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祭りが始まるまで 14
「・・・大丈夫か?」
自分でも驚くほどつまらないことを言った。
「大丈夫」
彼女はしっかりとした口調で言った。
だけど涙ぐんでいる。
「ほどくから・・・少し我慢してくれ」
私は椅子に縛られた彼女の手足を解放するため、彼女に触れる。
彼女はピクリと私の指が肌に触れた時震えた。
拒絶反応だと知っているのに、動悸が速くなる。
あの男にしては優しい扱いを彼女にしていた。
縛ったままだし、部屋の外に椅子ごと彼女を放り出してはいるが、乱暴に投げ捨ててはいないし、そっと彼女に触れぬように椅子ごと運んでくれたようだ。
室内にいるのは男と少年だ。
何しているのかは知っている。
男に取り付けられた盗聴器は床に脱ぎ捨てられた服の中で機能して、少年の喘ぎ声などを正確に拾っているからだ。
詐欺師やアイツを逃がしてしまった。
だが、男にはまだ次のプランはあるらしい。
とにかく、男が満足して出てくるまでどうしようもない。
私は彼女の手足を解いて、やっと安心する。
抱きしめたい思いをこらえて、彼女を見つめる。
彼女がとても可愛い服を着ているのに気づく。
本物のレースを沢山つかったカラーまでついているドレスだ。
よく見れば古びている。
ビンテージだろう。
真っ白なドレス。
黒い真っ直ぐな髪にはレースのリボンまでくくられていた。
それは出会った時の6才の彼女を思い出させた。
ピアノの発表会で彼女は白いドレスを着てた。
和と洋の美しい融合。
美しい日本人形が、ドレスを着ているようなその姿に9才の私は見とれてしまったのだった。
「・・・とても可愛い。綺麗だ」
私は心から言った。
だがこんな服をアイツや少年が着せるはずがない。
他の男が着せたのか。
詐欺師か?
傭兵か?
それは不快だ。
だから、こういう服を探して買う、そしてこの服は捨てることを決めた。
「あなたなら必ずそう言うだろうと、彼と彼も言った」
彼女は淡々と言った。
アイツと少年か。
彼らに「ロリコン」認定されているのは・・・納得いかない。
出会った日から大人になったら結婚すると決めていた。
だが、その時想像していた彼女はもっと背が高く、大人な姿はしていたんだ。
途中で彼女が成長を止めてしまったんだ。
だからといって恋心か止んでしまえるわけがない。
それだけのこと。
それをロリコン認定されるのは私の中では納得がいかない。
でも。
彼女の幼いままで止まった身体に欲情してしまうのは事実だ。
彼女以外の幼い身体にはそうならなくても。
今、こんなところでさえ。
「少しだけ触らせてくれ」
私は懇願する。
懇願?
宣告だろ。
自嘲する。
もうこの腕は椅子に座ったままの彼女を抱きしめている。
彼女の身体が腕の中で強張る。
「抱きしめるだけだ・・・少しだけでいい」
私は囁く。
小さな耳を口で含んでしまいたいのを堪える。
小さな小さな身体が腕の中で震えている。
本当に小さい、壊れてしまいそうな身体。
薄い胸に歯をたてたい。
折れそうな首筋を吸いたい。
泣き叫んでも押し入ってしまいたい。
そして、そうしてしまったことを思い出してしまう。
でもしない。
今はまだ。
ただ抱きしめるだけで堪える。
それさえ彼女には苦痛でしかないのに。
嫌がり震える身体、それが分かっているのにそれに煽られる自分に嫌になる。
この何年も諦めたと思っていたのに。
月に一度、お茶をして話をするだけでいいと。
彼女が生真面目に定期報告のように呟く、SNSを見るだけでいいと思っていたのに。
もう彼女を苦しめなくていいと思っていたのに。
ダメだ。
私はこんなにも彼女が欲しい。
諦められない。
またきっと・・・抱く。
泣き叫ぶ彼女を傷つけるのだ。
彼女が許してくれるのを知っているから。
彼女の優しさと愛情につけ込んで。
触れられることさえ嫌がる彼女を押さえつけ、その耳にGPS付きの耳輪を取り付けた時のように。
彼女の安全の為だと言い聞かせながら、本当は自分から離したくなかったから。
出来るだけ優しく抱きしめていた。
どんな風に触れたところで彼女には、苦痛でしかないと分かっているのに。
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