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滅ぼされるべきもの 7

 「・・・ザマーミロ。ガキの僕の穴に対する執着は凄まじいからな」  男は自慢気に言った。  画面の中で少年は正気に戻っていた。  洗脳を自ら解いたのだ。  ものすごい執着だ。  自我を超えて反応している。  「・・・いや、すごいけれど、そんなこと言って良かったのか?挿れさせるって言ってしまって。あの子絶対に忘れないぞ。それに『また』ってのは?」  私は思わず突っ込んでしまった。  「・・・きくな!!」  男は一言だけ言った。  ああ、そうなの。  少年・・・。  おめでとう。  少年は苦しげだった。    詐欺師は面白くなさそうな顔をした。  また、詐欺師は少年に指をのばす。  少年が苦しげに呻く。    また少年の顔がぼんやりとする。  少年の唇が開く。    その唇の中に詐欺師の白い指が入っていく。  少年の舌がその指に絡まろうと・・・。  「ガキ!!」  男が喚く。    ガツン    画面の中から音がした。    詐欺師の頭頂部が画面に映っていた。  そして、その頭の上に靴を履いた足が載せられていた。  詐欺師が誰かに踏まれている。  「てめぇ、恋人の前で未成年者に手を出そうとはいい度胸だ、この浮気者!!」  踏んでいるヤツが怒鳴る。  良く知っている声。  アイツだ。  机の上から頭を蹴り落とす。  酷いことを平気でする。  間違いない、この酷さは顔は見えなくてもアイツだ。  「捕食者のあんた、安心してね。この子には肉体的にも性的にも手を出させないから」  アイツは画面に映った。   画面ごしに必死で謝る。    確かアイツも詐欺師に捕らわれているはずだが。  随分な態度をゆるされて・・・。  「まて、今お前恋人とか言ってたな?どういう意味だ!!」  今度怒鳴ったのは私だった。  「・・・まあ、色々あって、詐欺師の恋人になりました」  へらっとアイツが笑う。  はあっ?  何言ってんだ?  「なるほど。情報屋そうきたか」  男が関心したように言った。  「ガキや女を守るには、お前が詐欺師の恋人になるのが一番だな。お前が大好きならお前が自分のモノになってくれるなら・・・詐欺師も配慮するからな」  男の言葉にゾッとした。  お前、まさか。  「・・・それだけじゃないけどね」  アイツは肩をすくめた。        「・・・詐欺師と恋人とかどういうことだ?何考えてる?私達は詐欺師を追ってるんだぞ?どうするつもりだ?」  私は画面に向かって怒鳴った。  女は完全に蚊帳の外にされてしまって、ただぽかんと私達を見つめている。  床から侍女も正気に返って起き上がっている  「・・・コイツとオレ、逃げるから。・・・でも虐殺の邪魔はするし、あの子とこの子はオレが守るから」  ごめん。  アイツは言った。  そんな目で言うのかそんな目で。  「ふざけるな!!」  私は怒鳴った。  何でお前を詐欺師のところへいかせなければならない。  「あの子は心配いらないから」  アイツは言う。  「そんなことはわかっている!!」  私は怒鳴る。  お前が彼女のそばにいるかぎり、お前が彼女を守るなんてわかっている!!    「お前のもんでもないだろう、お前が止める権利なんてないだろ」  男が少年が手を出されないことを確信した瞬間、冷静になって言ってきた。  「・・・黙ってろ!!」  私は男に向かって思わず怒鳴った。  そんな態度を男にとったとはなかった。  一瞬、はっとなったが。  意外にも男は肩をすくめただけだった。  「行かせない!!」  私は怒鳴る。  行かせるわけがないだろう。  お前を抱けなかった。  抱いてやれなかった。  でも、お前が好きだ。  ガキの頃に出会ってそれから、ずっと側にいた。  彼女と私とお前でずっといた。    これからもずっとだ。  恋人のようには愛してやれなかった。  でも、弟のような親友のような戦友のような・・・お前の考えていることはわかる、お前といるのは楽しい、お前が心配でたまらない。  何で捕食者にお前をくれてやらなければならない。  