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祭りがはじまるまで 2
あの人が困ったような顔をした。
舐めるのをやめた。
ずり上がってきて、僕の頬に自分の頬をすりつけた。
甘えた猫みたいに。
俺の頬をなでて涙を指先で拭う。
「嫌じゃない・・・嫌じゃないから・・・僕は・・・」
あの人は困ったような顔をしていた。
本当に困っていた。
言葉も続けられないくらいに。
俺はあの人を抱きしめてしまう。
「・・・そんなに僕に挿れたいの?」
あの人はため息をついた。
「あんたの中まで俺は欲しい。俺は、あんたが全部欲しい!!」
俺はあの人を抱きしめながら言った。
酷くされるのも、甘やかされるのも、追い詰められるのも、全部この人ならいい。
そして、この人の中まで全てがほしい。
どんなに残酷な生き物だと思い知らされても、この人が欲しい。
この人がいい。
この人だけがいい。
「・・・ああもう!!」
あの人が俺の腕の中で呻いた。
「・・・可愛すぎる!!」
あの人は俺の腕の中から俺を見上げた。
その目の満足げな光に俺は息をのんだ。
こんなに幸せそうなあの人は見たことがなかった。
「もういい。僕が限界。もうだめ。お前なんなの可愛いすぎる」
あの人は上機嫌だ。
意地悪だった気分はどこかへ言ったらしい。
俺を四つん這いにさせて、腰をつかむ。
「してあげる。いっぱいしてあげる。何、そんなに僕が好き?」
あの人は俺の穴にそれを押し当てる。
「・・・愛して」
俺が言い終わる前にあの人が入ってくる。
やや強引に、性急に。
でももうじれきった身体はその衝撃さえ快感でしかない。
俺は大声を出した。
白濁を迸らせた。
長く止められていた快楽は身体の全てを焼き尽くす。
俺はシーツに崩れ落ちる。
「いいよ。いっぱい出して。いっぱいしてあげる。もう可愛い。僕を愛してるの?」
あの人の声がにやけている。
顔は見えないのにどんな顔しているのかがわかる。
「愛してる・・・ああっ!!」
俺が言うとあの人が腰をつかんだまま突いてくる。
その激しさ腰使いに身体を震わす。
暴力的な衝撃でさえ、この身体には快楽だ。
あの人がつくりあげた身体。
「言って、もっと言って」
あの人が強請る。
酷く突きいれながら。
「愛してる愛してるあいして、・・・ああっ!!愛してる!!」
俺は叫ぶ。
心からの言葉だ。
深く奥まで突き入れられた。
俺は涎を出して痙攣する。
中だけでイく。
気持ちいい。
気持ち・・・ああっまた来る。
この波が止まらなくなるのを俺は知っている。
「言って?」
あの人が囁く。
俺は切れ切れに叫ぶ。
愛してると。
あの人はうれしそうだ。
顔見えない。
どんな顔してるの?
愛してる。
あんたもそうだろ?
そんなにそう言えば喜ぶんだから。
でも・・・。
愛してる愛してる愛してる愛してる。
あいしてる。
俺がいくら叫んでもあんたは返してくれない。
「可愛い。可愛い。可愛すぎる」
あの人は呻くけど。
わかってる。
わかってるけど。
俺には言ってくれないの?
その切なさが一片胸の奥に落ちていった。
あの人は狂ったように、俺を壊すように抱き続けた。
オレもあの人を求めつづけた。
でも俺が求めていたのは快楽なんかじゃなかった。
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