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祭 18
男がドアを開けると同時に猫と少年が玄関までやってくる。
猫は身体をすりよせ、少年も腕を広げ抱きついてくる。
いつもの光景。
いつもは猫も少年も甘く構うのに、今日の男はそんなことはしなかった。
少年の肩を掴んで引き離す。
そんな乱暴なことをされたことのなかった少年は目を丸くした。
その表情のあどけなさにやはり心は緩んでしまう。
でも男は確かめなければならなかった。
「殺したのか?」
はっきりと言った。
そう、その想像はそれほど違和感はなかった。
少年なら出来る。
部屋に忍び込み殺すことも簡単に。
普通に二階の窓から出入りしているのだ。
猫のように。
男が抱いた男達を車で送るその後をバイクで追いかけてきたのだ。
恐らく同じ道路ではなくわき道の山道をつかって。
買い与えたのはオフロードバイクで、少年はすぐに乗りこなしていたから。
そして、男が相手を降ろした後、殺したのた。
通りすがり刺しに殺すこと位、少年にはたやすい。
部屋に忍び込み刺し殺すことも。
そして、近道になる山道を使って帰ってきたのだ。
男より速く。
恐らくシャワーさえ使う余裕もあったたろう。
男は街に出たら、のんびり少年の好きそうな菓子などを買っていたから。
そして男が帰るのを待ち、その腕に抱かれて寝ていたのだ。
少年が泣いていたのは・・・いつもの嫉妬ではなかったのではないか?
震えていたのも、いつもの悲しさではなかったのではないか?
男は思い返す。
「お前が殺したのか?」
もう一度尋ねた。
少年は俯いてから、顔を上げて拗ねたような顔をした。
「・・・誰もいなくなったら・・・オレを抱いてくれるかもしれないだろ」
少年は悪戯を見つかった時のような顔で言った。
そんな理由。
そんな。
男は絶句した。
そして・・・納得した。
ああそうだな。
ああそうだ。
男は少年を抱きしめた。
教えてやらなかった。
躾の中には入ってなかった。
「人を殺してはいけない」なんて。
可哀想に。
そう思った。
人を殺すのを職業にしている男に育てられ、罪悪感さえ学べなかったのはコイツのせいじゃない。
「そんなにオレに抱かれたい?」
男は囁いた。
腕の中にいるのは危険な生き物だった。
人に歯をたて貪る。
なんてことだ。
たまらない、そう思った
少年の返事を聞く前にその唇を奪っていた。
触れるような優しいキスなら何度もしてきたが、唇を舌で割ってその舌を引きずり出すようなキスを少年にするのは初めてだった。
少年の身体が怯えたように固まった。
しているのは見ててもされてみるのは違ったのだろう。
でも許さない。
容赦しない。
お前が望んだんだろう?
何人も殺してまで。
あまりにも危険で美しい生き物。
もうこの魅力に逆らえるはずがない。
他の何も欲しがらず、自分だけを求める生き物。
たまらなかった。
もう飼うだけでは飽きたらない。
その奥まで奪いたい。
男はその舌をたっぷりと吸った。
甘く咬んでやった。
身体が震えていた。
しがみついてくる腕が可愛かった。
口の中を好きなだけ楽しんだ。
奥まで舐めてやり、舌を絡め、吸う。
立ってられなくなっている少年を抱き上げた。
「・・・警察が来るとしたら明日かな。ここに住めなくなっちまっただろ、お前のせいで」
それでも男の声は甘い。
「オレは18になった。・・・オレの国では成人だ」
首にすがりつきながら少年が一生懸命言う。
「オレ大人だ」
あどけなく言う。
子供は抱かないと言われ続けてきたから、もう大人だから抱けと言っている。
人を殺してはいけないことも知らないくせに、キスだけで立てなくなっているくせにそう言っている。
「ああ、そうだな」
そのあどけなさに痛々しさを感じながら男は寝室に向かって歩く。
構ってもらえなかった猫が怒ったように足元にからむ。
男は笑う。
可愛いペットはもう一匹だけになってしまった。
この腕の中の愛しい生き物はもうペットではない。
可哀想に。
これから男に貪りつくされる意味さえ本当にはわかっていないくせに。
大丈夫。
何一つ許してはやらないけれど、大事に大事に抱いてやる。
男は微笑んだ。
「お前はオレの恋人になるんだ」
男は囁いた。
そんなモノをつくったことはなかったが仕方ない。
ペットではもうないのだから仕方ない。
「恋人?」
恋人は無邪気に微笑んだ。
可哀想に。
男は優しいキスを繰り返しながら寝室に入った。
せめてベッドにはいるまでは夢見るように、と。
足に絡まる猫は締め出す。
ここから先はペットにはいらない。
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