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滅ぼされるべきもの 8

 詐欺師の能力は「洗脳」ではなく、ネットを歩ける能力なのだ。  洗脳は元々持っていた能力なのだろう。  男が言っていたように「捕食者の能力とは違う能力を元々持っている可能性」、捕食者だけではない、「能力」を持つ生き物達が生まれている可能性だ。  嘘を見破るアイツの能力。  そして、彼女の能力。  少年の身体能力も「能力」かもしれないと男は言ったが、達人レベルのあの男の殺人技だって能力かもしれない。  詐欺師はネットの中を自在に歩く。  ただ、ネットの中をどこへでも、というわけでもなかったのだ。   セキュリティーが在る場所にはいけない。  だからSNSなどの解放された空間で獲物を漁っていた。  相手の電話番号やアドレスを手に入れたならそこからは直接相手のモバイルに繋がれただろうけれど。  だから彼女が必要だった。  彼女はコードブレイカーだ。  全ての暗号を解く能力を持つ。  彼女を手に入れ、詐欺師は今ではネットのどこにでも行ける。  そしてそこで「洗脳」できる。  ただし、それが出来る相手は限られるけれども。    「もう・・・お前はオレを見ないで・・・」  アイツは泣いた。  アイツの顔だけが映し出されている。    「あっ・・・」  アイツは喘いだ。  顎がピクリと跳ね上がる。  顔のそばにおかれたアイツの手に、綺麗な指が重ねられた。  片腕しかない詐欺師は片手しか重ねられない。  自由の利くもう片方の手でアイツは自分の顔を覆った。    「いや・・・挿れるな・・・はあっ・・」    顔を隠し、アイツは顔をのけぞらせる。  背後からのしかかられ犯されているのだ。  アイツは顔を隠す。  乱れる顔をかくす。  私から隠す。  他の男のモノを咥えてて、私に見つかったら「しまった」位の顔しかしなかったコイツが、しかもその後、そのまま行為を続けていたコイツが、詐欺師に挿入され、感じる顔を隠そうとする。  遠い昔。  まだ幼いコイツを抱いた感触を思い出す。  彼女の代わりに抱いた、たった一度の性交。  必死でオレの名前を叫ぶコイツをだいたことを。  あれにはセックス以上の意味があった。  お前はオレ以外には本当の意味では抱かれたことがなかったんだろ?  快楽以外の意味は。  むしろあの一度の私との行為には快楽はなかったはずだ。  だけど今、お前はその男に本当に抱かれているのか。    ゆっくりと挿れられているのか、アイツの首がそれに合わせてゆっくりと反っていく。  後ろの穴を広げられいれられていくのに合わせて、ゆっくりとその唇が開いていく。  僅かに見える表情だけで、画面からは見えない場所で何をされているのかがわかってしまう。  「や・・・だ。深・・・い。見ない・・・で・・オレを見・・る・・な」  アイツが片手で精一杯顔を覆いながら、叫ぶ。  でも、目をそらせない。    所有を主張して、詐欺師が強くアイツを突き上げたのがわかった。  アイツの身体が強く揺れたからだ。  悲鳴のような声があがった。  アイツの口がだらしなく開かれ、目が見開かれる。  もう顔を隠すことさえわすれてしまっている。       「嫌だ・・・見るな・・・バカ!!」  アイツは泣いた。  詐欺師に止めろとは言わない。  何故なら詐欺師はアイツを抱いてもいいからだ。    形のいい綺麗な詐欺師の指はアイツの指を色が変わる位強く押さえつけているのがみえる。    離さない。  逃がさない。    詐欺師はそう主張している。  「・・・クソっ・・・いい。気持ち・・・い」  アイツは泣きながら揺さぶられる。    「見る・・・な、見ないで・・・あっ・・・」  深く抉られたのか、アイツは顔をそらし、イった。  涎と、涙がこぼれる。    そのイヤらしさに胸が痛くなる。  私は今、アイツに欲情している。  他の男のモノになって抱かれているアイツに。  でも実際アイツを目の前にしたら、私はアイツを抱けないだろう。      それはおそらく、私がアイツがとても好きだからなのだ。  あまりにも近しいからこそ、抱くことが出来ない。  だからこそ、抱けないアイツになら、欲情してしまう。  「・・・私はお前を離さない。お前がどこで誰に抱かれてやうと、お前は私のものだ」  私はアイツから目をそらさなかった。    気持ちいいか?    その男が嫌いではないのだな?  でも関係ない。  お前は私のモノだ。  私がお前のモノになのと同じで。  「いくらでも抱かれろ。イけばいい。そんなの何の意味もない」  私は言った。     