166 / 275
祭りがはじまるまで3
夢精ってやるせない。
目を覚まし、下着を汚していることにきづく。
俺はため息をつく。
自分だけでは上手くやれないからこうなるわけで。
あの人じゃないとダメな身体が憎い。
昨夜の夢はあの人と最後にした時の。
どうせ見るならあの人を抱いた時の夢を見たかった。
でもそれは夢になんかしなくても、細部まで覚えているのですぐに呼び出せるのだけど。
でも思い出さない。
自分でする時も思い出さない。
・・・止まらなくなるから。
俺にすがりつく腕とか、恥ずかしがる顔とか。
切ない吐息とか。
いつもとは違う俺の名前を呼ぶ声とか。
ヤバい。
思い出さない思い出さない。
あの人がいない場所でそれはあまりにも不毛だ。
あの人がいても、そっちはさせて貰えないのはよくわかってある。
戻りさえすれば・・・。
させてくれると言ったことは忘れてない。
とにかく。
今はどうしようもない。
俺は隣りで眠るあの子を見下ろす。
大人なんだよね?
そこはいつも納得いかない。
中学生?
下手したら小学生の高学年くらいの少女にしかみえない。
俺達は拉致されてからはずっと一緒に寝てる。
俺はこの子には安全だからだ。
情報屋と同じ位安全なのだ。
皮肉なことにこの子を愛するスーツはこの子にとって詐欺師や傭兵位に危険だったりもする。
大人しく寝ていられないだろうから。
無邪気な寝顔に微笑む。
可愛い。
妹とかいたらこんな感じなのかな。
本当は一回り以上年上だけど。
この子に欲情だって?
スーツ・・・。
やっぱりあんたおかしい。
変態だ。
断言する。
俺は着替えて汚れた下着を洗うためにシャワーへ向かう。
バスルームはふたつある。
こちらの寝室と、詐欺師と情報屋のいる寝室だ。
こんなホテルの高級な部屋知らない。
逃げ出す手段を考えあぐねている。
詐欺師が掴んでいるオレの心の鍵、あの子の言うギザギザは俺にはどうしようもないものだった。
俺にはあの人と出会ってから罪悪感がずっとある。
あの人は人を殺す。
それも楽しみながら殺す。
残酷に、全身の皮を剥きながら。
しかも俺はそれに手を貸している。
あの人が俺の為に、悪者しか殺さないと言ってくれて俺はそれでなんとか罪悪感をごまかしている。
俺だって生き残るために殺している。
銃を持って襲ってくる人間相手にそうそう死なないからと手加減出来ないこともある。
俺は首を飛ばされたなら死ぬことだってあるわけだし。
あの人が今人を殺すこと、俺が今人を殺すこと、を俺は誤魔化すことはできる。
「正義の味方」そのキーワードは俺の免罪符だ。
だけど。
消せないモノもある。
あの人は、俺と会う前には罪のない人達も殺してきたのだ。
間違いなく。
それは仕事だったかもしれないし、単なる快楽のためだったかもしれないし、気まぐれだったかもしれない。
その人達は何の罪もないのにあの人に残酷に殺されたのだ。
俺だって、たまたま気に入らなかったならそうされて、死後死体を犯されていたかもしれない。
あの人はそういう人なのだ。
あの人が殺した人達。
家族はいたのだろうか。
恋人はいたのだろうか。
どれだけ苦しかっただろうか。
考えないようにしても、その思いは消えない。
俺は死人達に叫ぶ。
許して。
許して。
それでも俺はあの人を愛しているんだと。
考えないようにして、考えても仕方ないとして、でも胸の奥にあるその罪悪感。
それを掴まれてしまったのだ。
あの詐欺師に。
これでは・・・どうやっても解除できない。
泣きそうになる。
それにもう一つ泣きたくなることもある・・・。
俺はシャワーを止めて寝室へ戻る。
服は情報屋が買ってきてくれてる。
俺はあの子の朝食を用意するために備え付けられているキッチンに向かう。
俺はため息をつく。
あの子とあの人を見たときから思っていたことがある。
あの人はあの子に優しかった。
そんなことは有り得ないのだ。
あの人が興味を持つ相手は大概なぶり殺す相手だ。
しかも、あの人はあの子に手を出してしまうスーツに理解をしめした。
馬鹿にはしても、笑いものにしても、いつものあの人に比べたらたいしたことない。
なさすぎる。
いつものあの人だったら、あの子と一晩すごして、我慢しすぎて憔悴しきったスーツをもっと馬鹿にした。
あの子に触れないで苦しむスーツを、スーツがキレるまで、笑い嘲るはずなんだ。
そういう人だ。
スーツがキレて殺しにくるところを(殺されないけど)殺すつもりで満タンなのだ。
そういう人なのだ。
殺意を抱きたくなるまで、人を追いつめるのが楽しいのだ。
人の感情をとり乱すのが大好きなのだ。
人が怒って泣くほど悔しがるのが本当に楽しいのだ。
嫌がらせをすることをどこまでも追求する人なのだ。
・・・本当になんで俺、あの人が好きなんだろ。
わかってたけど、あらためて思う。
性格最悪だよね。
でも、そんなあの人があの子には優しかった。
紅茶いれたり、一緒に飲んだりしていた。
人間みたいに振る舞っていた。
俺はわかってる。
・・・あの子に優しいんじゃない。
・・・スーツに手加減したんじゃない。
あの子に誰かを見たのだ。
そして、スーツに多分、自分を重ねたのだ。
多分あの人は、その人には色々我慢したのだ。
俺みたいに出会ったその日に、その場で犯したりはしないで。
あの子にしたみたいに優しくしたのだ。
泣きそうになる。
あの人に誰かいたのは知ってた。
絶対に「好き」とか言ってくれないから。
あれだけ「可愛い」とか、俺に自分が選んだ服を着せて「すごく似合う。お前は素敵だ」とか平気で甘いことは言える人なのに。
でもその言葉は言わない。
どんなに甘くなった瞬間でさえ。
どんなに態度や視線で好意を伝えてきても。
ベッドで蕩けるほど甘やかしても、飢えたように俺を求めても。
絶対に言ってくれない。
それは意味がある。
そういうことなんだ。
多分その人には言ったのだ。
そして、傍若無人で好き放題のあの人が、セックスを我慢したのだ。
気に入らなければ、暴力みたいな激しいセックスで俺を泣かせる あの人かその人にはそうしなかったのだ。
わかってる。
昔のあの人は人間だった頃もあった。
最初からあそこまで残酷だったわけじやない。
人を剥いて殺して、死体を犯すような生き物だったわけではない。
人間だった頃のあの人の話だ。
俺が出会った時にはあの人はもう化け物で。
だから、あの人が、俺にあの人の最大限で優しくしてくれているのも、あの人が俺をとても好きでいてくれているのもわかっている。
言わないだけだ。
あんたは俺を好きなんだ。
間違いなく。
でも、その人はどうしたの?
あの人が愛する誰かを手放すはすがない。
多分死んだのだ。
その人が今も好きなの?
絶対に聞けない答え。
何故なら答えはわかっている。
だから、きかない。
ともだちにシェアしよう!