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滅ぼされるべきもの 5

 「正当な後継者は私だ」  女は冷たく言い放つ。  「バカ言え。お前があの気色の悪い父親に犯されなかったのは存在を忘れられていたからだろ。父親よりは賢いのは確かだ。そこは誉めてやる。僕はお前が飼ってるバカ共をお前がどうしようと全く興味はないが、喜べ。僕がお前達を救ってやる」  男は傲慢に言い放った。    「はあ?」  さすがに女は面食らう。  宗教団体の本部にきて、「お前達を救ってやる」というのはどれだけいかれた話なのか。  この教団のイカレた信仰よりさらにイカレている  「僕がお前達の魂を救ってやろうって言ってるんだ」  男はゆっくり言った。  「・・・何を・・・」  呆れた女は言いかけた。  気持ちはわかる。  何を言っているのかこの男は。  そう言いたい気持ちは私の方が強いくらいだ。    だが女は続けられなかった。  戸惑う。  消したはずの防犯カメラの映像がパソコンに映し出されたからだ。  画面には戸惑う女と私達が映る。  部屋の隅にあるスイッチをきったはずの防犯カメラか動き始める。  「何?」  パソコンの調子がおかしくなったのかと女は画面覗き込んだ。  パラリ ビロリ パラ    パソコンから奇妙な電子音がした。     パラリ ピロリ パラ  パラリ ピロリ パラ    執拗に音は鳴り響く。。  そして画面から青い光が溢れてくる。  光はこぼれていく。    そして、良く見ればそれは小さな青い無数の文字の集まりが、光になっていた。    光がこぼれる。  言葉がこぼれる。  室内が青く染まった。  女に寄り添うように立っていた侍女の中に、青い光が、言葉が、すいこまれていく。  侍女は薄く唇を開け喘いだ。  「・・・どうした?」  女は声をかけたが侍女は自ら自分の服のボタンを外し、その重々しい服を脱ぎ捨てていく。   質素な木綿のブラジャーと下着だけになった。  禁欲的な服の下には豊かな胸と肉感的な腰があり、何故『侍女』に女がしているのかが良くわかった。  身体のあちこちにつけられた、赤い所有の跡。  女がつけたのだろう。  頭にかぶったペールも剥ぎ取り、長い豊かな髪を侍女は振り乱し叫んだ。  自ら股間に指を入れ擦りながら。    さすがに私と女は絶句した。  突如始まった公開オナニーだ。  「女じゃ僕にはサービスにならないけどね。抱けないわけではないけれど」  男は虫でも見るような目で、胸をもみしだき、股間で指を動かし、高い声を上げる女を見ていた。   そして私に目をやると、ニヤリと笑った。  「よかったなぁ、犬。今晩のズリネタができて。いや、おまえロリコンだからこれじゃイケないか」  男は笑った。  侍女は自ら下着をずりおとし、ブラジャーもずらしていた。  ひっかかっているだけで、性器や胸はさらされている。  裸よりもいやらしい。  思わず見てしまうのは・・・仕方がない。  私はロリコンではない。  彼女の身体には反応してしまうが、彼女だから反応してしまうだけで・・・。  ロリコンではないんだ。  本当に。  濡れた音を立てて、腰をふりながら侍女は立ったまま、何度となく身体を震わせる。  「いいっ・・・イク・・・ああっ!!してっ、もっとして!!!」   侍女は叫んだ。     誰かに挿れられたかのように腰を夢中で降っている。  しかし、これはこれは・・・なんだ?  「いいのか?おまえの女、イかされてるぞ。・・・相手はお前の『弟』だ」  男は女に囁いた。  「この部屋で脳に入れそうなお前の女だけだったんだろう。ここの信者達はすでにお前が調教して洗脳しやすくしてるから操りやすいからね」  男は笑った。    男は右手を伸ばした。  刀だった右手がゆっくりととろけていく。  銀色のジェルが色を変え、右手にもどっていく。  武装解除。  少なくとも今は殺さないとの意志表示だ。  男はもう床に転がり、脚を大きく広げ自慰に狂う侍女を跨いで女の隣りに立った。  近すぎる距離に来た瞬間、女は銃を男につきつけた  銃をにぎりながら平然と対面していたのだ。  なかなか大した女だ。    「やっぱり銃握ってたな。いい度胸だな。でも僕には銃はきかない」  男は機嫌良く言った。  音は逆らえる気概のある獲物が大好きなのだ。  気に入られると尚更嬲られるだけなのであまり良いことではないのだが。  女に構わず、今は光や文字も消え、防犯カメラの映像を映す画面に向かって男は言った。  「見てるんだろ、詐欺師。お前が犬の女攫った時から目的はわかってんだ。顔をみせろよ。ご対面と行こうじゃないか」    私も画面が見えるように女の側に回る。  そして女に見えるように銃を構える。  女は皮肉に笑って銃をおろした。  私も下ろす。  こちらも武装解除だ。  私は撃たれたら死ぬからだ。  男とは違う。  まだ走行中の車内から男に蹴り出された身体の痛みはあちこちにあるのだ。  画面が突如として切り替わった。  綺麗な男の顔が映る。  清らかと言ってもいいような、聖人のような顔。  詐欺師だ。  この教団では聖人と呼ばれていた。  この教団の教義を知るために、教祖がいくつか出した本を読んでみた。    キリスト教のシステムに、怪しげな左道系の仏教の教えに陰陽思想をミックスしたものだった。  よくありがちな新興宗教だ。  陰陽思想のような思想から世界をとらえ、そのエネルギーを修行によりコントロールできるようになると。    瞑想や呼吸法等が一般信者への修行だが、出家信者になると以前はセックスも修行の一環とされていた。  セックスとはエネルギーを得る行為である、と。  セックスにより大きな力を最終的には得ようとする。    この辺は既存の宗教とは違った。  そして、教祖のカリスマ。  単に異様な性欲を持った狂人でしかなかった男だが、そのカリスマは本物だった。  そして人の弱さにつけこみ、人を支配するその能力も。  人は支配されたがる。  教祖は良く知っていた。  弱ければ弱い人間ほど強い何かに支配されたい。  自分より賢く強い人間の言いなりになれば、もう考えなくてもいい。   その人の強い言葉を繰り返すだけで、強くなった気持ちになれる。  その人がこうしろと言ったことをすればいい。  そうすれば全て認めてもらえる。     教団が大きくなれぱなるほどそうすることの正しさは増す。 みんなでそうすれば、みんなでそう信じれば、強い人がそれが正しいと言ってくれてるから、そうするのが正しい。  支配されることは、強い者に従属することは、弱さから逃れられたように思えるのだ。     弱いたった一人の迷い傷つく人間は、支配されることを受け入れた瞬間、強い人間の一部になるとで、たくさんの仲間の一部になることで・・・弱さから救われるのだ。  そして、この美しい男が生まれた。  教祖が女信者に生ませた子供は美しく、そして教祖に捧げられたのだ。    

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