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祭 27

 私は銃をアスファルトの上に転がる男に向けた。  ぷしゅう  奇妙な音を立てて、男は口から血を吹き出した。  笑ったつもりらしい。  確かに口角は上がっている。  「まだ余裕があるようだな」  私は素直に感心した。  だが。    ちぎれかけ、まるで伸びているように見える右腕を踏みにじった。    男は悲鳴をあげた。  「面白いものだな。これほど傷ついていても、さらに痛みを加えることが出来るなんて」  私は呟いた。     「ロリペド野郎・・・」  それでも男は減らず口を叩く。    私はさらに脚に力を入れた。  男は悲鳴をあげた。  でも笑う。  男は笑う。  楽しそうな声だった。  私は少し戸惑う。    「・・・意外だねぇ、騙されてたと分かっても、あの人を恨む気持ちにならないねぇ・・・さすがにわかった瞬間は犯して殺そうと思ったけどねぇ」  男はまるで世間話でもするかのように話す。  「あれが嘘だろうが何だろうが・・・オレには本当だった。嘘でも何でもいい・・・あの人はアイツに会わせてくれた」  男は不敵に私を見上げた。  「あの人は沢山殺すさ。嘘にまみれて。でもな、あの人の嘘で死ぬ人間は幸せなんだよ・・・」  男の言葉に「充足」と詐欺師の能力につけた名前を思い出す。  皆、詐欺師の嘘に喜んで死んでいく。    「喜んで死んでいけるなんて・・・この世界にどれだけそんなことかあるんだ?」  男は微笑んだ。  「それでもそんなモノは嘘でしかない」  私は吐き捨てるように言った。  私はいらない。  そんなモノはいらない。  「ああ、そうかい。・・・まあ、あんたはあんな身体も心も大人じゃない子を、引き裂くようにしながら生きて行くのが好きなんだろうさ。オレならそんなのごめんだね」  男は笑った。  その言葉が私に刺さるのが分かっていたから。  「言いたいことは・・・それだけか?」  私は男に言った。  「まあね」  男は唇を歪めた。  「彼女が言ってたよ。お前は『悪い人』ではないと」  私は男に伝える。  「・・・なるほど、それがオレを殺す理由か。イカレてんなお前。気持ちはわかるけど」  男は不思議なほど明るい目で私を見た。  「・・・そうだ。オレの女に近付くヤツは殺す」  私は断言した。  引き金を引いた。      何度も何度も。  嫉妬。    それが理由なのはわかっていた。  

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