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祭りが始まるまで 16
「壊れてきたな」
男は言った。
私達は教団の女に呼ばれた。
女は警察は呼ばない。
色々面倒だからだ。
権力に金を渡している分、色々と便宜ははかってもらえるみたいだが、我々を通す方が面倒がかからないからだ。
首を斬られ、腹を切り裂かれた死体。
全裸の身体には明らかな性交のあとがある。
開いた脚の間には精液の跡があり、口の中、そして信じられないことに喉の傷や、腹の傷のあたりにも精液が付着していた。
身体を斬って挿入したのだ。
「・・・悪意だな。お前達にムカついてきてる。詐欺師だけでなく傭兵もな」
男は冷静に傷口を確かめながら女に言った。
女は慣れたらしく、もう顔色一つ変えない。
大した女だ。
「犬知ってるか?腹斬ってそこに入れるのはすごくいいんだぞ。もうすごい蠢く感触でたまらない」
いらない知識まで男は披露してくれた。
「試したくはないね」
私は答える。
どこがいいんだ少年。
こんなド変態。
そう言えば死体で色々するのはこの男の専売特許だった。
「・・・そこまでおかしな人には見えなかったけど」
少年が言う。
流石に若干ひいている。
洗脳が解けたとのことで、少年も復帰だ。
もう詐欺師から逃げる必要はなくなった。
彼女は車で寝ている。
部下に見張らせている。
もう手放さない。
すぐ駆けつけられるところに常に置く。
ずっと側におく。
・・・事件が片付いても。
その結果どうなろうと、また彼女を苦しめても、てばなす気は毛頭ないない。
結局だきしめるだけではすまず、泣いて震える彼女の唇まで貪ってしまった。
無理やり口を開けさせ、縮こまった舌を強引に引き出した。
久しぶりに味わう彼女の舌はひどく甘かった。
どんなに嫌がっていても。
怖がっていても味わうことをやめられなかった
でも手放さない。
手放せない。
「・・・壊れていくんだよ。人を殺すの商売にするってのはそういうことだ」
初めから壊れている男が言った
「生誕祭はするんだろ?それでも」
男は女に言った。
女は頷く。
「一番大切な行事だ。止めるわけにはいかない」
女は断言する。
代表になってはいても、信者達は女の教えに従っているわけではない。
女の父親のカリスマなのだ、結局は。
父親から教えを受け継いだこと教団内で強く示すこの宗教行事を女は止めるわけにはいかない。
たとえ、全ての信者を殺したとしても。
信者を失う位なら、信者を殺した方がマシなのだ。
女の開き直り具合は清々しいほどで、父親の傲慢さがそこから見えた。
全てを欲しがり奪う。
カルトの教祖なんてそんなものだろう。
そして、信者達はそれに従うのだ。
その傲慢さを「強さ」だと信じて、自分達もそれに従うことで強くなれたのだと思い込むことで救われる。
まあ、救ってはいるのだろうな。
私は複雑だがそうは思う。
ただ・・・。
そこに生まれた子供達や、カルトの引き起こす事件に巻き込まれた人間達にはカルトは呪いでしかないだろう。
「・・・沢山死んでも?」
男が楽しそうに笑った。
「信者にとって死は終わりではない」
女は言ってのけた。
この女、そこでおこる慘劇ですら何か利用する気だ。
新しい教団をまとめるために。
「・・・そこに必ずあらわれる哀れな弟をあなた達は捕まえてくれるんだろう?」
女の笑みは、ふてぶてしかった。
男は笑った。
男は悪者が大好きなのだ。
女のことも気にいったのだろう。
ただ、女は知るべきだ。
この男は今では誰でもかれでも殺しはしない。
男が殺すのは悪者だけなのだ。
気に入った悪者ならばなおさらだ。
そして男が殺すのを誰にも止められはしないのだから。
「いいだろう。沢山の信者達を餌にして、嘘つき狩りをしようじゃないか」
男は実に魅力的に微笑んだ。
それは私が見ても美しかった。
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