165 / 275

祭りがはじまるまで 2

 あの人が困ったような顔をした。  舐めるのをやめた。  ずり上がってきて、僕の頬に自分の頬をすりつけた。  甘えた猫みたいに。  俺の頬をなでて涙を指先で拭う。    「嫌じゃない・・・嫌じゃないから・・・僕は・・・」  あの人は困ったような顔をしていた。  本当に困っていた。  言葉も続けられないくらいに。  俺はあの人を抱きしめてしまう。  「・・・そんなに僕に挿れたいの?」  あの人はため息をついた。  「あんたの中まで俺は欲しい。俺は、あんたが全部欲しい!!」  俺はあの人を抱きしめながら言った。  酷くされるのも、甘やかされるのも、追い詰められるのも、全部この人ならいい。  そして、この人の中まで全てがほしい。     どんなに残酷な生き物だと思い知らされても、この人が欲しい。  この人がいい。  この人だけがいい。  「・・・ああもう!!」  あの人が俺の腕の中で呻いた。  「・・・可愛すぎる!!」  あの人は俺の腕の中から俺を見上げた。  その目の満足げな光に俺は息をのんだ。  こんなに幸せそうなあの人は見たことがなかった。 「もういい。僕が限界。もうだめ。お前なんなの可愛いすぎる」  あの人は上機嫌だ。  意地悪だった気分はどこかへ言ったらしい。  俺を四つん這いにさせて、腰をつかむ。    「してあげる。いっぱいしてあげる。何、そんなに僕が好き?」  あの人は俺の穴にそれを押し当てる。  「・・・愛して」  俺が言い終わる前にあの人が入ってくる。  やや強引に、性急に。   でももうじれきった身体はその衝撃さえ快感でしかない。  俺は大声を出した。    白濁を迸らせた。     長く止められていた快楽は身体の全てを焼き尽くす。  俺はシーツに崩れ落ちる。  「いいよ。いっぱい出して。いっぱいしてあげる。もう可愛い。僕を愛してるの?」    あの人の声がにやけている。  顔は見えないのにどんな顔しているのかがわかる。  「愛してる・・・ああっ!!」  俺が言うとあの人が腰をつかんだまま突いてくる。  その激しさ腰使いに身体を震わす。  暴力的な衝撃でさえ、この身体には快楽だ。  あの人がつくりあげた身体。    「言って、もっと言って」  あの人が強請る。  酷く突きいれながら。  「愛してる愛してるあいして、・・・ああっ!!愛してる!!」  俺は叫ぶ。  心からの言葉だ。  深く奥まで突き入れられた。  俺は涎を出して痙攣する。  中だけでイく。  気持ちいい。  気持ち・・・ああっまた来る。  この波が止まらなくなるのを俺は知っている。  「言って?」  あの人が囁く。  俺は切れ切れに叫ぶ。    愛してると。  あの人はうれしそうだ。  顔見えない。  どんな顔してるの?  愛してる。  あんたもそうだろ?  そんなにそう言えば喜ぶんだから。  でも・・・。  愛してる愛してる愛してる愛してる。  あいしてる。  俺がいくら叫んでもあんたは返してくれない。  「可愛い。可愛い。可愛すぎる」  あの人は呻くけど。  わかってる。  わかってるけど。    俺には言ってくれないの?  その切なさが一片胸の奥に落ちていった。    あの人は狂ったように、俺を壊すように抱き続けた。  オレもあの人を求めつづけた。  でも俺が求めていたのは快楽なんかじゃなかった。  

ともだちにシェアしよう!