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滅ぼされるべきもの9

 驚愕に女は目を見開いたが、まともに銃を持ったこともなかったのだろう、侍女の銃は見当違いのところへ飛んでいき、侍女は反動でひっくりかえった。  白い腿やまだ濡れたそこが丸見えになる。  ・・・見てしまったのは仕方ない。  仕方ないんだ。    しかし・・・よくこんなのに銃をもたせようと思ったな!!  私は女に怒りを覚えた。  私はパソコンに向かって銃を撃つ。  侍女を撃っても無駄だ。  ネットを遮断しなければ。  侍女の手から銃が落ちる。  憑き物がおちたように。  これで一安心・・・。  だがなんだ、この足音は。  数十人はある足音は。  「・・・来るぞ。犬、頑張れよ」  男がにやつきながら言った。  ドアが吹き飛ばされた。  大勢でタックルをかましてぶちやぶったのだ。  信者達は様々な色の教団服を着ていた。  そしてその何人かの手には銃と・・・携帯が握られていた。  今時、ネットに繋がらない場所などない。  つまり、詐欺師はここにいる。  そして、バカな女が訓練もしてない連中に銃を持たせている!!  「バカ女!!」  私は女を椅子から引きずり落とし、床に机の影になる床に伏せさせた。  また侍女の目つきが携帯に視線を吸い込まれた後、怪しくなった。  可哀想だと思ったが、側頭部を殴りつけ気絶させた。   侍女も机の影に引きずりこむ。  手加減はした。  大丈夫だと思う。  多分。  「酷いね。女を殴る男って最低だよね」  男だけは平然と腕をくんで立っている。  ああ、そうだよな。   お前は不死身だから平気だよな。  それに確かにお前は女は殴らないかもな。  殺すことはあっても。  銃がでたらめに撃たれる。  とりあえずバカ信者達がろくに狙いもせずに撃ちまくっているのだ。  ド素人どもが!!  怒りがこみ上げるが、鉛の弾を食らったら死ぬのだ。  下手に飛び出すこともできない。    一人立っている男の額を銃弾がすりぬける。  だが男は顔色一つ変えない。   「・・・なんとかしろ!!こいつらの魂を救いに来たんだろ!!」  私は男に怒鳴る。  「・・・そうだったな」    男は笑った。  右手を前に伸ばす。  右手は刀に形を変える。  「殺すつもりか!!」  私は怒鳴る。  「救うのは魂であって肉体ではない」  男は哲学的なことを言い出した。  めんどくさくなって殺してしまうことにしたたけに決まっていた。  「・・・正義の味方なんたよな?悪者以外は殺さないんだよな」  私は男に言う。  この男がやたらとくりかえすワードだ。  それなりにこの言葉には男が執着する意味はあるはずなのだ。  「・・・殺しはしない」  つまらなそうに、本当につまらなそうに男は言った。  「自分達が信じる者のためになら、自分や誰が犠牲になることは当然だなんて考えているような奴らが悪者ではないとは思ってはいないけどね」  男は滑るように動いた。  後は悲鳴と呻き声、そして倒れていく音。  そして銃声しか、隠れている私には聞こえない。  派手に鳴っていた銃声は消えてしまった。  殺していないのだと思う。  思いたい。  ここは権力者達と懇意にしているところで・・・。  殺しまで行ってしまったなら・・・。  とりあえず、呻き声しか聞こえなくなくなった頃を見計らって、机の影から顔をあげた。  「・・・」  絶句した。  確かに殺してはいなかった。  全員正気にかえってはいた。    手にしていた全ての携帯が壊されていたからだ。      ただ血の海だった。  男が命ではなく携帯の破壊を目的として動いたのはわかった。  ただ携帯の一緒にそれを握った手を斬ったり、後ろポケットに入ったそれを刀で貫くために臀部ごと貫いたりしただけだ。  即死するような傷ではないが、重傷なのはまちがいない。  だが殺してはいない。  傷つけるために動いたのではない。  男にしては上出来だった。  だが。  この後の後始末を考えて私は頭が痛くなった。     不法侵入。   飛び交った銃弾。  血塗れの正気にかえった信者達。  警察の介入も政治家の介入も今は避けたい。    ああ、どことどう交渉すればいいのか。  「・・・問題は携帯全部壊したから、救急車が呼べないってことなんだよね。早く呼んだ方がいいとおもうよ」   男はつまらなそうに言った。  車の無線で呼ぶしかないだろう。  病院はダメだ。  こちらの研究施設に送る。  私は車まで走ることに決めた。  「次は血を流さずに携帯を壊してくれると助かる」  私は男に苦情を言った。  だが、モバイルなど沢山存在している。  それがあるところならば詐欺師は今ではどこにでも行けるのだ。  つまり、詐欺師はどこにでもいるのだ。  恐ろしい能力であることを思い知る。  しかも、この施設にいるのは最も洗脳されやすい人々だ。  これで攻撃が終わりなはずが・・・。  「挨拶代わりだよ・・・単に殺すだけならもっと早くやっている。詐欺師が求めているのは単に殺す以上のことだ。これは挨拶だよ」  私の考えを見透かすように男は笑った。  「殺す以上のものを。この教団を完全に葬り去ることを詐欺師は考えているはずだ」  ただ殺すだけなんて、そんなつまらないことはするはずがないだろ。  男の言葉には言葉以上の説得力かあった。  

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