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解除 3

 「ギザギザがあるんだ」  その子は言った。  最近は寝てばかりいる。  心の負担を和らげるためだろうと、情報屋は言っていた。  傭兵はせっかくワンピースやらドレスを持ってきたのにこの子に着てもらえないと寂しそうだが、コイツのことはどうでもいい。   情報屋は詐欺師に前にもましてひっきりなしに寝室に連れ込まれている。  詐欺師の企みの決行はもうすぐらしく、部屋に1人閉じこもることも多いが、時間さえあれば情報屋を抱いている。  なんか前より情報屋が消耗しているので心配したら  「自業自得ってな、あるんだよ」  と遠い目をして言われた。  情報屋は詐欺師に行動を縛られているので、何が起こるのかは教えてくれない。 それでもある程度はこの先起こることを把握して、しどうやってだかそのヒントをあの人やスーツに送ることまでしてみせた。  そうしたから、あの人は詐欺師のパソコンの画面にまで現れた。  情報屋はすごい。  もしかしたら、あの人や詐欺師や傭兵より強かかもしれない。  一番最悪の条件の中で、それでも出来ることを諦めない。  あの人やスーツとも、詐欺師や傭兵とも、情報屋がたどり着きたいゲームの終着地は違うことはわかっている。  情報屋が詐欺師を受け入れたのは俺とあの子を守るためなことも俺もわかってる。  「それだけじゃない」  と情報屋は言うけど。  情報屋は情報屋で次に打つ手を考えているみたいだ。    俺にわかっているのは、俺やあの子があの人や情報屋の邪魔になっていると言うことだけだ。  俺達がいるから、あの人も情報屋もやりにくい。  俺はもう一度、この子を連れてあの人の元に戻らないといけないんだ。    本当は情報屋もスーツの元に帰してあげたい。  でもこの人にはこの人の動き方があり、この人の狙いがある。  俺が邪魔してはいけないのはわかってきた。  だから俺はあの子にヒントをもらうことにした。  あの子や詐欺師がしていることに、俺の洗脳を解くヒントがあるはずだから。  そして、あの子は言った。  「キザギサがあるんだ」   と。  この子は詐欺師と繋がる。  どうやってんのかわからないけど繋がる。  詐欺師がネットに繋がり、どこへでも行くためにはこの子の能力が必要らしい。  SNSなどの公共の場所や、解っているアドレス、解っている電話番号には詐欺師は入り込めるけれど、暗所番号が必要な場所や、知らないアドレスなどには入り込めない。  だから、今まではSNSで獲物を漁っていた。  自分のアカウントに繋がってきた者を狩ってきた。  誰もが詐欺師に洗脳されるわけてはない。  詐欺師の言葉を信じたり、好意を抱くことが詐欺師の能力の引きがねになる。  俺がそうし、洗脳されたみたいに。  まるで蜘蛛がその巣を張るように。  だが、この子を得て詐欺師は今、どこへでもいける。  この子にはどんな場所に入るための番号もわかるからだ。  じっと待つより獲物は多くかかり、この前教団のシステムに入りこんでいたようにどんな場所にても忍び込める。  電話番号だろうが、アドレスだろうか、暗所番号だろうが、アカウントナンバーだろうが。  この子は自主的に詐欺師に力を貸している。  この子に詐欺師の洗脳は効かないから。  詐欺師に脅されているのだ。  スーツを傷つける、と。   そう情報屋が言っていた。  「言うこと聞いたって傷つけるに決まってるじゃないか、言うことをきくだけ無駄だ」  俺はそう指摘したが、この子には洗脳が通じないのと同じ位、そういう理屈も通用しないらしい。  嘘がわからないから洗脳されないが、嘘がわからないから騙されるという・・・。  詐欺師は洗脳は出来なくても、騙すことには成功したわけだ。  詐欺師らしく。  ともかく、この子は詐欺師と繋がる。  詐欺師が人の頭の中で何をしているのかを知っている。  そこにヒントがあるのではないかと俺は思ったわけだ。  俺は実際、詐欺師のコントロールを一度外しかけている。  詐欺師をあの人だと思い込んでた時、あの人の声が聞こえた。  「ソイツから離れたらまた挿れさせてやる」     その瞬間、腕の中にいるのがあの人ではないことに気付けた。  一瞬だけど俺は洗脳を解いた。  洗脳を解くことができれば、俺は逃げれる。  この子を連れて。      そうすれば、あの人やスーツが動きやすくなる。  そしてあの人が全てを終わりにする。  詐欺師が沢山の人を殺すのを止められる。    絶対帰る。  強く決意している。  挿れていいってあの人は確かに言った。  そんなのどうやっても帰るだろ。  帰ってあの人を抱く。  絶対。  言い逃れは許さない。  帰るしかないに決まっている。  そのためにはこの洗脳を外さないといけないが、それをどうすればいいのか考えるには、残念ながら俺はそんなに、というか。     あんまり賢くはないのだ。  て言うより、バカだと思う。   勉強とか全然だったし。  今は学校に行ってないから、あの人に勉強を見て貰っているのだけど、あの人がブチ切れるレベルなんだよね。  スポーツだけしていれば良かったスポーツエリートの典型で。  高校もスポーツで入ったようなもんだし。  「中学レベルからやり直しだ」とあの人に数学とか英語を教えられているわけで。  バカは恋人にしないと言われたら頑張るしかないわけで。  この先あの人の手伝いをしていく上できっと頭脳は必要になっていくわけだし。  こういうの自分がガキだっての思い知らされてちょっと切ない。  好きな人にバカなことを指摘されるし。  「覚えたり理解したり以前に自分で考えるってことが出来てない。それでは生き残れない」  あの人は良く言った。  「素直なのは・・・可愛いけどね」  そっとキスしてくれたのは覚えてるし、キスだけで終わらなかったのも忘れてない。  あの人はあの人は本当にいつでも俺を好き放題・・・。   それはいい。  それはいいんだ。  帰ったら今度は俺がするからそれはいい。  しかし、いくら考えても俺には分からない。  あの人や情報屋みたいに、何か手を思いついたりしない。  俺にはこういうのは無理だ。    ので、賢い人に考えるもらうことにした。  あの子だ。  大学の先生なんだから賢いだろうし、詐欺師と繋がっているから何かしらわかるはずだ、と。  で、ギザギザの話になったわけだ。      

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