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祭 2

 教団のあの女はそういったバカ共を支配して幸せにしてやっていると思っている。  それはあながち嘘じゃない。  あいつらは幸せなのだ。  もう自分で考えなくていいから。  教団に限らず、巨大な何かに支配されたがっているヤツなんてこの世界にあふれるほどいる。    それに喜々として従い、支配者の望みのまま喜んで何でもするのだ。  それは他者を傷つけることさえ含まれる。    詐欺師か洗脳しているヤツらも、「許されたい」「みとめられたい」と言う何かと引き換えに詐欺師に洗脳されているのだ。  自分を手放したヤツなど・・・いくらでもこの世界にはいる。  自分で考えることなく他者を傷つけるものなどは大して特別ではないのだ。    ネットを覗いて見てみれば、詐欺師やカルトに支配されてなくてもそういうヤツらはいくらでもいるのがわかる。  おそらく詐欺師もネットを見て、ネットで獲物を見つけることにしたのだ。  ほら。  沢山の獲物がそこには蠢いている。  詐欺師は捕まえたい放題だっただろう。  詐欺師の獲物だけ殺すのは不公平だ。  僕はそう思う。  命令されて殺しにいくヤツらはおそらく詐欺師の獲物以外にも沢山いるからだ。  詐欺師の獲物達よりも、もう少し条件をととのえてやる必要はあるとは思うが。  詐欺師の獲物が危険だから死んでくれた方がいいならコイツらも始末するべきだろう。  「・・・そう言う意味じゃない」  ガキは呆れたように言った。  「・・・冗談だよ」  僕は笑う。    本気で思ってはいるけど。  でも。  ガキの首筋に軽くキスを落として、肩に頭を預けながら思う。    コイツだって洗脳されたのだ。  コイツだって許されたいと望んだのだ。  自分を手放してまで。  それが僕といることを許されたかったからだとしても。  全部、僕のせいだとしても。  他人のために傷付くことを恐れない、僕が知る限り愚かしいほどに真っ直ぐで、勇気というにはあまりにも考えなしの蛮勇を持つ男にも、弱さはある。    洗脳されるヤツらが特別弱いんじゃないのかもしれない。  僕は今回考え直したよ。  誰だってそうなる可能性はある。  お前は優しい。  優しいから弱い。  でも、お前は優しいから・・・僕でさえ受け入れる。  僕をお前は見捨てられない。  可哀想に。  僕のためにお前は弱くなる。  「だから僕はこちらに向かう。詐欺師がすることを止めるたに。詐欺師は僕らが行こうが行くまいがセミナーに来た連中を殺すのはわかっているからね」   僕はガキに言う。  「上は殺してしまってもいいと思っていても、それにのってやる必要はないし・・・殺させない」  僕は囁く。  お前はそうしたいんだろ?  お前が望むならそれで理由は十分だ。  僕はそれをなしとげる。      ガキが驚いたように僕を見た。    僕はふてくされる。  「なんで驚くんだ。僕は正義の味方だぞ。一人でも多く救う」  そのためにお前を酷い目にあわせたとしても。   勝つためにお前をボロボロにしたとしても。    僕は正義の味方だ。   お前が望むから。      お前だけのために僕は正義の味方になってやる。   「うん」  ガキが嬉しそうに笑った。  本当に嬉しそうに。  肩にのせてる僕の頭に自分の頭をコツンとのせてきた。    たったと終わらせて、ガキを抱きたい。  そう思った。   「・・・で、スーツ。その子は大丈夫なの?」  ガキか運転している犬に眉をひそめて言った。  「寝ているだけだ」  犬は無表情に言った。  助手席には毛布にくるまれた犬の女が寝ているのだ。  犬は女を手放さないことを決めたらしく、取り戻してから今日までの一週間ずっと連れ歩いている。  夜もホテルに連れ込んでいるらしい。  「・・・目が腫れてる気がする」  ガキは目ざとい。  責めるような口調だ。  ガキがこういう話し方を犬にするのは珍しい。  ガキは拉致されている間、女の世話をしていたため、女を自分の妹か何かのように思い始めたらしい。  動物の世話をするのが好きなのか。  本物の犬でも飼ってやったら喜ぶかもしれない。  僕は生き物なんてごめんなんだが、ガキが喜ぶならいいかもしれない。  検討してみよう。    犬は答えない。  犬がこういう態度をガキにとるのも珍しい。  面白い。  「・・・突っ込んだのか?犬。お前のデカいのを?泣き叫んでる女の股を広げて思い切り突いてやったのか?」  僕はガキが聞きたがっていることをかわりにきいてやった。    「なっ!!」    ガキが真っ赤になって僕を殴った。   グーで馬鹿力で殴られた。    「ぐえっ」  僕はまた思い切りドアに叩きつけられた。  頭蓋骨にひびが入ったぞ。  誇張ではなく。    何でだ。   聞きたかったのはそういうことでしょ?  怒る理由がわからない。    「・・・身体の負担になるようなことはしてない」  犬はそうとだけ言った。    コイツ。  開き直りやがった。  挿れちゃいないか嫌がる女に何かしたと認めやがった。  「スーツ・・・」  ガキが困った顔をして何か言おうとした。  「彼女が私に二度と近付くなと言うなら私はそれに従う」  犬はヌケヌケと言った。    「スーツ・・・それはズルいよ」  ガキがため息をついた。    女はそんなことは言わない。    女は犬のする事に苦しんでも、犬を拒否出来ない。    犬はそれをわかって言っている。  「・・・分かっている」   犬は淡々と言った。   コイツ確信犯だな。  僕と同じで。    泣こうが喚こうが手放してなどやれないよな、犬。  可哀想な女。     可哀想なガキ。  でもそんなことどうでもいいよな。    僕はもう一度計画を練り直しながら思った。

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