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ゲームの達人 8
「お前の女はどこにいる」
僕は犬に尋ねた。
ガキのGPSは外された。
何故GPSについて知っているのか。
知っていたからだ。
ガキ自身も知らなかった情報だ。
ガキが知ったら怒るから隠していたからな。
それが分かったってことだ。
詐欺師の能力は洗脳であるってことに目をやりがちだが、詐欺師の能力はネットに繋がるそういった機器に直接アクセス出来る能力だということだ。
実際、どういった経路をたどって詐欺師がネット上に書き込みをしているのかは全くわからないのだ。
ガキを捕まえた時、奴はGPSの存在に気付いた。
つまり、ガキの居場所を奴らはずっと把握していたのだ。
泳がさせられていたのは僕達だったのだ。
「お前の女はどこにいる」
僕はもう一度犬に言った。
僕達は犬が手配したワゴン車を仮の司令部にしていた。
犬は部下が集めた情報をまとめたり、指示を出していたが、僕の声に固まった。
「お前のような男が、あの女に何もしていないなんてあり得ないよね」
僕は断言した。
大事な女だ。
誰にも触らせたくない女だ。
本当ならば檻に入れたい。
閉じ込めて守りたい。
だが嫌われたくないから自由にさせざるを得ない。
じゃあどうする?
決まってる。
見えない鎖をつけるのだ。
当然の論理だ。
ガキが聞いたなら怒り狂うだろうが、コイツもそう言う男だ。
可愛いから鎖で繋ぐのが何故ガキにはわからないのだろうか。
僕とそんなに変わらない、コイツは。
騙されてるんだよ、ガキ、お前は。
「仕込んでるんだろ、女の身体にGPS」
僕は言った。
犬は否定しなかった。
「途中で奴らに外されたようだ。溶接して外せなくしたピアスの輪にGPS取り付けていたんたが。数キロ先の国道に落ちていたのを部下が発見している。そこまでの足取りを確かめるための防犯カメラ、目撃者探しはもう手配済みだ」
犬は静かに言った。
首輪ならぬ耳輪を女につけていたわけか。
女がそれを自分から外せないような細工までしておいて、何が離婚だ。
何が別れた、だよ。
お前手放す気なんかまったくないよね。
他の誰かに渡すつもりもないよね。
その辺はわかる。
まさかコイツに共感する日がくるとは思わなかった。
手放したりなんかしない。
絶対に。
傷つけ、苦しめたりしたとしても、それが可哀想になっても。
手放してやったりなど出来るはずもないよなぁ、犬。
今回ばかりは笑わないでやる。
「・・・あの女を守るために自分を国に売ったのか」
僕はさらに分かっていたことを聞く。
犬は何も言わない。
女の能力は凄まじいものだ。
全ての暗号を解読する能力。
僕達捕食者よりもはるかに危険な能力だ。
使い方次第では、全ての機密にたどり着ける。
優れた数学者だそうだが、利用価値としては遥かにその能力の方が高い。
まだ、その能力は身内にしか知られていない。
その能力を秘密にするために、犬は汚れ仕事を引き受けたのか。
汚れ仕事。
何かあれば全ての責任を被せられる、誰もしたがらない汚い仕事。
それは同時に機密にアクセス出来る地位でもある。
同時にいち早く情報を握りつぶすことも出来る。
「お前のような男がこんな仕事をしているのは・・・奇妙だとは思っていたんだよ」
僕はニヤリと笑った。
コレはいつか使える情報になるかもしれない。
「犬、『能力者』についてこの件が終わったら調べてみろ。お前の女や情報屋みたいな『能力』を持つものが現れてないか、だ。『狂犬』も捕食者の能力以外の能力を持っていた」
嘘を見破る情報屋の能力。
女の暗号解読能力。
以前戦った捕食者『狂犬』は特殊な空間把握能力を持っていた。
ガキの異常な身体能力も特殊能力の部類かもしれない。
犬が訝しげに僕を見た。
今回の詐欺師の能力も捕食者としての能力とは違う能力の複合なのかもしれない。
「仮説だけどね。・・・突然この世界に現れたのは『捕食者』と『従属者』だけではないかもしれない」
この世界に捕食者が現れたのは何のためなのだろうか。
それに意味はないのだろか。
僕は少し気になった。
でも今はとにかく、負けは無いはずだったゲームに勝たなけばならない。
詐欺師は僕を殺せない。
でもここまでコケにされた。
認めるよ。
お前はゲームの仕方を良く知っている。
僕より上手いかもしれない。
お前が直接動かなくてもゲームは進むからだ。
仕切り直しだ。
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