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祭16
朝が来て、そういう相手をキスして街まで送り届けた後、男は子供の部屋に行く。
猫を抱きしめながら、泣きながら、寝ている子供。
その背中から抱きしめて、男も眠る。
仕事がら、一緒に寝る相手が誰であれ、深く眠ることはない。
いつ殺されるかわからないからだ。
でも、子供と猫と眠る時、男は深く眠れた。
どんなに泣いても怒っても、子供は男の腕を拒否しない。
これしかないからだ。
可哀想で愛しい。
男がしたことで傷ついた痛みを男の腕の中で癒やそうとする。
男の腕にすがりつく。
めったに口にすることのなくなった、男にはわからない異国の言葉を寝言で口にして、子供は泣きながら眠る。
可愛い。
男はその髪の匂いをかぎながら眠る。
優しく指で涙を拭い、その小さな頭にキスをする。
そっと触れるだけのキス。
こんなのは他の誰にもしない。
可愛い。
可愛い。
苦しくないよう、でもしっかりと抱き込む。
泣かせたことに胸はそれでも痛むのだ。
溢れるのは愛しさだ。
セックスをする相手にこんなものは感じたことはない。
大切なペット。
可愛いすぎる。
男は泣きながら寝ている子供に安らいだ。
そんな風に日々は過ぎていった。
子供は成長する。
当たり前のことだ。
もちろん可愛い子猫が好きだからといって、成猫になったら要らなくなるような最低の飼い主では男はない。
あれほど可愛いかった子猫が、目つきの悪い上に愛想のかけらもない、でもワガママこの上ない豚猫になっても変わらず可愛がっている。
子供が大人になるのは覚悟の上で飼ったのだ。
ただ、予想と違った。
猫の時よりも違った。
男の好みではないが美しい生き物になると思っていた。
いや、美しくはなくとも、こんな甘えた生活で育つなら、甘く柔らかな生き物になるだろうと。
それならそれで、和む。
ありだ、と。
そう思っていた。
全く違った。
子供はもう17になっていた。
背も伸びた。
男に甘えるのは変わらない。
夜は男に抱きしめることをせがむのも変わらない。
ワガママなのも変わらない。
男が連れてくる相手に怒って猫と部屋に閉じこもるのも。
変わったのは子供があまりにも男の好みの外見に育ってしまったことだった。
甘やかして育てているのに何だ、その切れるような眼差しは。
刺すようにするどい目。
氷のように動かない美しい無表情な顔。
男好みの危険な美貌。
ただ、男の腕の中では緩む。
勉強の方は最低限のところで音をあげた。
男も美しく育った子供に対する家庭教師達の態度にイライラしていたので、それはそこでやめた。
男が行う銃や格闘術の訓練だけはまだ続けていて、これは子供、いや、少年は好んだし、プロ顔負けになってきていた。
訓練は少年の身体を男好みのしなやかな身体にしていった。
ただ抱きしめて眠るより、押し倒して味わいたくなる身体に。
無駄なく動き、猫を思わせるしなやかさでナイフを扱った。
危険で危うい野生動物のようで男は首をかしげる。
こいつは飼い猫なのに、と。
夜抱いて寝てるとわからなくなる瞬間があった。
安らぐのは変わらないのに、寝ぼけて思わず下肢に手を伸ばしてしまう瞬間が。
さすがに男は困惑していた。
それにまだ、ペットの性欲処理は続行中だったのだ。
たまに擦って出してやる。
腕の中であやしながら。
処理なはずが、おかしな気分になってしまうことに男は困ってしまった。
ペットに欲情する飼い主などいないからだ。
でも子供だった。
世間を知らない分、余計に子供だった。
だから、少年に何度となく迫られても。
貪りたくなる美味そうな身体を全て晒し、男の手で濡等された性器を腹にこすりつけられ、「あの人達みたいにして」とベッドで抱きつかれ泣かれても、耐えられた。
自分の股間が固くなっていることは認めざるを得なかったが。
「子供は抱かない」
そう言った。
やはり号泣する少年を、それでも抱きしめて寝た。
手管も何もない求愛の可愛らしさに救われながら。
少年も泣きながらも、絶対に男の腕を拒否しなかった。
男にしがみつきながら泣きながら眠った。
それが愛しかった。
セックスは大事だ。
楽しくて気持ちいい。
でもする相手は大事じゃない。
だから何故そんな相手のように少年がなりたがるのかがわからなかった。
その場しのぎの優しさをペットに与えているわけではなかったからだ。
それともペットは嫌で人間扱いされたいのか?
当たりは柔らかいし、出来る範囲で親切丁寧を男は心掛けてはいるが、いちばん大事なのは自分だけで、必要なら人間だって殺すのだ。
こんな仕事をしてる位だし。
でもペットは別だ。
ペットなら自分より優先する。
男はため息をつきながら少年を抱きしめていた。
少年が18になった頃に事件は起こった。
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