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祭りが始まる迄12
「もう一回だけ、ね?」
あの人に強請られたなら頷くしかない。
というより、もうほしい。
明け方まで突っ込まれていたそこが、疼き出す。
抱かれることに慣らされ、欲しがることを教えられた身体は、あの人に触れられたなら簡単に蕩けてしまう。
本当はあの人を抱きたいけど、抱かれるのも嫌いじゃない。
俺は自分から脚を開く。
あの人が優しく微笑んだ。
「優しくする」
あの人は僕の耳をかじりながら囁いた。
その間も胸を弄られる。
昨日も一晩中弄られ続け、腫れたそこは敏感になりすぎて、優しく触れられるだけで思わず声が出る。
ここだけでもイけるように俺の身体を変えたのはこの人だ。
「吸って・・・」
思わず強請る。
あの人が笑った。
いつもなら、焦らされたり意地悪を云われるのに、さすがに昨日の今日なので優しい。
唇をそこにくれた。
「吸われんの・・・好き」
俺は喘ぐ。
舌でが乳首に絡み、優しく押しつぶし、そして吸われる。
熱が下半身に溜まる。
甘く噛まれた。
身体が跳ねる。
また優しく吸われた。
気持ちいい。
俺もあの人を気持ち良くしようとあの人のモノに手を伸ばす。
「・・・ダメ。今はダメ。気持ち良くなってて?」
あの人にその手を掴まれる。
お詫びのつもりらしい。
・・・わかってない。
この人は後で優しくすればいいと思っているところがある。
本当にわかってない。
でも唇か優しい。舌が優しい。声が優しい。指が優しい。目が優しい。
優しいだけのこの人はとてもレアなので、俺はそれに溺れることにした。
「可愛い・・・」
あの人の舌が胸から下へとたどっていく。
へその中でそれを動かされたら、思わず勃起したそこから白い液が零れた。
こんなとこまで気持ちいいことも教えられた。
あの人の舌はさらに下へと下がる。
あの人は僕の性器にはあまり触れない。
いつもなら。
だけど今日は違った。
優しく先端にキスされた。
溢れたモノで汚濡れたそこをあの人の舌が綺麗に舐めとる。
あの人の赤い舌が俺のをなめて、吸う。
その光景に僕は滴らさせてしまう。
あの人はこんなことは普段絶対しない。
俺にさせても。
綺麗な唇が俺の先を咥えた。
ダメだ。
出してしまいそうだ。
綺麗な指に握られ、あの人が俺のを喉までつかって口で扱いてくれている。
俺は泣きそうになった。
嬉しい。
挿れさせてくれた時もしてくれたけど、アレは俺のが自分のだと示すためで・・・、これは違った。
俺を気持ち良くしようとしてくれているのだ。
いつだってこの人とするのは気持ちいい。
でもそれは支配されるようなソレで、今この人がしてくれているのは奉仕だった。
裏筋を何度もなぞられて思わず声が出た。
舌は優しくうごく。
俺を優しく気持ち良くしてやりたいという思いに満ちた行為だった。
自分の快感を後回しにしても、俺を気持ち良くしようとしてくれていた。
「・・・あっ、も、出る・・・」
俺はあの人の髪を掴みながら呻いた。
あの人が俺を見上げる。
俺のを咥えながら。
濡れたような目の光
いつものどんなに甘くはなってもどこか危険な色は今は優しいだけの色になっている。
その唇に激しく扱かれ、強く吸われ、俺はあの人の口の中に放ってしまった。
それをあの人は嚥下した。
白い喉が動いた。
俺は途方にくれたようにあの人を見下ろした。
飲んでくれたの?
