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祭りが始まるまで 6
「・・・失敗?」
僕は眉を顰める。
「あの子が全員を叩きのめした」
犬が頭を抱える。
「・・・助けに来たメンバーに誰ひとり気づかなかったのか?」
僕は言う。
救出スタッフにはガキと親しそうなメンバーを選んでおいた。
もし、ガキにガスが効かなくてもガキがすぐに気付くように。
「ガスに目をやられないように目を閉じていたらしい」
犬がため息をつく。
多少ガスにやられようが、そう簡単にガキがやられることはないと思っていたが、まさか目を閉じて、数秒で全員倒すとはおもわなかった。
まあ、一人くらいついでに勘違いしたガキにまちがって殺されたらいいとは思っていたが。
まさか全員倒すまで気付かないとは。
途中で気付くと思ってた。
僕のミスだ。
僕が思っていた以上にガキは優秀で、
僕か思っていた以上にガキはバカだった。
・・・ガキには誰も近づけなくないのだ。
本当は。
我流の人を殺しながら身につけた僕の技術より、ガキにはコイツらの技術の方がいいかと思って犬達のところで訓練させていた。
僕と同じ位殺して身につけろというのはガキには酷だからだ。
が、気がつけば犬の部下共と必要以上に親しくなっていたのは気に入らなかった。
僕とガキに対応する犬ですらムカついて、隙があれば殺そうとしているのに、余計な奴らまで増えて。
ガキがこれほど分かりやすく僕に夢中でなかったのなら、全員僕が殺していただろう。
「仕方ない・・・僕が行こう。傭兵はいないんだろ?」
僕は立ち上がる。
僕達はガキ達の上の部屋にいた。
「間違いない。アイツから連絡はうけている」
犬が頷いた。
情報屋はコンビニに防犯カメラをつかって連絡してきた。
教団に僕達が現れたことから、コンビニのカメラを使った連絡が通じたと確信したらしい。
コンビニのレジでふざけながら変顔をしながら日付と時間を送ってきた。
助けろ、と。
傭兵がいなくて、詐欺師が油断している時間だとすぐわかった。
傭兵がいなければ、詐欺師などアマチュアでしかないし、確かに詐欺師の恐ろしい能力だか通じなければ不死身なだけの男にすぎない。
まず信じさせることが男の能力のきっかけである以上、そんな間がないなら犬の部下達に能力は通じない。
「僕が行こう」
僕はため息をつく。
これは避けたかった。
何故ならガキは詐欺師の支配下にある。
詐欺師は傭兵がいなければド素人だが、ガキを使うことは出来る。
ガキは素人じゃない。
頭こそ悪いが戦闘力は凄まじい。
それに僕が詐欺師なら、僕が現れたならガキに僕を攻撃させる。
やりにくさとかではない。
恋人が恋人と戦う。
愉快な見ものじゃないか。
そうされることがわかっているので僕は現場に行かなかったのだが、ガキの相手は不意打ちでなければ僕じゃなきゃ無理だろ。
犬を放ってガキに殺させるのも楽しいが、犬を殺せば情報屋がこちらの味方ではなくなる可能性があるのだ。
それにガキが泣く。
他の男のために泣くガキは見たくない。
僕や犬はガキ達がいる部屋の上にいた。
僕は立ち上がる。
傭兵はまだ帰ってきてない。
傭兵よりはガキの方がバカなだけ闘いやすい。
とは言え・・・。
本気で殺しにくるガキ相手は簡単にはいかないだろうし、相当痛めつけることになるだろう。
仕方ない。
足をもぎとろうが、目をつぶそうが、腹をぶち破ることになっても。
お前を取り返すためなら僕は、お前相手でも何だってする。
お前を僕は絶対に手放さないからだ。
大丈夫。
後で優しく抱いてやるからね。
さあ、ガキを迎えに行こう。
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