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助け手 7

 ホテルにチェックインするのもカンタンだった。  嘘つきはホテルに電話をかけた。  そして、オレは嘘つきが電話でも人を乗っ取ることが出来ることを知った。  まあ、だろうな。  それには大しておどろかなかった。  そして、男にホテルの前でおろされ、嘘つきに姿を変えられて、ホテルにチェックインした。  ホッとしていた。  ホッとしていた。    今日はもう、誰かが死ぬところを見なくてもいい。  だから、部屋に入るなり嘘つきに抱きしめられても、そのまま身体をまかせた。  優しいキスに身を震わせた。  そのままされるのかと思ったら、嘘つきは少し笑った。  身体を離す。  そして、持ってきたトランクを開けようとゴソゴソしだした。  殆どの荷物はあの家においたままだったが、このトランクには沢山の携帯端末が入っているのだ。  でも、片腕でしかも元々セックス以外は不器用な嘘つきは上手く開けれない。  コイツどうやって一人で生きてきたんだろう。  料理とかは上手く作ってたけどな。  オレは代わって開けてやる。  嘘つきは照れたように笑った。  そして、タブレットを取り出し開いた。   オレはベットに座ってそれを覗き込む。   何がしたい?    嘘つきがオレに見せたのはどこかの国の、大草原だった。  広い広い、土地。  地平線が見える。    また違う写真。     広い土地の一部にだけ雨が降っている。  土地が広すぎて、雨がふっている場所と雨の降ってない場所の境目が見えるのだ。  また違う写真。      降るような星空。  地平線に星空が沈む。  広くて、何もかもが小さく見える土地。    「どこの国だ?・・・ここが好きなのか?」  オレは尋ねる。  嘘つきは嬉しそうに頷いた。  そうか、コイツ、オレを山に連れて行ったりしてたな。  山の中にいる嘘つきは、解き放たれたようだった、嘘に何の影響も受けない木や岩の中だと、嘘つきはただの不器用な男みたいで、かわいかった。    「私はあなたとここに行きます」  嘘つきは言う。  事実の確認。    そうするのだと。  「はぁ?」  オレは声を裏返す。  「ここには人間がいない。あなたと二人で私は暮らします」  嘘つきはオレを見つめて言った。  決定した事実。  ここへ行こう。  ここで暮らそう。  人間のいない土地で。  人間がいなければ、もう嘘つきは人を殺さなくてすむ。  もう殺さないから。  嘘つきがそう言っているのがわかった。    「次の『仕事』が終われば私とあなたはここへ行きます」  嘘つきは言った。  『仕事』って虐殺のことだよな。  それは止めないのか。    オレは顔を歪めた。  「あなたは私とここへ行く」  嘘つきは囁く。  その必死さに心が痛むのは何故だろう。  「抱いてくれ」   そうアイツに泣いてすがったオレもこんな目をしていたのか?    意志なんかいくらでも縛れるし、実際色々縛っているくせに、こんなにも必死な嘘つきがわからなかった。  何でそんな目をするんだ。  「今、『仕事』をやめて、これからここに行くことは出来ないのか?」  オレは言っていた。  何を。  オレも何を言っている。    これなら虐殺を止められる。  でもそんな理由じゃない、オレがこんなことを言っているのはそんな理由じゃない。  嘘つきは困ったように首を振った。  虐殺を止める気はないのだ。    苦しげに歪められたオレの顔を見て嘘つきは悲しげな顔をする。  オレを抱きしめる。  背中を撫でられる。  その手は優しいのに。  「あなたとここに行きます」  その声は雨音のように優しいのに。  その優しささえも嘘なのかもしれないのに。  もしもこの男が殺すのをやめて、ここへ行くと本当に言っているのなら。  殺してまわる自分を、広大で人などいない土地に封じ込めようとしているのなら、一緒に封じられてやってもいいと思ってしまった。  人がいない場所でなら、殺したいと思わないですむのか?  ならば、オレもアイツのいない場所なら、オレの心は安らぐのじゃないか?  アイツが無事に生きていることを知っていて、でも二度と会えない世界なら、この想いは安らぐのかもしれない。  無くならなくても、風にさらされ、砂になり、ただそこにあるだけで当然のものになり、餓えや渇きはなくなるのではないのか。    ああ、嘘つきも「殺したい」想いをそうやって枯らしてみたくなったのだ、とオレは思った。  嘘かもしれないけど。  「あなたといる」  嘘つきは甘くささやいた。  嘘つきは優しかった。  優しく優しくオレを抱いた。    優しく触れられた。  その指は心地よい感触だけを残して撫でてていく。  唇も舌も、柔らかい感触を残すだけ。  乳首を咥えた唇も、優しく食むだけ。  オレは吐息のような声を漏らす。    いつもならば物足りないと感じるようなそんな軽い愛撫が心地よかった。  肌が嘘つきの指に溶けていくかと思った。  嘘つきの目がやわらかに細められた。  唇が楽しそうな笑みをつくった。  唇を何度も軽く合わせ合う。  キスとも言えないキス。    なんだかおかしくなって笑った。  嘘つきも笑った。    セックスは好きだった。  でも同時にこんな行為に意味があるのかと思っていた。  餓えを満たす為に食べているのに、決して満腹にならないような。  貪欲に求めても、満たされないような。  脳内麻薬でイってるだけで、別に行為すっとばして気持ちよくなれるなりゃセックスなんかいらないとは思う。    気持ちいいのは大好きだ。  そのためなら、別に相手も人数も構わなかった。  もっと激しく突いて。  もっとデカいのが欲しい。  なんなら二本挿れて。   口も犯して。  乱暴にして。  いやらしい言葉を言って、淫らな言葉を返すから。   人数が多ければ楽しめる?  なら何人でもいい。  気持ちいいことして。   何でもするから。  貪欲に楽しんで。  でも満たされなかった。  いつも思い出すのは気持ちよくなんか全然なかった、アイツとしたセックスだけだった。  痛いだけの。  わかってた。    セックスなんてそんなもんでしかない。  所詮快楽。  どんなにドロドロになっても、喚いても、欲しがっても、食事や排泄みたいなもんだ。  それに大した意味なんかない。  食って出すのと同じ。  もしもそれに意味があるなら。  それは誰とするかってことなんだ。  オレも嘘つきにキスをかえす。  軽いキス。  嘘つきも笑う。  オレは嘘つきの無くした腕の断面にもキスを落とす。  これだけは本当。    オレを取り戻すために嘘つきは自分の腕を失った。  これだけは・・・本当。  こんな風に笑いながらセックスしたことなんてなかった。  オレは嘘つきを抱きしめた。    

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