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祭 29

 真っ白な服は嘘つきに似合った。  何の飾りもないからこそ。    嘘しかないこの大量殺人鬼は、その内部が腐敗すればするほど美しく見えるのだろうか。  沢山の人を殺しに行こうとしている男は今まででいちばん美しかった。    沢山の信者や父親に欲望のままに扱われた身体は、誰にも触れられたことなどないかのように清らかで、  自分で殺すことさえ面倒くさがるその手は、血の匂いも労働も知らないようにほっそりと白く、  空っぽの瞳は空っぽだからこそどこまでも透明だった。  「・・・ちょっと待てよ。オレはもう少し回復に時間がかかる・・・」  オレは呻いた。  嘘つきが振り返り優しく微笑んだ。  何  その笑顔。  そして嘘つきはバスルームの前のクローゼットに貼り付けられた鏡の前に立つ。  嘘つきは鏡に自分を映して頷いた。    ああ、綺麗だよ、  全くもって綺麗だよ。  オレは思う。    嘘つきはドアへと歩いて行く。  振り向きもしない。  何?  オレを置いて行くつもりか?  オレは起き上がった。  出て行こうとする嘘つきの肩を掴む。  嘘つきが困ったような顔をした。  「オレを置いていくつもりか」  オレは怒鳴る。    なんで?  今さら?  「   」  嘘つきは単語を口にした。  会話でない形なら嘘以外も少しは話せるのだ。  単なる事実や単語なら。  それは遠い国の土地の名前だった。  オレはその土地を知っていた。  「ここへ行きます」  前に嘘つきは単なる事実として言った。  切り立った赤い岩山、青い空、  そして濃い緑。    鮮やかな土地。  広大な土地。  「オレと行くんだよな?」   オレは悲鳴のように言った。  今さらオレをいらないなんて言うな!!  オレを置いて行くな!!  お前が何人殺そうとオレだけはお前といると決めたんだ。  嘘つきは振り返り、オレを抱きしめた。  「ここへ行きます」  嘘つきはそう言った。  そう言ったのに。  オレの身体は動かなくなった そして嘘つきは出ていった。

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