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解除 5
「君は意志を縛られてこそいないが思いこまされている。それはなかなか外すことは難しい。とにかく・・・君には結論から話すことにする。下手に考えるな。それより、考える前に動くな。動く前に私に相談しろ。私は色々空気を読むことができなかったり、言っていることを正確に理解できていないことがあるが、君よりマシだ。信じられない・・・何も考えずに動くなんて。その頭は飾りか?使わないんだったら外しておけ!!」
バカだバカたとあの人にも言われ続けてきたけれど、ここまで辛辣に言われたことはない。
でも反論出来ないのて俺はソファに横たわるあの子の前に正座して、うなだれる。
いつも考える前に動いてしまう・・・。
「結論だ。あくまでも仮定だが、その洗脳を外すためにはあの男が君を縛っているキーワードを見つける必要がある。あの男はまず、好意なり、嘘を信じさせることから能力を発動させる。そしておそらく、あの男は君の心のギザギザを見つけ出す。そしてそこから君に入り込み、支配する」
あの子は言った。
「ギザギザ・・・」
俺は繰り返す。
「そうた。私が必要な数字や記号を見つけることができるのは、そのギザギザが見えて、そのギザギザに合う数字や記号を探せるからだ。それと似たことをあの男は行うことができる。洗脳は自分の否定から始まると言ったな?自分の『罪』を認めることから始める。罪を許してもらう為に、新しい価値観を人間は受け入れる。あの男はその罪を見つけ出す。あの男に支配されれば、それを許される。君の知らないところであの男により君は幸せにされている。許してもらっている。だから逆らえない。だから、君があの男に渡してしまった『罪』がなんなのかを見つけ出し、尚且つその罪に君が向き合わない限り・・・支配からは逃げられない。キーワードだ。君の心を支配しているキーワードだ。それを見つけなければ」
あの子は言った。
俺は困ってしまった。
俺の『罪』?
そんなの。
そんなの。
分からないよ。
「バカなこと?」
俺は尋ねる。
うん、これは結構な罪かも。
行動力には絶対的な自信があるけど、計画とかそういうのはさっぱりだ。
「それは仕様であり、罪ではない」
あの子が容赦なく言った。
ひどいことを言われている。
「君は彼の言葉を聞いて洗脳から逆らえた。つまり君のキーワードは彼に関することだ。君が持っている罪。君が罪だと思っていること。それを使って君を・・・あの男は支配している。あの男に従っている時、君はそれを許される。だから従わざるを得ない・・・何か心当たりはあるか?」
あの子の言葉に俺は呆然とした。
彼ってあの人だよな。
あの人に関することでゆるされたいこと?
俺が許されたいこと?
俺の罪?
「・・・どうした」
あの子の無表情な顔は今日は良く動く。
感情がないように見えて・・・本当は沢山の感情が動いているんだね。
今は驚きと、心配そうな表情がそれとわかるほど、その顔に在る。
「何故泣く」
あの子に言われて俺は気付く。
俺は泣いていたらしい。
「その、許されたいってことを、許されなくてもいいって思わないと洗脳って解けないんだろ?」
俺はあの子に聞く。
「・・・そうだな。そう自覚した時、その洗脳は解ける」
あの子は戸惑いながら言う。
泣き始めた俺に困っているらしい
「じゃあ、無理だ。洗脳解けないよ・・・」
俺は崩れ落ちたように泣き始めた。
俺の罪。
俺が許されたいこと。
「だって俺、許されたい・・・」
俺はそれがずっと無理だと思っていたから。
許して欲しい。
許して欲しい。
俺を許して欲しい。
俺は許されたい。
「俺は俺があの人を愛することを許されたいんだ・・・ずっとずっと・・・」
俺は詐欺師に何をつかまれているのかを思い知った。
俺は誰かに許して欲しかった。
愛していることを許して欲しいとずっと思い続けていたのだ。
あの殺人鬼を。
あの楽しみだけで人を殺す男を。
俺は愛しているのだから。
あの人を愛している。
それが俺の罪。
それを許されたいのが俺の罪。
ならば、この洗脳は解けることはない。
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