だってお前はこの瞬間でさえ、私を愛しているのだろ?  それは確信だった。  詐欺師が私の言葉に怒ったのがわかった。  アイツが残酷なまでに激しい突き上げをされているのが分かる。    「・・・ひっ・・・やだ・・・ついてけな・・・」  アイツの黒目があがり、白目をむいたようになる。  その顔だけが映しだされる。  舌をダラリと出し、完全に脳まで快楽に焼かれている。  白い指がその喉を這うのが映る。    噛まれ、血を流す、喉の噛み跡をなぞる。      自分のモノだと、自分だけのものだと詐欺師は主張している。    「・・・あっ、いい!!・・・めちゃ・・く・・ちゃ・・いい!!」  アイツが舌足らずに叫ぶ。  また喉をそらし痙攣する。    詐欺師の指を唇に含まされ、必死でしゃぶる。  まるでそれが自分の中に埋められたモノのように愛しげに。  「  」  私はアイツの名前を呼んだ。    「やだ・・・やだ・・・」  アイツが涙を流す。  詐欺師のモノを後ろに咥えこみ、その指をしゃぶりながら、涙を流す。   「  」  名前を呼んでやれば、指一本触れなくてもお前はその身体を痙攣させるくせに。  他の男に抱かれてイカされてる最中でも、私の声で名前を呼べば私の声に震えるくせに。  それはお前が私のモノだってことじゃないか。    「・・・絶対に迎えにいく。・・・待ってろ」  私は言った。  渡すつもりはない。  好きに抱けばいい。  アイツが嫌がってないのなら。     でも、それは私のだ。  私が最初に深く刻み込んだものをお前がいくら抱いたところで消せない。    私には誰よりも愛する女がいる。  それがどうした。  それでも、抱いてやれなくても、ソイツは私のだ。    酷い話だ。  酷い話だ。  そんなことはわかっている。  「・・・  」  優しく名前を囁く。  名前をお前の中に挿れる。  お前が感じるように。     私の声にアイツは震えた。     「  」  小さく私の名を呼んだ。  アイツは身体を震わせながら、黒目をぐるりと後ろへやった。  意識を失ったのだ。  私が名前を呼んだだけでイったのだ。  これでわかっただろ、詐欺師。  コイツは誰のモノなのか。  「・・・ソイツは私のだ返してもらう」  私は所有を主張した。    画面に向かって伸びてくる拳。   次の瞬間、画面から映像が消えた。  詐欺師がパソコンを壊したのだろう。  「女も男も自分のってか。嫌がる女を犯して、欲しがる男は抱いてもやらない。お前程最最低の男は見たことないね」  消えた画面を見て、男は面白そうに言った。  返す言葉もない。    私は黙って答えない。  「だがおかげで、ガキは無事が確約された。詐欺師は本気でお前の男が欲しい。身体だけじゃなく全部な。ガキや女に下手に手を出して、嫌われたくはないだろう。・・・まあ、あの情報屋はそこまで考えて詐欺師のモノになることを選択してそうだけどな。助かった」  男はにこにこ笑った。   本当に嬉しそうだった。    目の前でアイツを犯されている私の前で実に。  この男。  本当に少年のこと以外はどうてもいいのだ。  殺せるものなら殺したい。  だが殺されることはあってもそれは不可能なのだ。  「・・・何なの」  女が茫然として呟いた。    気持ちはわかる。  侵入者が突然現れ暴れまわったあげく、長い間姿を消していた弟が、ネットを経由して現れ、私や男と、少年やアイツを巡って争っていたのだ。  「まあ、お前の弟はお前とこの教団を消し去るつもりだよ。全てを跡形もなく」  男は端的に説明した。  絶対にあのやり取りではそんなことわからないだろう。  大体、詐欺師は一言も話してないのだ。    「何をバカなことを・・・」  女がそう言うのは当然のことだった。  でも、女はすぐそれを信じざるを得なくなった。    侍女は正気に返ってからも、下着を引っ掛けただけの、ほぼ全裸に身体を隠そうともせずに床にうずくまっていたが、突然、跳ね上がった。  まるでワイヤーアクションのような不自然な動きで。    「この世界は汚れている」  侍女は言った。  はっきりとした口調で。  脱ぎ捨てた服から銃を取り出し、掴んだままで。  この女は側にいる侍女にさえ武装させていたのだ。  いや、自分が使うつもりで、持たせていたのかもしれない    画面は消えたが、まだネットは繋がっている  「醜い者全てが消えてしまえばいい」  侍女はさけんだ。  銃が火を噴く。  それは女に向かって放たれた。

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