154 / 275

渇望 2

 「怒るなって・・・なぁ」   声が甘くなってしまう。  こんな声で人を宥めたことなんてないんだぜ。  アイツに甘える時も、こんな風にセックスにつながるような甘さで甘えたことないんだぞ。  たまらなくなって、オレは横たわる嘘つきの唇に自分の唇を重ねた。  甘く味わう。  唇を唇こすり、挟み、かるく歯を立てる。  その感触の気持ちよさに夢中になる  嘘つきはされるがままで、自分からしてこない。  怒ってるのだ。  でもオレを拒絶しない。  いいよ。  オレがしてやるから。    オレは歯列を舐めた。   嘘つきが誘われたように口を開けた。  オレは開いたそのに自分の舌を侵入させていった。    口蓋を舐めた。  オレのアレを何度もここで擦られた。  舌をアレみたいにこすりつけてみる、気持ちがいい。  嘘つきがうめく。  オレはベッドに屈むようにしてキスしていた身体を動かした。  嘘つきの身体の上に自分の身体を乗せる。  少しでも多くの場所で嘘つきの体温を感じたかったのた。    嘘つきの大人しく動こうとしない舌に、自分の舌を重ねた。  舐める。  唾液が溢れる。  飲む。  舌を絡める。  舌を味わう。  舌を伸ばしてほしい。   これ、噛みたい。  吸ってやりたい。  執拗に舐めて絡ませてやると、嘘つきは諦めたように舌をオレにからませ始めた。    いい子だ。  オレは嘘つきの舌で楽しむ。    吸ってやる。  噛んでやる。  オレの身体の下で蠢く嘘つきの身体の反応が嬉しくてたまらない。  オレはキスの最中に目を開けた。  至近距離で、オレを見つめる嘘つきを見た。  欲情した目でオレを食い入るように見つめていた。  コイツ・・・やっぱりキスの時は目を閉じるとか知らないでやんの。  好き勝手されてきたんならムードなんて知らないよな。  コイツに恋愛という概念があるかも疑わしいし。  「目閉じろよ・・・」  オレは囁く。    「その方がオレを感じられるだろ?」  オレは優しく言う。  嘘つきは素直に目を閉じた。  可愛い。  本当に可愛い。  嘘つきは片方しかない腕でオレの後頭部を掴んで引き寄せて、さらに深く舌でオレの中に入ってこようとする。    何だろう。  より深く繋がりたいって、より深く入りたいって思うこの気持ちの正体は。  今度はオレの中に入ってこようとする嘘つきの舌をオレは受け入れた。  奥へ、奥へと嘘つきは入りたがる。  可愛い。  可愛い。  恐ろしい生き物なのだ。  平然と人を殺す。  オレを欲しがってさえいなければ、何故かオレの心まで欲しがっているからこそしないだけで、あの子や少年を残酷に殺させただろう。  楽しみながら。  もちろんあの子や少年を利用した後で。  あの子を嘘つきは憎んでいる。  オレがあの子を愛しているから。  でもだからこそ、力を利用はしてもそれ以上のことはせず、指一本触れない。  少年にも触れない。  オレが怒るから。  嘘つきはキスでは足りなくなって、息を荒げた。  まともに服さえ自分で着ないくせに、こういう時には器用に動く片方だけの手はオレの服を脱がしていく。  いや、これが出来るなら、自分の服を自分で着替えろよ、と思うんだけどこれは別らしい。    オレも嘘つきの服を脱がせる。  脱がせながら首筋や胸にキスをする。  オレはこの男が可愛い。  恐ろしいはずなのに可愛い。  なんか分からないけど可愛い。  「なあ、確かにオレがお前のモノになったのは、あの子達をお前から守るためなのはホント」  正直に言うと嘘つきは嫌な顔をした。  分かっていたけど言われたくなかったと言う顔だ。  「でもそれだけじゃない・・・それは分かれ」  オレは囁く。  