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ゲーム 2

 男の機嫌は最悪だった。  どうやら、自分で処理したようだが、部屋から出てきた男の周りの空気は切れるように鋭く、近寄ってはいけない雰囲気を醸し出していた。  少年といる時がどれだけ雰囲気が柔らかだったのかわかる。  正直私としては、死体でも何でも使ってもらって、機嫌良くいてもらえる方がありがだい。  男が気分一つで人を嬲り殺しできることはよくよく知っているからだ。    殺しても犯しても構わない、この男が好きそうな犠牲者を提供することを提案もしたが、イラつきながら脚下された。  この男に働いてもらうためなら人間を差し出すも私の仕事だ。  少年もそうやって提供した。  彼を社会から切り離したのは私だ。  殺人衝動と同じ位、捕食者は性衝動が強い。    男のように従属者を持つ捕食者は特に。  従属者を持たない捕食者は、ただ殺すだけの生き物たが、従属者を持つ捕食者は、性欲にも支配されている。  日々殺し、そして従属者を貪る。  それが捕食者だ。  少年が攫われて一週間になる。  辛いはずだ。  元々男が少年を手に入れた理由はいつでもセックスできる「穴」が欲しかったからだ。  だが男は耐えている。  イラつきあたり散らかし、誰かを殺し兼ねないが、ソレでも耐えている。  「ガキを・・・早く見つけろ」  男は私を睨みつけた。  呼吸が荒い。  汗すらかいている。  苦しそうだ。    ここまでして耐えている姿は、このワガママな男だと思えば感動的ではあるが、正直、身の危険も感じているので、浮気でもなんでして欲しいと思いもする。  そこまでして「浮気しない」ことに拘るのか。  まあ、先程の行為は浮気以外の何物でもないと私は思うが。  元々、殺人も性交も男には同じものなのだし。   ただ、この男の弱みを握れたのは大きい。  私は私の元妻や、親友をこの男に知られてしまった。  それはとても危険なことだ。  だから、この男の弱みを握れたのは良いカードになる。  少年に他の男に触れていたことを知られるのは嫌なはずだ。    ただし、口を塞ぐために殺されることもある。    そんな理由でも殺せる男だ。  この男は。  絶対に気を許してはいけない。  ただでさえ、ついでがあれば私を殺そうとしてくるのは知っている。  最近、はしる車から突き落とされたばかりだ。  「今、良い情報が入った」  私は男に報告した。  「えらく早いね」  男は眉をひそめた。  男が自分で自分を慰めていたわずか一時間もない間に掴む情報は怪しい。  そう考える男は優秀だ。    「・・・アイツが仕込んでくれていた」  私はバンに男と乗り込む。  いつもなら色んな機材をつめこむ移動用の司令室だ。  今回はネット回線だけは切ってある。  詐欺師がどこまでネットに入り込めるかわからないからだ。  残していく部下に死体の処理と拷問室の掃除を命じ、男の拷問室かある古いビルを出る。  建物の隙間にある崩れそうな4階建てのビルの地下に拷問部屋はあった。  テナントはほぼ入っていないが、それでも流行ってない喫茶店と美容室はある。  少年と一緒に男が悪者を拉致する時は閉店した夜中に連れ込む。  我々のおかたずけも真夜中にする。  だが、今回は白昼に連れ込んだ。  連れ込む時は何か機材を持ちこむように見せかけて、業者に扮した部下達が、箱に詰めた傭兵をはこびこんだ。  完全防音だから叫び声は聞こえてないが目立ってしまったことは問題だ。  ずっとこのビルの地下は空き室だと思っていただろうから。  まさか拷問部屋があるとは誰も思わないだろう。   スタジオか何かに偽装してもよいかもしれない。  私は対策を考える。  「情報屋が何を仕込んでいた?」   男は面白くなさそうに言った。  最初は気に入っていたが今では男はアイツが大嫌いだ。  先の誘拐で、詐欺師の洗脳により、アイツは少年と寝たらしい。  男からの死刑判決確定だ。  私でも止められない。  一応、「正義の味方」なので、殺していいのは悪者か、自分の邪魔をするものということに男はしているようだが、自分以外が少年と寝る行為はどんな大量虐殺より許し難い罪を犯した極悪人の行為だろう。  それはどんな理由であれ、殺されても仕方ない行為だと男は思っている。   だが少年が怒るので少年に殺したことが分かるようには殺さないつもりだ。  なので、私はアイツを取り戻したらすぐに男からアイツを逃がしてやらなければならない。  「カメラだよ」  私は言った。  今しがた部下がもってきてくれた映像を モニターに写し出す。  「市内の数件のコンビニで奇妙な男の目撃情報があった」  コンビニの防犯カメラの映像だった。  レジでにこやかに店員に笑い、話しかける男。    アイツだった。  