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祭りが始まるまで 6
白い煙が部屋に充満していく。
あの子が咳き込むが、これは催涙弾ではない。
だとしても、俺にはそれほどはきかない。
それでも俺は吸い込まないように息をとめる。
ゆっくり効く毒かもしれないからだ。
あの子には伏せてハンカチで口を押さえるようにいう。
白く霞む視界を目を閉じて消す。
目に作用するモノである可能性もあるからだ。
呼吸をとめて目を閉じて、どこまで動けるか、だ。
あの人みたいに人の呼吸や気配を読むことは俺には出来ないけれど。
俺は弾けるように煙の最中に飛び込んだ。
まさか俺がそちらに飛びこんで来るとはおもわなかったらしく驚く声がした。
「抵抗するな!!」
声がした。
声がこごもっていた。
おそらくあちらはゴーグルやボンベを使っているのだ。
その声に向かって跳んだ。
見えないが何かにぶち当たりそれを掴み自分ごと吹き飛ぶ。
掴んだのが肩だとわかった。
それだけ分かれば動ける。
俺は身体に染み込むまで練習したからだ。
不死身がどういう意味なのかわかるか?
死ぬほど以上の練習が出来ると言うことだ。
しかも文字通り死ぬほどの辛い訓練が可能だ。
そして俺は自分で言うけど、身体能力は世界レベルだ。
俺が積んだ練習量はわずか一年で通常の人間のそれより何十倍の価値がある。
俺は一瞬で脚と腕を肩にからめた。
掴んだヤツの肩を外した。
ついでに締め落とす。
「・・・何を!この薬は効くはず・・・」
驚く声がする。
そこか。
やはり、なんかこの煙にはあるんだな。
その声に手を伸ばす。
足音が右に動く逃げ出した。
居場所を修正して跳ぶ。
掴んだ。
喉か。
頸動脈を抑えればすぐに落ちた。
あと何人いる?
カタン カタン
二カ所から音がした。
二人だ。
多分。
俺の肺活量は1000ccを軽くこえる。
常人の倍以上だ。
だからまだ動ける。
聞こえた音の一つを選んで飛びつく。
だが、それはもう待ち構えられていた
焼きくような痛みがわき腹にする。
脇を刺された。
何?
サバイバルナイフ?
引き抜こうとそいつがする前に腹筋に力を込めた。
「・・・抜けない!!」
ソイツがあせった声をあげた。
俺の体脂肪率は市販の体脂肪計などではエラーが出るレベルだ。
ナイフを掴んでいた手を捻る。
相手が倒れる。
合気の技だ。
俺は倒れた相手の首を締め気絶させた。
後一人。
ナイフはそのままにしてソイツをさがす。
ガチャ
聞き慣れた音にとっさに横に跳ねた。
銃が抜かれる音。
ゴシュ
気の抜けたエア音。
そして背中に走る痛み。
サイレンサー付きの銃だ。
弾は突き抜ける。
痛い。
だがこれで方向はわかった。
俺は振り返りそこへとんだ
引き倒し掴んだのは脚だ。
躊躇なく瞬間で折り、首を締め落とす。
銃さえ撃たせる間は与えない
慌ててベランダに飛び出し、呼吸する。
さすがに限界だった。
そして、窓を全て全開にし、あの子をベランダに連れ出す。
短時間だったせいか、少し咳こんでいるが、大丈夫。
俺に触れられて、悲鳴をあげる元気もある。
白い煙が開けた窓から外へ拡散されていく。
それを吸わないように、ベランダの端であの子と座る。
屋上から来たのだ。
ロープがぶら下がっている。
背中から撃たれた傷がふさがり始めている。
頭じゃなくて良かった。
俺の回復力では頭を撃たれたら一時的に機能を停止してしまう。
捕食者であるあの人とは違うのだ。
腹のナイフも抜く。
血が吹き出したが、すぐに止まるだろう。
肉と肉の隙間を覗き込めば、触手が蠢くのが見えるだろう。
前に戦った植物人間達は触手のような植物が擬態した化け物だったけれど、俺だって、この触手こそが本当の姿なのかもしれない。
俺は化け物なのだ。
「大丈夫、俺も人間じゃないから」
じっとみつめる、あの子に言う。
そう言えばそれは言ってなかったな。
「・・・君たちはなんのために現れたのだろう?」
あの子はつぶやく。
「わかんない。わかったところでどうにもならないし」
俺は肩をすくめる。
そう言うのはあの人とかの得意分野だ。
たまに何か考えているみたいだけど、あの人のも興味本位だし。
俺はそれより気絶させて侵入者達を確認する。
奇妙な連中だった。
用意周到なのに、奇妙に殺意がない。
刺してくるし撃ってくるのに。
本気の攻撃なのに殺意がない。
だから殺さずに済んだけど。
煙はもう部屋の外へ出て行ったみたい。
室内を覗き込む。
床で気絶する侵入者の1人をみて俺は思わず声が出た。
「あれ?」
それはスーツの部下の1人だった。
俺は慌てて部屋に入り、他の侵入者達を確認する。
あ、俺に射撃を教えたくれた さん。
あ、俺にボルダリングを教えてくれた さん
あ、俺と訓練の合間にゲームしてくれる さん
で、この人は俺と筋トレしてくれる さんだしね。
「あれ?」
俺は首を捻った。
全員スーツの部下だ。
もしかして。
寝室から詐欺師と情報屋が飛び出してきた。
3呼吸ほどの間なことを考えれば素早い。
詐欺師はシャンプーだらけの身体にガウンだけ、情報屋も似たようなもんだ。
叫んだのは情報屋だった。
「このバカ!!せっかく助けにきた連中を倒したのか!!」
だよね。
俺を殺せないと知ってたから・・・殺意はなかったのだ。
俺を止めるために攻撃をしてきても。
やってしまった。
「せっかくオレが苦労してメッセージを送って・・・この時間帯、コイツを引きつけていたのに!!このバカが!!」
情報屋が逆上する。
・・・俺もバカだけど、あんたそれは言わない方がいいんじゃ・・・。
詐欺師が冷たい目であんたを見下ろしてるよ。
「だって!!だってオレ言ってるだろ、お前を止めるって!!」
情報屋は慌てるけどもう遅い。
多分お仕置きされる。
性的に。
気の毒に。
てか、どうしよう。
どうしよう。
俺もチャンスをつぶしてしまった??
恐らく自分の意志では離れられない俺のために、薬で俺を眠らせ、奪回するつもりだったのだ。
しまった。
頑張りすぎた。
俺もあの人にお仕置きされる。
コレ。
俺は途方にくれた
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