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祭 1
「ねぇ、本当にこっちでいいのか?」
ガキが言った。
心配そうな目が僕を見る。
なんだ、その目は。
不安に揺れる目。
ガキは不安を隠さない。
素直なのだ。
見開かれた目の奥に揺れる影。
可愛いでしょ。
思わず首の後ろをつかんで引き寄せキスをする。
唇を合わせながら舌でその唇を割ろうとした。
中を貪りたくて。
ドン
突き放される。
と言うより、
思いきり車のドアに身体が叩きつけられる。
「ぐえっ」
変な声が出てしまった。
「・・・お前な、自分のバカ力を考えろ」
僕は呻く。
ガキは最近ますますバカ力になっていく。
まだまだ成長期なのだ。
ガキの身体能力や筋力は見た目以上にある。
確かにデカくはなっているけれど、それでもしなやかなアスリートの身体だ。
だが身体能力はその見かけをはるかに超える。
コイツの握力はちなみに100キロを超えている。
「ご、ごめん・・・」
ガキは慌てる。
僕を拒否したのではなく、犬が運転している車の中でキスされるのが恥ずかしかったらなのはわかっているので許す。
まあ、犬はキスを見るどころか僕とお前が家でやっている時以外のセックスの音声は全部拾って、僕か何を言っているのかをチェックしてるけどね。
ガキに言ったら発狂するので言わない。
知らない方がいいこともある。
僕も学習した。
それに、恥じらうガキってのはとてもいい。
まあ、本気でやりたいだけなら手足の関節を外して動けなくしたり、一時的に身体の自由を奪うツボをついてもいいし、何、ガキはそんなことしなくても気持ちよいところを触ってやれば嫌がりながらもすぐに陥落する。
僕がその気になれば、ガキが嫌がろうがなんだろうがこの好物座席で泣きながらイかせることもできるし、それはスゴい魅力的何だが・・・。
僕、メソメソ泣かれたり、「嫌だ」とか騒がれたら面倒くさいから殺してしまってからやってたんだけど、ガキに関しては泣き顔とか、抵抗とか、恥ずかしがるのとかめちゃくちゃそそられるんだよね・・・。
でも、後で怒られるだろ。
めちゃくちゃガキ怒るだろ。
なので・・・我慢。
人のいないとこですることは、どんなに泣いてもガキは本気では怒らないことを僕は学習している。
「何故、こちらに詐欺師が現れると思うわけ?詐欺師の狙いは教団信者達なんだろ?」
ガキが尋ねる。
肩を抱く。
これは構わないらしい。
赤くなる顔を楽しむ。
ガキの肩に頭をのせて、その耳に囁く。
「陽動だよ」
僕は言った。
詐欺師は教団の生誕祭の日にセミナーを開催していた。
2、300人は来るようなセミナーだ。
ガキがネットで洗脳された時に行くことに決めたセミナーだ。
最初はここで沢山の人間を殺すつもりなのかと思っていた。 その後、情報屋の情報からカルトとの繋がりを調べるうちに、詐欺師が教団への執着を知ることになった。
信者を傭兵に襲わせ、見せしめるように殺している。
これは予告だと僕は思っている。
ネットに入りこむ能力、洗脳する能力、そして犬の女の暗号解読能力を使って、必要な情報、そして必要な人材は手に入れているはずだ。
犬の女を手放したのは単に「もう必要ない」からだ。
生誕祭は大きな会場で行われ、各地に中継される。
1000人以上が参加する教団最大の行事だ。
出家、在家関係なく信者達が集う。
全ての会場をネット中継で結ぶ。
これは絶対に詐欺師が手を出すに決まっている。
会場に現れ、会場でも、ネットで中継している他の会場も、自分の洗脳下におき、互いに殺戮しあわせるのだ。
なのに、その日に詐欺師はセミナーを開催している。
信者達とは無関係自己啓発的な名目のセミナーを。
ガキが参加しようとしていたそれだ。
何のために?
