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祭 38

 「・・・楽しいか?」  冷たい声で言われた。  上から下までじろじろと見られているのがわかる。  女モノのホテルの制服を着た30男。    アイツの言いたいことはわかった。  おれだってこの現実は受け止め難い。  ため息をつかれた。  「お前の趣味に口を出したことはなかったが・・・」  アイツは頭を抱えてさえいた。  「違う。趣味でこんなことやってんじゃない!!」  誰が好んで女装して、後ろから精液たれながして、ノーパンで歩くか!!   いや、歩くだけじゃなくスカートたくし上げて、もうアソコモロダシでバイク乗ったり、走ったりもしてたけどね。  見せたいわけではなく、タイトなスカートだと動けないだけだ!!  「確かにオレは誰にでも股開くとこはあるけどこういう趣味はない!!」  オレは怒鳴った。  やむにやまれずだ。  確かに求められたら、複数プレイから、二輪差し、目隠し、拘束、玩具まで平気で応じるけど、これは違う!!  「・・・詐欺師の趣味か?」  嫌そうにアイツは言う。  「違う!!いや、違うとは言い切れない可能性もあるけど、アイツの場合・・・とにかく今回はそういうのじゃない!!」  オレは怒鳴った。  何で大量虐殺の前にそんなプレイをしなければならないんだ。    オレは会場近くでアイツの部下に捕まっていた。  改造したトラックの中でアイツに引き渡されたところだ。  感動的なはずの再会はくだらない言い争いになっていた。  「とにかく服をよこせ!!」  オレは怒鳴った。  この格好ではとにかくまずい。  「・・・はぁ」  アイツは溜息をつきながらアイツの部下がその辺から買ってきたTシャツと短パンとパンツを投げてきた。  トラックのコンテナが改造されていて、色んな機械や器具、流しまである。  ここにオレとアイツは二人きりになっていた。   オレはやっと忌々しい女モノの制服を脱ぎ捨てる。  女装はない。  今後するプレイにこれはない。  そう決意した。  濡れたタオルまて投げてくれたので、なんとか身体をふくことも出来た。  嘘つきにつけられた、歯形や吸い痕は消えているが、ドロドロに汚された体液の跡はどうしようもなく残っているのだ。  アイツの鋭い視線がそういう跡をみているのがわかるが気にしない。  オレの不品行はアイツには慣れたもののはずだからだ。  まあ、正直、もっと酷い状態、というより男とヤってる最中も見つかったことがあるので、その辺はわりと平気だ。  咥えて、もう一人に後ろから突かれてたとことかもあるし。  オレの性生活はめちゃくちゃだったからね。    着替えおわる。  短パンかよ・・・、もう寒いんだぞ。  でも、贅沢は言えない。  ノーパンスカートでぶらぶらさせているよりよっぽどいい。     「・・・じゃあ、オレは嘘つきを止めに行くから」  出て行こうとするオレの肩をアイツが掴んだ。  「お前は馬鹿か!!」  アイツに怒鳴られた。  「いや、止めないと。アイツホントにたちが悪いんだ。どうのこうの言ってもオレ位じゃないの?アイツが話位は聞こうとするの。出来るだけのことはしなきゃ」  オレはアイツに言う。  無駄だろうが何だろうが、オレは嘘つきを止める。  まだ勝負はついてない。  嘘つきを止めて、外国へ逃げる。  ・・・多分、オレが全部段取りするんだろうな・・・。  オレは偽造パスポートとか色々考えながら、とにかく向かおうとする。  お前だって、嘘つきをオレがとめたら助かるはすだ。    そうだろ?  途中まではオレ達の利害は一致してるんだから。    「まあ、オレに任せておけ。絶対止めるから。今のオレは完全に意志が解放されてる。嘘つきがオレがここにいることに気づかない限り、オレは嘘つきに従わさせられることはない。上手くやるさ」  オレはオレの肩をつかむアイツに振り返って笑いながら言った。  振り返って見たアイツは・・・全く笑ってなかった。  みしり  肩が軋んだ。  アイツが力を込めたからだ。  オレは悲鳴をあげた。  「バカが・・・」  アイツが呻いた。  怒ってる?  怒ってるよな、そりゃ。  散々色々しでかしてきたけど今回のが一番酷い。  殺人鬼に誘拐されて、化け物になって、おまけに殺人鬼を恋人にして帰ってきたもんな。  麻薬取引現場に飛び込んだ小学校時代とか、  不良グループの抗争に巻き込まれちゃった高校時代とか、  ライター気取って政治家と暴力団の繋がりみつけちゃって殺されかかった大学時代とか。  ライターになってからはさすがに自力でなんとかするようになったけど、いつもお前が助けにきてくれたもんな。  ライターになってからだって、今回だって途中まではお前のとこに帰るって思いだけで頑張ってきたんだ。  今回はしでかしすぎた。  「ゴメン・・・」  オレは苦笑いするしかなかった。  ゴメン。   ゴメン。  心配かけて。  お前が心配してくれているのは知ってる。  「でも大丈夫、嘘つきはオレだけは絶対殺さないから」  そう言いかけたオレは言葉を続けられなかった。  キスされたからだ。    オレはアイツの広い胸に抱きすくめられて、キスされていた。  訳さえわからぬままに。  

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