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滅ぼされるべきもの 6

 弱い者達は支配されるために捧げる。  全てを。  強い何かの一部になれば、弱さから逃げられるから。  そのためなら何でも捧げる。  自分の子供でさえ。  美しい子供は捧げられた。  弱さの意味も強さの意味も知らないまま。  性の意味すらわからぬ頃から、教祖の玩具になり、そして教団の玩具にされた。    性欲さえ知らない年齢でもうすでに、教祖に毎夜抱かれていた。     それは儀式の名目で人前で後ろから貫かれていたという証言が残っている。  性の神秘的なエネルギーを得るという名目で、老若男女にその指や手や舌でその身体を弄ばれた。  挿入以外のことは何でもそこでは許されていた。    挿入してよいのは教祖だけだったから。  そして、うすうす教団内部で児童虐待の事実があることに気づいていながら、戸籍さえ与えられてない子供達が生まれていることを知りながら、外の世界の人々はそれを無視した。  関わり合いになりたくなかったから。  怖かったから。  下手に手を出して狂った人々に襲われることも怖かったし、弁護士を立てて裁判をどんどん起こしていく教団のやり方に面倒くささもあったからだ。  母に捧げられ、父親に貪られ、教団に食い尽くされ、そして外の世界からは見捨てられた生き物。  人間の暗闇が産み育てた生き物。  それがこの詐欺師。  このパソコンの画面に映し出された、聖人のように美しい男。  しかし本当に美しい。    詐欺師は美しい部屋の中にいた。  おそらく、ホテルの一室だ。  詐欺師は無邪気な微笑みを画面からこちらにむけた。  捕食者。  不死身の人を殺す化け物。  私はふと気付いた。  詐欺師は人間が作り出した闇から生まれてきた。  詐欺師の映る画面を皮肉に見つめる男。  この男も捕食者だ。  この男も暗闇からやってきた。  性的愛玩用に作られ育成された、生まれたことさえ記録されない子供達の一人だった。  「狂犬」と呼ばれた捕食者も、ネグレクトと虐待、そして監禁されながら成長したことも分かっていた。  「相方」と呼ばれた捕食者も兄妹で父親の暴力の元で成長している。  そして、刀に化身する「女」の捕食者も追跡調査で一見平凡な見える家庭で父親の性的虐待の中成長したことが分かった。    彼らに共通するのは、虐待、そしてそれを知りながらも救わなかった人々の存在だ。  彼らが非道な扱いを受けていたことを知っていたものは少なからずいた。  だが、誰一人、彼らを救おうとはしなかった。  彼らは見捨てられた。  この世界から。  闇に落とされた。  捕食者達は闇からやってくる。  人間を殺しに。  彼らは人間そのものを取り立てて憎んではいない。   ただ楽しみ殺すだけだ。  彼らを見ないようにした人々が彼らを取り立てて憎んでいなかったのと同じ程度の関心しかない。  人間そのものについて、は。  彼らは人間が生み出した闇からやってくる。  違うと言うは、あまりにも・・・偶然が重なりすぎると思わないか?  ただ、詐欺師が人間ではなくこの教団に感じているものは・・・無関心ではないことはわかった。  捕食者は復讐は果たしている。  男は組織のボスを殺してこの国に来た。  狂犬も巨体に成長してからは自分に害なすものを殺してきている。      相方は父親を殴り殺した。   女も少女と共に父親を殺しているのかわかっている。    それから彼らは楽しく人間を殺しているのだ。    でも詐欺師は?  詐欺師はまだ何も、何も、自分にしたことを支払わせてはいないのだ。  私はようやく思い至った。  「理由」だ。  詐欺師の狙いは教団だ。  教団の信者全てが詐欺師の復讐の相手なのだ。  「ちゃんと顔を合わすのは初めてだな、詐欺師。綺麗な男は大好きだ。早く会いたいよ。綺麗な顔だけは残して全身の皮を剥いてやりたいし、後ろの穴に僕のチンポの代わりに僕の刀を突っ込んで腹を突き破ってやりたくてたまらないよ。ガツガツ腰を掴んで後ろから突かれるのきっと気に入ってくれると思う。その裂いた腹から膓を掴みだしてやりたい。なんなら前もいじってやるよ。包皮どころか肉をむき出しにならまで剥いてやる。声が止まらなくなるだろうな。可愛がってやりたいよ」    男は微笑みながら画面に映る詐欺師に言った。  脅しではなく男は本当にそうするだろう。  ずっとそうすることを考え続けているのだ。  詐欺師は鳥のように首を傾げた。  ここ男はどこか鳥に似ている。  滑るように飛ぶ白い水鳥に。    無邪気過ぎる笑みを詐欺師は浮かべた。  詐欺師はふと誰かの腕を引っ張った。  男の顔色が変わる。  腕を引っ張れ、画面に映ったのは少年だった。  ぼんやりとした、無気力な顔をしている。  「ガキに触るな!!僕のだ!!」  男が癇癪を起こす。  詐欺師は本当に楽しそうに笑う。    詐欺師は少年を引き寄せた。  その腕に抱く。   少年は夢見るように詐欺師を見つめる。  そして、少年も詐欺師の背に腕を伸ばす。  詐欺師の方が少しだけ背が高い。  詐欺師はその片腕で少年の頬を何度も撫でる。  少年はうっとりと目を閉じる。  少年は詐欺師の身体をしっかりと抱き寄せる。  「ガキ、離れろ!!バカ!!」  男が怒鳴る。  少年の耳にはその声は聞こえていないのか。  少年はすごく嬉しそうな顔をしていた。  その腕の中に誰を抱いているつもりなのかはすぐに解った。  強く抱きしめてはいるくせに、苦しくないように大切に。  宝物のようにだきしめながら、本当に嬉しそうな顔をしていた。  恋人が腕の中にいることはそんなにも嬉しいことなのか。  ただ、抱きしめているだけてそんなにも嬉しいのか。  そう思ってしまう笑顔だった。  少年はあんな顔をして・・・あの男を抱きしめるのか。  そこには愛しさしかなかった。  「その男から離れろガキ!!僕の言うことを聞いたら、また挿れさしてやる!!」  男が怒鳴った。    ピクリと、少年の身体が反応した    次の瞬間少年は詐欺師を突き飛ばしたのだ。     詐欺師は驚いた顔をした。        

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