そう陽動だ。
いや人質と言ってもいいか。
とにかく詐欺師はまずこちらのセミナーに現れるはずだ。
「・・・そこで殺人を起こすことで教団の生誕祭から俺達の目をそらす陽動?・・・そんなの意味ないよ。止めさせたらいいだけじゃない。会場を閉めてしまって中止させたらしまいだろ」
ガキが素直な感想を言う。
わからないのだな。
謀などすることもない素直さが可愛い。
バカとも言えるが、構わない。
可愛いからいい。
「ガキ、会場に来る奴らを逃がすわけにはいかないから中止になんか出来ないんだよ」
僕はガキの耳を舐めながら言った。
ガキは少し震えたが、怒らない。
赤くなるだけだ。
よし、ここまではいいんだな。
怒らせない程度にガキを弄りたいわけだ。
僕としては。
「なぜ逃がすわけにはいかないんだ?」
ガキは不思議そうに言う。
「ネットでお前みたいに洗脳された奴らだからだ。お前みたいに。いつでもどこでも、ネットを使って詐欺師が操ることが出来る奴らだからだ。野放しにしておいたら、詐欺師がそいつらをどう使ってくるかわからないだろう。集まってくれるのは助かるんだよ」
僕は説明する。
そう、単に沢山殺すだけならば詐欺師は人々を集める必要などないのだ。
ネットで洗脳した奴らに死ねと命じるだけでいいし、なんなら人を沢山殺してから死ねと命じれば各地で楽しい虐殺事件をたくさんおこせる。
詐欺師の能力はあまりにも危険で恐ろしい能力なのだ。
だが、詐欺師はそうしない。
集めて殺すことにこだわる。
実に非効率な、一カ所に集めて殺し合わせることにこだわる。
それは間違いなく、教団が引き起こした集団自殺と関係はあると思う。
ようするに、趣味の問題なのだ。
僕が単にたくさん殺すより、じっくり拷問するのが好きなのと同じだ。
だが、変に会場を閉ざし、閉鎖させてしまったなら教団の生誕祭に乗り込むために洗脳したやつらを違うように使う可能性はある。
そうなると読めない。
それよりは詐欺師が望むように会場に洗脳された奴らを集めている方がいい。
「陽動だと言うなら、こちらに
来てしまったら詐欺師の思う壺じゃないの?」
ガキの質問が素直すぎていい。
「そうだな。こちらの300人の虐殺を止めるのに手間取って生誕祭の1000人を死なせることになるかもね」
僕は正直に答える。
ガキは複雑な顔をした。
「・・・今回はね、詐欺師さえ最終的に捕らえるか消すことさえ出来れば、洗脳された連中は最悪殺されてもいいと『上』は考えている。いつ洗脳されていて詐欺師の命令で暴れだすかもしれない人間達がたくさんいるくらいなら、死んでくれた方がいいんだと『上』は考えている」
僕はため息をつきなから言った。
バカばかりだ。
権力を持ってる人間なんて。
・・・でも、詐欺師が生きている限り、詐欺師がいつまで趣味にこだわるのかはわからない。
もし、そうなった時の洗脳者達はどれほど危険な存在になるのか。
連中がネットで詐欺師とつながる限り、そして今どきネットに繋がらない場所などないということが、危険なのだ。
突然暴れ出す洗脳者達。
刃物を持って斬りつけてくるかもしれないし、テロリストとして国会議事堂などに爆弾をまいてつっこんだりするかもしれない。
全ては詐欺師の思いのままだ。
洗脳されたことは誰にも分からず、本人にもわからずに彼らはこの世界に潜む。
なら、詐欺師がまとめてそいつらを殺し合わせたいなら、むしろ殺し合って全員死んでくれる方が『上』にはありがたいのだ。
「そんな」
ガキは顔を歪めた。
例えばコイツ。
ガキが洗脳から解けなければ、どれほど恐ろしい存在になったか。
不死身の化け物。
まあ、厳密には殺す方法はあるが、でもこの恐ろしい身体能力を持ち、銃をものともしないガキが洗脳され、暴れたいだけ暴れたならどれだけの人を殺すだろう。
下手な捕食者など顔負けだ。
「酷い!!殺し合う方がマシだなんて・・・」
ガキは唇をかむ。
「全くだ。・・・誰かのいいなりになって人を殺したり攻撃したりするヤツは別に詐欺師が洗脳していなくてもいくらでもいるのにな。十分危険だからそいつらも殺しておけばいいのに、詐欺師に洗脳された奴らだけを殺すなんてのは不公平だよね」
僕も言う。
何も考えず、誰かに言われるがまま人を憎み、攻撃する人間など溢れるほどいる。
まあ、具体的な凶器を伴う攻撃ではないだけで。
でもそいつらも、そうしていい状況さえつくってやれば喜んで刃物をふりまわし、虐殺を行うのだ。
憎めと言われた人間達を憎みながら殺す。
歴史の上でそういったことは何度となくある。
人間は自分で考えるのが嫌いな生き物なのだ。
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