嘘つきの身体は綺麗だ。  細身の身体をしなやかな筋肉が覆う。  身体中にキスしたくなる。  なめたくなる。  でもオレが一番好きな嘘つきの身体の部分はここだ。  オレは嘘つきの左手腕の断面にキスをする。  オレを取り戻すために失ったコイツの左腕の残骸。    滑らかに皮膚が張られ、元々左腕などなかったかのようなそこにオレはいちばん興奮する。  舐める。  吸う。  まるでフェラしているみたいに。  嘘つきもあえぐ 。  ここでも嘘つきは感じる。     「オレはお前が可愛いよ・・・ホント」  オレはさんざん嘘つきの左腕の名残、を楽しんでから、胸にキスした。  乳首を舐める。  オレは抱かれるのが専門でやってきたけど、相手の身体を愛撫するのは嫌いじゃない。  むしろ楽しい。  嘘つきは喘ぐ。    オレの胸に手を伸ばしてくるが、その手を押し止める。  「・・・あのさ、今日はオレがお前を抱いていい?」  オレは嘘つきの首筋を舐めながら囁く。  嘘つきが目を見開く。        いや、何回か言ってるだろ。  そんな驚かなくても。  「・・・ダメか?」  オレは固まっている嘘つきにささやく。  嘘つきのもう勃ちあがっているものを取り出すためにズボンと下着を一気に脱がしてやるために。  嘘つきか固まってしまったのでオレは上半身しか脱げてない。  オレは自分から見せつけるようにゆっくり脱ぎ捨てる。  オレの勃ちあがっているものを嘘つきの鼻先に突きつける。  「これをお前の後ろに挿れたい」  オレは嘘つきに囁いた。  その顔は見ものだった。  まるで処女の女の子だ。  「これを挿れるなんて」そんな、みたいな顔だ。  嘘つきの中ではオレか嘘つきに挿れるっていうのはやはりなかったらしい。  「お前のに比べたらオレのなんてささやかなもんだろ。久しぶりでも大丈夫だって」  オレは嘘つきの耳朶をかじりながら囁いた。  嘘つきは汗をかいている。     オレの本気がわかってくれたようだ。  「・・・オレさ。初めてセックスした相手はアイツなんだよね。一回しかしてないけど」  オレがアイツとのセックスの話をし始めたので嘘つきはムっとした顔をする。  「・・・違うって。まあ、このセックスが酷くてね。全く気持ち良くなかったんだよ。だから、まあ切れた肛門がなおるのを待って、オレは気持ち良いセックスを追究することにしたわけ。あんなセックスはごめんだったから」  アイツに抱かれたその後は、とにかく相手を見つけて手当たり次第にセックスをした。   どうすれば気持ち良くなるのか追求したかったからだ。  気持ち良くなる、それを目的にセックスしまくった。  相手はどうでも良かった。  「まあ、ビッチだったよ。何人くわえ込んだか分からない。病気も何回も貰ったし、危ない遊びに手を出して死にかけた。セックス中毒だったよ。さすがに、30近くなってからは自重するようになったけどさ」  オレが言う言葉を嘘つきは怪訝な顔で聞いていた。     何故、今ベッドでこんなことを言い出すのか、と言った顔だ。  嘘つきは貞操観念をとやかく言うヤツじゃないというか、他人にオレを抱かせて、その跡楽しむようなことをしていた位のオレと変わらないイカレたセックスするヤツだ。  まあ、オレを連れ戻してからは誰にもオレを触らせなくないみたいで、やっと独占欲ってのを覚えたみたいたけど。  オレが今嘘つきのモノであるならオレが何人と寝てようと気にしないだろう。  アイツを、今もオレが好きなことは問題だけど。  だから嘘つきはオレが何が言いたいのかわからないのだ。    「・・・お前のモノになったけど、オレね、お前にそれを確信させてやれるモノが何もないんだよ。