よりにもよって。  「バカなことを言うな!!」    私は怒りで頭がおかしくなりそうだった。  何でもしてやりたいと思っていた。  抱けるものならばだいてやりたいとさえ。  お前が大事で、お前が大切で、お前はお前はお前は・・・。  私のたった一人の親友なんだ。  「うん・・・ごめん。ごめん・・・」  アイツはポロポロと泣いた。  何でそんなに嬉しそうに泣く。  なんでそんなに幸せそうに泣く。  「ごめん。ごめん・・・」  アイツは泣いた。   ガキの頃ひどい騒ぎを引き起こしたたり、危険なことに顔を突っ込んで、結果私を巻き込んだあげく、いつも最後にはこうやってアイツは泣いた。    迷惑かけてごめん。  助けに来てくれてありがとう。    私がお前が好きなことがそんなに嬉しいくせに、お前は私から離れようというのか。  画面の向こうで誰かがアイツを抱き寄せた。  詐欺師だった。  詐欺師は私を睨みつけた。  綺麗な顔が憎しみに歪んでいた。   そしてその憎しみは私に向けられていた。  憎しみ?  いや、違う。  これはこれは嫉妬だ。  詐欺師は画面の向こうから燃えるような目で私を睨みつけた。  清らかな聖人のような仮面は剥ぎ取っていた。    歯をむき出し、自分以外の雄を威嚇する獣がそこにいた。  詐欺師はアイツの唇を奪った。  見せつけるように。   唇と唇を擦りあわせ、舌でその唇を舐めていく。  私の頭の中が煮え立つ。  離せ、ソレは私のものだ。  彼女とは違う。  でも彼女とは違うからこそ大切な私のものだ。  アイツは抵抗しない。  自ら唇を開き舌を伸ばす。   「ごめん・・・」  アイツはそういって、自分から詐欺師に舌を絡めていった。  「  !!」  大声でアイツの名前を叫ぶ。  アイツが誰と寝てもいい。  何をしていてもいい。  どこにいてもいい。  お前は私のものだろう?  私がお前のものなのと同じように。  重ねた時間、お前を信じた時間、お前を待った時間、お前といた時間。  恋だけじゃないだろ。  セックスだけじゃないだろう。  思う方向や在り方は違っても、私達は互いのものだっただろう。  彼女が私よりお前を信じているように。  彼女が触れられることはのぞまなくても私を愛してくれているように。  私達3人は歪かもしれない。  でも、私もお前も彼女も・・・互いの物だっただろう?  胸がいたむのはアイツが詐欺師と舌を絡ませて、詐欺師の腕が画面には映らないズボンの中で動くのに合わせて、喘いでいるからじゃない。  アイツの家を訪れて、たまたまアイツが二人の男と身体を絡ませあっているところを見たこともある。  気まずさはあったが、こんなに苦しい思いはしていない。    「・・・ごめん。ごめん・・・」  アイツはキスの合間、喘ぐ合間に呟く。  アイツは本当に私を、私達を置いて行こうとしているのだ。  その化け物とどこかへ行こうとしているのだ。  「  」  アイツが私の名前を呼ぶ。  「ごめん・・・ごめん・・・」  そして、泣く。    詐欺師は見せつけるようにアイツの喉に噛みついた。  私を画面ごしに見る。  アイツを自分のものだと、その喉に歯を立てた。  綺麗な喉に歯がゆっくりと食い込み、ゆっくりと血がにじんでいく。  アイツは痛みに呻いた。  いや、痛みだけだったのか。  見えないところで動かされる指のせいなのか。  「・・・ごめん・・・見ないで・・・オレはもうコイツのモノだから」   アイツは泣いた。  アイツの顔が大写しになる。  この画像を送るパソコンがある机の上にアイツがうつぶせにされたのだ。    アイツの顔と、その横にある手しか映らない。    その机の上でアイツがどうされるのかはわかってしまった。  「あの子が全てのセキュリティーを破れるから・・・コイツはネットのどこにでももう行けるんだ。ネットに繋がる全ての場所に・・・」  アイツはそれでも私に情報を渡そうとする。  詐欺師はアイツが情報を渡すのを気にもとめていなかった。  

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