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祭 24

 「バラバラにさせてね。邪魔されると困るからさ」  手斧を手にした傭兵が言った。  非常にヤバい。    僕は内心焦る。  身体の中に破片が入り込んでいるのが再生を遅らせている。  めり込んだ破片や金属を少しずつ肉から押し出してから再生しているからだ。  身体の中で破裂する武器とかつくると捕食者には有効。  そう研究所には情報を提供しよう。  僕はそうおもった。  「あんたもあの子みたいに手足無くしても襲ってくるのかな?」  傭兵は首を傾げた。  用心深い。    僕にはガキみたいな真似は無理だ。  ガキは手足を斬られたところで変わらず攻撃してくる。  むしろ身体のパーツが減った分かるくなったかのようにスピードまで増して。    アレはガキだから出来る。  あんな手足を急に失っても、身体のバランスを保て自在に動けるのはガキだけだ。     だが、そう思ってくれる方がいい。  時間が欲しい。  少しでも回復したい。j  「でも、あんたに時間を与えるわけにはいかないな」  傭兵は正しい判断を下す。    「お前は本当に詐欺師がお前の恋人を蘇らせると思っているのか?・・・アレは詐欺師だぞ?」  僕は傭兵に話しかける。  時間を稼げ。  そのためにはこれほどのヤツが理性を無くしてまで信じている話題がいい。  この男は狂っているのだ。  「あの人は狂ってる」   僕が拷問した傭兵の部下はそう言った。  本来はCEO誘拐と、それを邪魔しにくる組織と戦争するためにこの国に来たはずだったのだと。  作戦の全貌はいつもリーダーの傭兵しかしらない。  それに従うだけだった。  今回は最初から最後までおかしかった、と。  あげく、肝心な作戦の時には傭兵は指揮すらとらず、作戦だけたてて消えてしまったと。  「あの人は狂った。狂ってしまった。恋人が死んでから狂った。恋人が生き返るって言っていた」  僕が拷問したなかなか可愛い、いい男はそう言った。  痛みに泣き叫びながら。  あまりに可愛いかったからキスしたくなったが我慢した。  僕にはガキがいるからね。    自分の仕事を放り出して、部下達を死なせても、この狂った男にはやりたいことがあったのだ。  「・・・あの人は、あんなモノまで持ち込んで・・・」  部下のその言葉に僕は興味をひいた。    「騙されてるよね、お前。詐欺師は騙すのが仕事だからね」  僕は言った。  この問いは何度となく、傭兵自身が自分に繰り返した問いなはずだ。  傭兵は狂っている。  でも、理知的に狂っている。   信じるに値する根拠を求めながら狂っていたはずだ。  傭兵は止まった。  僕にではなく、自分に言い聞かせるために。  何度となくそうしてきたように。  「オレは蘇ったアイツを何度となく抱いた・・・オレがアイツを間違えるはずがない」  傭兵は言う。  確かめるように。  「中の具合まで一緒なんて有り得ないだろう。いくら外を取り繕ったところで。何度も抱いたアイツの身体だ間違いない」  そう繰り返し、傭兵は安心したような顔をする。    傭兵が抱いて、突っ込んだのは情報屋だ。  それは間違いない。  情報屋と傭兵の恋人は似ても似つかないだろう。  まして、穴の具合なんて。  だがその絡繰りは簡単だ。  詐欺師は傭兵の脳をハッキングしているのだ。  傭兵は傭兵の記憶の中にいる、自分の恋人を抱いたのだ。  おそらく、本人よりも本当にらしいだろう。  傭兵の記憶の中の感触なのだから。  だがそんなことを言っても納得しないだろう。  コイツは恋人を生き返らせたい。  そのためなら何でも信じるのだ。  だからコイツは詐欺師に洗脳されているのだ。  会いたい。   抱きたい。  触れたい。  洗脳はされたいヤツがされる。  これほどの男でも、自分を明け渡してしまいたいと思うのだ。  自分の望みを叶えてくれるなら。  怖いね。  カルトや詐欺師ってのは・・・拷問マニアの僕より最低だよね。  拷問でも明け渡そうとしない大事なモノを使ってその人間を従わせる。  その人間をその人間の大事なモノで壊すんだ。    傭兵はブツブツと何かを呟く。  ・・・マトモに見えてもコイツはマトモじゃない。  時間は稼げた。      よし、そろそろ着くころだ。      ズトンっ   重い音がしてそれが地面に叩きつけられた。  「遅いぞ、犬」  僕は言った。  汗だくになり、息をきらせた犬が立っていた。  「こんなモノを担いで・・・速くこれるはずがないだろ!!」  犬が肩で息をしながら言う。  「こんなもの」大体2メートルはある金属で出来た細長い箱だ。  箱と言うよりロッカー似た金庫のようだ。  どうやって明けるのか見ただけてはわからない扉がついている。  ピタリと密封されていることは見ただけでわかる。  おそく重さは中身も併せると100キロはかるく超えるだろう。  メタリックな光を持つそれは見るからに重量感があった。  「良く持ち運べたな」  僕は感心した。  途中までは車だろうが、ここに来るまでに、これを担いで歩いてくるように言ってあった。    それに重さだけの問題じゃない。    「恥ずかしくなかったのか?」  僕は感心した。  こんなモノ担いで街中を歩くなんて。  僕なら恥ずかしい。  嫌だ嫌だ。  仕事なら何でも出来るヤツって恥ずかしいよね。  「命令したのは誰だ!!」  犬が珍しく真っ赤になって怒鳴った。  恥ずかしかったらしい。  命令したのは僕に決まっている。  当然だろ。  それに半分以上嫌がらせだし。  「警察は締め出し、このあたりは規制しているな?」  僕は犬に聞く。   「手配済みだ」   犬はゼイゼイ言いながら答える。  結構。  予定とは違ったが、これでいい。   本当は詐欺師の前でこうしたかったのだけど。

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