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滅ぼされるべきもの 1
男の機嫌は悪い。
まさか、男が少年を救出することを後まわしにするとは思わなかった。
苛つきを隠そうともせず、男が私に行くように銘じたのは、宗教団体の本部だった。
そう、詐欺師の生まれた団体の、後継団体だ。
詐欺師の遺伝子的な姉が、バラバラになった団体を統合した。
まだ監視対象である団体ではあることには変わりないが、教祖が神であることを否定し、教祖は自ら教えを放棄した破戒者てあり、正しい教えを進むのは我々なのだと主張することで、過去の団体とは違うことを表向きには主張している。
教祖以上にやり手な娘は政治団体への献金を偽装政治団体を作りそこを通して行うことで、権力との繋がりを得ることにも成功している。
金と人手を提供することで、権力からの保護を得ているのだ。
つまり、ここに簡単には手を出せない・・・。
なのに男は何をしようというのか。
男はイライラしながらブツブツ一人で助手席でつぶやいている。
少し気になって、聞き耳をたててみた。
何か危険なことを考えているのならば、回避しなければならない。
「ガキの×××に○○○を△△て、□□□□するまでやってやる・・・それから頭押さえつけて・・・」
イラついて呟いている言葉を私は聞き流すことにした。
この男は顔は綺麗だが、品性は下劣で、性欲の塊だった。
少年が帰ってきたらどんな目にあわされるかは大体分かって同情した。
どこがいいんだ。
少年。
こんな男。
その瞬間男は私を見た。
何だろうこの男の勘の良さは。
嫌になる。
「犬、お前、僕より自分がマシだなんて思ってるんじゃないよね。僕はガキとは合意の上でセックスしてる。確かにガキは泣くけど、気持ちよくて泣いてる・・・お前は違うだろ?強姦野郎」
男は綺麗な顔を歪めて言った。
私は何も答えない。
「女取り戻したら、また犯すか?・・・可哀想にな」
男はあざ笑うように言った。
私は何も言わない。
表情さえころす。
男の言うことは・・・正しいからだ。
「・・・可哀想にな」
男はもう一度言った。
この男に腹を立てる権利すら私にはない。
「・・・可哀想なのはお前だな」
意外にも、男はポツリと言った。
その言葉にはかすかに同情が含まれていたような気がしたのは気のせいだろうか。
「ガキも女も心配ない。殺されるにしろひどい目にあわされるにしろ、それはもっとも効果的に使われるはずだ。つまり今どうこうはない」
男は言った。
「それよりは相手の先を取る必要がある。ゲームは駒を並べる前に始まっているんだよ」
男は歪んだ笑いを浮かべる。
綺麗な顔は悪辣な内面をあらわし、歪む。
どんな相手も罠に引き込み、始末してきた殺し屋。
騙し、嵌めることはこの男の得意とするところだ。
「安心しろ、犬。今回ばかりはお前も僕に感謝するさ。新しい拷問を特別に考えているからな。お前の心もきっと浮き立つよ」
男は嫌な笑い声をあげた。
普段ならぞっとするとしか思わないその声に、確かに共感ししていた。
「人のもん攫って、許されるなんてことはない。何されたって仕方ないよね」
男の言葉に
私は同調していた。
彼女に手を出して・・・許されると思うな。
死なないなら、何度も何度もこの手で繰り返し灰にしてやる。
彼女は私のものじゃないと思おうとしてきたのに。
何度も何度も単なる幼なじみになろうとしてきたのに。
「ガキは僕のだ。誰にも渡さない」
男は歯をむき出して笑った。
凶悪な笑顔だった。
ああ、そうだ。
そうではないと何度言い聞かせても・・・。
私は思っていた。
彼女は私のモノだ。
誰にも。
誰にも渡さない。
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