どうしよう。
嬉しい。
「好き。好き。大好き」
俺はあの人にだきついてしまう。
「・・・僕を嫌いになるな・・・ならないで」
あの人は俺を抱き締めながら呟く。
「酷いことした。ごめん。・・・またしてしまうかもしれない。でも、嫌いにならないで・・・」
あの人は震えている。
またするのかよ。
呆れたけど。
「お前が僕を嫌おうがどうしようが手放さないときめていたけど、手放さないけど、嫌われるのは嫌だ。嫌いにならないで・・・僕を好きでいて」
あの人はまた言った。
だから思わず言ってしまった。
聞かないままできたことを。
「あんたは俺が好きなの?」
一度もいわれたことはない。
可愛い可愛いとは言われているけど、好きだとは。
いや、わかってる。
あんたは俺が好きだ。
好きなんだ。
でも、「好きなのか」と尋ねられて困ったようにオロオロと狼狽している姿を観ると傷つきはする。
「お前は可愛い・・・」
そういうのがやっとだ。
震える瞳。
あっそ。
まあ、いい。
俺はため息をついた。
「・・・いいよ、言わなくて。俺はあんたを愛してる。それで十分」
俺は単なる事実として言った。
ここはさばけていくしかない。
いいんだ。
俺はあの人を抱きしめて背中を軽く叩いた。
それに・・・。
「お前は何もわかってない」
あの人の低い声がした。
その声はいつものものと違って俺は、はっとした。
顔を見ようとしたけれど、あの人も強く俺に抱きついているので見れない。
「わかってるよ・・・全部わかって愛してる」
俺は言う。
「何もわかってない」
あの人が怒ったように言った。
俺を絶対に好きだとは言わない男が言った。
俺を好きな時に欲しがり、そのためになら俺の苦痛になど気にも止めない男。
酷いことばかりするくせに、後で優しくすればいいと思っている男。
そのくせ俺が自分を嫌うことを絶対に許さない男。
「わかってる・・・あんたを殺していいの俺だけなんだろ?」
俺の言葉にあの人は震えた。
それは愛の言葉だと俺は知っていた。
詐欺師が見せる悪夢の中で俺はあの人をまもるためにたたかっていた。
あの人が無慈悲に殺した人々はあの人の死を求めていた。
口々に訴えながら。
あの人かした酷いことを。
あれは幻覚。
それは今ではわかってる。
でも、あの人が死んだ人達にしたことは多分それ程事実と違いはしないだろう。
俺はそういう場面を何度も見ているのだから。
人々は叫んだ。
ソイツに苦痛を。
自分達と同じ苦痛を。
死を。
「ごめんなさい」
俺はそう叫んだ。
でも、でも、でも・・・。
俺はその人達に向かって攻撃していた。
何の罪もなく。
そんな殺され方をされる必要なとなかったのに、あの人の気まぐれで、楽しみで、嬲り殺された人々をもういちど殺そうとしたのはこの俺だった。
あの人を守るためだけに罪のない人々を殺そうとしたのは俺だった。
あの人を守りたかった。
あの人がどんなに酷い人でも。
それがどんなに罪深いことなのかもわかっていた。
あの人が残酷に殺したこの人達こそが、あの人を裁く資格があるのに。
俺は俺のためだけにこの人をまもりたかった。
あの人は悪いことがわからない。
だから平気で殺す。
楽しいから。
でも俺はわかっている。
何が悪いことなのか。
なのに俺は山刀をふりかざす。
残酷に殺された哀れな犠牲者達に。
俺のためだけに。
本当に罪深いのは俺だ。
「ごめんなさい!!」
俺は叫んでいた。
許されることなど絶対にないのに。
あの人を渡せない。
それでもあの人を渡せない。
あの人を守る。
それがどんなに間違っていても。
「ごめんなさい!!」
俺は絶叫した。
その時だった。
確かに俺は聞いた。
突然聞こえた。
あの人の声だった。
「・・・お前は、お前だけは僕を殺していい」
あの人は言った。
方法が見つかれば俺があの人を殺せと。
俺があの人を滅ぼせと。
「お前ならいい」
と。
その声には殺した人々への罪悪感など全くなかった。
そんなものこれから先も望めない。
ただあの人は望んでくれた。
俺に殺されることを。
与えてくれたのだ。
今のあの人は悪者しか殺さない。
それがあの人と俺がいれる理由。
俺はあの人の過去にさえ押しつぶされそうだ。
なのにあの人がこれからも罪のない人々を殺したなら、俺は恐らく壊れてしまう。
だからあの人は俺にくれた。
俺にあの人を殺す許可を。
全てのあの人が殺した者達の無念を晴らす許可を。
俺が殺した人々から逃れられるように。
「お前ならいい」
あの人は言った。
それは。
俺に全てをくれる、
まようことない、愛の言葉だった。
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