オレの穴は誰にでも挿れさせてやった、お前だけじゃない。それに・・・確かにオレはアイツが好きだ。この瞬間でも」  オレの言葉に嘘つきは怒りを瞳に宿す。  そうだよな、他の男への愛の言葉なんて聞きたくないよな。  わかってる。  わかってる。  嘘つきは唸り声を上げて、オレの首に手をかけ押し倒した。    「聞けって!!」  オレはオレの喉を押さえつけ、オレを犯そうとした嘘つきに怒鳴る。  なんとか声が出た。  嘘つきは、オレが伝えたいと思っていることがまだあることを悟り、喉に入れた力を緩める。    「オレ、抱かれる専門でやってきたから童貞なんだよ。抱こうとか最近まで考えてなかった。・・・まあ、アイツがオレに勃たないならアイツにオレが挿れてやればいいとか思ったりしたんだけと・・・つまり、平たく言えば、オレの童貞もらってくれない?アイツじゃなくて、お前にやりたい」  オレは言った。  何にもない。  お前にあげれるようなもの。  誰でもこの後ろの穴で受け入れてきた。  誰とでもした。  気持ちも正直アイツにある。  お前とのセックスは特別だとオレは思っているけど、お前にそれを確信させてやれるものなんてない。   オレはお前と行くよ。    どこまでも。  オレの意志で。  でも意志を縛れてしまうお前にはそれさえわからなくなるだろう?    「誰も抱いたことはないんだ。だからお前を抱きたい。それだけはお前だけにしてやれる。お前以外の誰かをこの先絶対に抱かない・・・一度でいいんだ。オレに抱かれてくれない?オレの童貞もらってよ」  オレはのしかかる嘘つきに囁いた。  「てか、抱きたい。可愛いんだ。お前が。・・・可愛い」  オレは下から嘘つきを抱き寄せた。  嘘つきはまた固まっていた。  「お前はオレに嘘しかつけない。でも、お前だって一度だってオレを好きだと言ってくれてないんだぞ、嘘以外では」   オレは軽いキスをその固まった唇にくりかえす。    嘘つきが怒ったようにオレの唇に噛みついた。  睨まれる。  わかってる。   わかってる。  お前はホントのことを言えない。  そして、全身で行動でオレを好きだと言っている。  「痛いなぁ。でも、オレが好きなら挿れさせて。お前に入りたい。お前の奥まで入りたい。・・・お願い」  オレは嘘つきの耳元で繰り返す。    そして勃ちあがったそれを嘘つきの腹にこすりつける。     「・・・お前だけだ。お前だけだ」  オレは何度も言う。  そう言えることが嬉しかった。  他の誰とも違う。    オレはお前が抱きたい。  他の誰とも違うことを教えてやりたい。  オレにはお前が特別だ。  愛してると言ってはやれないけど。  嘘つきの顔が泣きそうになる。  そう言われたかったのだオレに。  「お前だけだ」と。  それが分かって切なくなった。  「お願い・・・抱かせて?抱きたいのはお前だけだ」  オレは囁いた。  嘘じゃない。   アイツを抱いてもいいと思った。   抱きたかったわけではない。  でも、今ホントにコイツをオレは抱きたい。  嘘つきの顔がくしゃりと崩れた。  可愛い。  嘘で人を操り、殺す、卑劣で残酷な男。  嘘しかつけない男。  嘘と闇でできあがった殺人鬼。  そうだ。  コイツはこの世界にいない方がいい。  そうだ。  その通りだ。  そんなことはわかっている。  でも、・・・今はオレの可愛い、オレだけの男だ。  オレはコイツを封じ込める。  オレも一緒に。  永遠に。      「抱くよ?」   オレは嘘つきにキスする前に言った。  まるで処女のように嘘つきは強張っていた。  でも、嘘つきは今度は固まらず、オレの唇を舌を受け入れた。

ともだちにシェアしよう!