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滅ぼされるべきもの4
その女は詐欺師とは似ても似つかなかった。
聖人のように美しい詐欺師とは違いその女には美しさはなかった。
おそらく姉弟であるはずなのに。
ただ、教祖である父親には女は驚く程似ていた。
大きな骨太の身体。
意志の強そうな大きな目、その目が狂気のような光をはなっていることも、
美しくはないが、表情が動けば思わず目でおってしまう魅力的な表情も。
今は実に楽しそうに男を見ている。
ドアを切り裂きやってきた片手か刀である男に驚きもしなかった。
おそらく、ずっとやりとりはみていたのだ。
デスクの上にあるパソコンに防犯カメラの映像は映し出されているのだろう。
どっしりとした重厚なデスクは木製で、アンティークだった。
この女の執務室は全てが高価なアンティーク家具で整えられていた。
女の趣味なのだろう。
大した女だ。
化け物である男を前にしても怯えた表情一つ浮かべず笑っている。
そこには感心した。
「あんたがこの群の今のボスだね」
男は言った。
「そう。私が彼らを導いている」
女はにこやかに答えた。
「バカを従えやりたい放題か。そこの女は抱いたのか?可愛かったか?舐めたのか?それとも舐めさせたのか?・・・いや、お前は舐めたり噛んだりして泣かせたいタイプだな」
男は女の後ろで震えている女信者を見つめて言う。
男は女信者を探るような眼でみる
本来止められるべき、襟のカラーがはずされ、白い鎖骨が露わになっていた。
そこに赤く吸われたような跡かある。
おそらく、男の来襲があるまでお楽しみだったのだ。
この執務室で。
小柄で可愛らしい女信者は教団服とはまた違うキリスト教のシスターのような格好をさせられていた。
これはまた身の回りを世話する者専門の服なのだろう。
「彼女は私の侍女だ。私に献身的に尽くしてくれる」
女は否定せずにそう言った。
「手当たり次第に手を出さないだけ、父親よりはお前はマシだな。ほめてやる。お前も父親にヤられたのか?良かったか実の父親とするのは?」
男は下品な笑顔で女に聞く。
女は歪んだ笑いを浮かべた。
「父は道を誤った。そしてそれに気付いたのは私だけだった。ゆえに父は私を遠ざけた。父があの聖地と名付けた場所でしていたことに私は関与していない」
女は静かに言った。
そういうことにしてあるのだ。
正しい道を誤った教祖。
それに気付いたのは娘一人。
ゆえに娘は正当な後継者であると。
なるほど。
「父親にヤってもらえなかったのか。可哀想になぁ。可愛い『弟』とは違って。『弟』は大勢の前で父親に突っこまれ可愛がられていたらしいのになぁ。お前はシてもらえなかったのか」
男は気の毒そうに言った。
男が女を怒らそうとしているのは明白だった。
女はわざとらしくため息をついただけだった。
「可哀想な弟。どうしているのか」
女は悲しげに言ってのけた。
その様子から見る限り、まだ詐欺師がここに何か関与し始めているようには見えない。
この女がせっかく支配した人々を詐欺師に差し出すとは思えない。
「・・・この部屋にも防犯カメラはあるんだね。今は切ってあるだろうけど。そこのパソコンで操作できるんだね」
男は部屋の隅に目をやり見咎めるように言った。
「防犯カメラはこの建物のあちこちにある」
女は当たり前のように言った。
「いいや。ここでその女を泣かせたり、叫ばせたりするんだろ?カメラの前で楽しむのか?まぁ、確かに人前で恥ずかしがったり嫌がったりするのをそこをあえてグチャグチャにして感じさせるのは確かに楽しい。あえてする分にはね。・・・あれはいい。可愛い。最高だ。・・・させてもらえなくなったけど」
男はしれっと言った。
最後は本当に残念そうに。
少年が気の毒すぎる。
本当にこの男のどこがいいんだ。
「でも、毎回見ている奴らにサービスする趣味はお前にはないだろ。楽しむのはお前であって、他の連中のためではない。お前みたいな支配欲の塊が自分の部屋にカメラなんかつけさせないはずなんだよ。・・・つまり、この部屋で何かあったんだろ?カメラをつけなきゃいけないようなことが」
ねぇ?
男は女に笑いかけた。
「ここで誰か殺されたか?」
男は囁く。
女の表情が動いた。
「いくら何でも警備の連中の装備が過剰だし、カメラの数も多すぎる。明らかに狙われているんじゃなきゃ、こんな重装備は有り得ない」
男は言った。
確かに。
サスマタまで用意している宗教施設はちょっとない。
社会的に叩かれた財産没収、霊感商法、
そして集団自殺。
そんなあの頃のことさえ世間はもう忘れつつある。
たまに蒸し返えされることはあっても、全ては過去になっていた。
女は見事に、社会的に叩かれない範囲で信者達を支配していた。
見えないところで何が何でもあるのかわからないし、今でも、子供や家族を教団に奪われた家族達が裁判をしている現実も存在している。
だが、女の手腕は「宗教の自由」「そんなもんを信じた奴が悪いんだからほっておけ」という無関心に世間の風を変えさせた。
上手く権力も利用し、既存の宗教団体の一つのような顔をし始めていた。
教団はまるで何もなかったかのように存在していた。
信者達は教祖がしたことも、過去の教団の狂気も、知らなかったが如く女の下で支配されることに満足していた。
彼らは忘れた。
身体を擦り交わせ、蠢きあう、それでも歓喜のような熱狂を。
狂気のようなカリスマを振りかざす教祖が、聖人のような少年を犯すのを全員で共有したあの淫らで清らかな信仰を。
教団のためならば、誰でも攫ってこっそり殺して埋めたその情熱を。
なぜならば彼らは置いていかれたからだ。
教祖は彼らを置いて行ったからだ。
そして同時に教祖や信者達の集団自殺は、彼らが全ての罪を引き受けてくれたことでもあった。
悪いのは死んだやつら。
女も生き延びた信者達もそういうことにした。
それはそれなりに成功したはずだった。
社会に必要悪のように居場所を得たはずだった。
何かの襲撃に怯える必要はなかったはずだった。
だが、教団は何かの襲撃に備えていた。
その何かとは?
「誰に狙われているかも見当がつかなかったんたよね。教えてあげるよ。・・・おまえの『弟』だよ。良かったな、教団に正当な後継者が戻ってこようとしてるんだよ」
男は楽しそうに言った。
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