聞き込みを開始してすぐにその男の話は店員から出てきた。  20代半ばのノリの良い、小柄で可愛い顔の男。  年より若く見えるアイツだろう。  その男は店員達の記憶に残った。  店員を口説いて見せたからだ。  口説いたのは男女関係なく複数で。  その時たまたまレジにいた店員達だったようだ。  陽気で明るい口説き方に店員達は嫌な気はせず、冗談だと思ったようだ。  でも、渡されたレシートに男は何か数字を書いて男は手渡している。  それはこの防犯カメラからも確認できた。  「すぐにこの映像が見つかったのはこのコンビニのすぐ近くちかくの違うコンビニても同じ行動をアイツがしていたからだ」  そこでも店員を口説いてレシートに数字を書いて渡している。  他の数件のコンビニでも。  ファストファッションの店でも。  アイツはこの周辺のコンビニでこの一週間毎日こういうことを繰り返していたようだ。  アイツは意志を縛られている。  自分から助けを求めることも、逃げ出すことも出来ない。  だから多分、だがこういう方法で何かを伝えようとしてきたのだ。  私かアイツや彼女を探していると信じて。  私の妻、いや、彼女は人間だから食べなければならないし、着替えや生活に必要なモノも必要だ。  少年の着替えなどもいる。  おそらく、逃げることも出来ないアイツが詐欺師に代わってそれらを用意していたのだ。  「この数字意味は?で、このレシートの現物はあるのか?」  男は興味深そうに画面を見つめる。  「さすがに現物はもうなかったが、何人かがこの数字に電話していてね。市内のホテルに繋がったと証言している」  私は答えた。  つまりアイツの口説きは成功したわけだ。  大したもんだ  もちろん名前も知らない相手を呼び出すことなどできないから、彼らはホテルに繋がった時点で電話を切っている。  だが、ホテル名を覚えていた。  「これらのコンビニから歩いてそれほどかからない距離に在る高級ホテルだ」  私は言った。  ほぼ間違いないなく、アイツも彼女も少年も詐欺師もそこにいる。  「行くか?」  私は男に言った。  捕食者を殺せるのは捕食者だけ。  男を連れてホテルへ向かう気だった。  身体の弱い彼女のことが気になった。  早く取り戻したい。  アイツがついているから心配ないとは思うか・・・。  少年のことも心配だ。  彼は平気で無茶をする。   だが、多分一度逃げたからこそ、今回はもっとしっかり洗脳されているだろう。  おそらく詐欺師がホテルから出ず、アイツが外へ出て動きまわっているのにはそうしなければならない理由があるのだ。  詐欺師の力は詐欺師が近くにいるか、ネットで繋がっている状態ではないと有効ではないのだろう。  捕食者が従属者の意志を縛るのには距離は関係ないが。  だから、一度目は少年とアイツは詐欺師が出かけていた隙に逃げられた。    これは詐欺師の能力に対抗できるヒントになるかもしれない。  とにかく、男に終わらせてもらうしかない。  私はホテルに向かうため、部下達に無線で連絡しようとした。  「待て」  男が言った。     画面を見つめている。  アイツが防犯カメラを指差して何か笑った。  音声はないが、「あれ、カメラ?」みたいなことを言っているのが分かる。  そして、変な顔をカメラにしてみせる。  そして、レシートに数字を書いて店員にわたして、実に魅力的な笑顔を店員に向けて、店をでていく。  実に、誑しだった。  男でも女でも、思わず好意をもってしまう。  アイツは・・・その気になれば誰だって捕まえられるのに。  何故、私なんだ、と思ってしまう。    「巻き戻せるよね?」  男が真剣な顔で言った。    「ああ」    私は頷く。  何がある?  この映像に。  アイツがカメラを指差すところで男は言った。  「そこから流して」  男の目は真剣そのものだ。  男に言われた通り巻き戻す。  アイツは変な顔をカメラに向かってつくる。  これのどこがひっかかる?  「何か言ってる。口の動きだけで」  男は言った。  私もハっとした。    このカメラに向かっての動きはあまりも不自然だ。  何か伝えようとしているのだ。  「巻き戻せ。唇を読む」  男が言った。  従う。  アイツがカメラを指差して笑う。    男は唇を読んでいく。  「カ」    「ル」  「ト」  そこで変な顔をアイツは止める。  「カルトか。でもそんなことはもう知っている・・・つまりまた違う意味かあるのか?」  男は考えこむ。  そして言った。  「犬、ホテルには行かない。別のところへむかうぞ」  それは意外な言葉だった。  「ホテルは見張れ。ただし、肉眼ではなくカメラを通してな」  男は言った。  

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