘘つきを見て、男は感心したように呟いた。  男も嘘つきの能力を知っているわけではないようだ。  そして、振り返ってオレを見て、目を丸くした。  そして、ハンドルに突っ伏して震えている。  笑っているのだ。  ガラスに映る姿やミラーに写る姿はオレ本来の姿なので、嘘つきがどんな姿にオレを変えたのか、オレにはわからない。  「えっ、オレどんななの?どんななの?」  オレは男に叫ぶ。  何それ、オレの可愛いルックスをどんなにしちゃったのコイツ?  「か、・・・可愛いよ・・・」  男は真面目な顔をしようとしていたが出来ないらしく、顔を歪めながら言った。  笑いをこらえきれないのだ。  肩が震えている。  どんななんだオレ?  オレはな、確かに嘘つきやら捕食者ほど「お綺麗」な顔じゃないけどな、自分の容姿は大好きだし、ちゃんとこの年になってもそれを保つために努力はしてきたんだぞ。  止めてくれ!!  「お前!!」  オレは嘘つきに怒鳴った。  外見は嘘つきではない男には両腕もあった。  ただすねたようにぷいと横をむく仕草が、間違いなく嘘つきだった。  コイツ、突き飛ばされたり触るのを拒否されたからってオレを妙な姿に・・・。  オレは震えた。     コイツ。  コイツ。  「まあ兄さん、とりあえず、検問突破してから続きはしようぜ」  男は笑いながら言った。  警官の誘導に従い、車を進める。  警官が窓を開けた。  顔を確認される。    「免許を」  男は手渡した。  当然写真の顔が違う免許だが、問題なかった。    まだ警官はオレを見てにこりと笑った。  「おばあちゃん、これから暑くなるから気をつけてね」  オレは優しく声をかけられ、自分が何に変えられていたのかを悟った。  運転席の男の肩が震えていた。  そんなに面白いか!!  嘘つき。  嘘つき。  許さねー。  オレは怒りを抑えて、警官に頭を下げるのが精一杯だった。    とりあえず、オレ達は検問を突破した。    さて、オレは烈火のように怒って追ってくる捕食者から一命をとりとめたわけだけども、敵の中にいることにはかわりなく。  どうすればいいのかをまた考えなければならなくなってしまった。  「早くオレを元の姿に戻しておけよ」  オレは嘘つきに言った。   でも、男が笑い続けているので、オレの姿をもどしてないことはわかる。  拗ねて横を向いたままの嘘つきと、笑い続ける男。    コイツらは敵なのだ。  オレはため息をついた。    「せっかくの家もダメだろうな。新しいのをさがすか?」  運転していた男が言った。   オレと男が住んでいた隠れ家がバレたと言うことか。  男は仲間と連絡がとれたらしく、運転しながらハンズフリーのイアホンで話をし終わったところだった。  男達は隠れ家にはいない。  「この仕事はパートタイムだからな」  と、男は笑う。  他の仕事がメインで、この仕事は極めて個人的な理由で引き受けている、と。  「パートタイムにしては、ハードな仕事だが」  男は笑う。    「新しいのをさがすか?」  男はもう一度言った。  嘘つきは住人を殺してその家を乗っ取る。   オレはオレと嘘つきの目の前で首を吊る住人を見た。  嘘つきはそれを見ながらオレを抱いたのだ。  オレの顔色をチラリと見て、男は車のルームミラーごしに嘘つきを見つめた。  「死体ならまた処理してやる」   男は尋ねた。  あ、あの死体処理したのコイツだったんただ。  嘘つきは少し考えているようだった。  そして、オレに目をやった。  真っ青になっているオレを。  目の前で痙攣し死んでいく人。  嘘つきの笑顔。  そして入ってくる嘘つきのモノに喘がせられる。  嫌だ。  嫌だ。  あんなのもう嫌だ。  オレは震えた。    嘘つきはそんなオレを見つめた。    無邪気とも言えるその眼差しに、オレは震えた。  怖かった。  この目で嘘つきは死んでいく人達を見つめていたから。  嘘つきはそんなオレをしばらく見ていた。  そして、男に首を振った。  「・・・そう。じゃあ、ホテルの前で下ろすよ。この車は処分しておく。また連絡してくれ」  男は言った。  オレはホッとした。   少なくとも今日はもう、誰かが殺されるのを見なくてもいい。  「・・・兄さん、前言撤回。あんた悪党にはなれないわ」  男の声は予想外に優しかった。    

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